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タニラダー開発者、谷真一郎氏が語る/後編…アジリティ向上のメリット

2016.11.18

インタビュー・文=池田敏明
写真=勝又義人

 多くの日本人プレーヤーが海外で活躍するようになった昨今、日本人の長所の一つとして頻繁に挙げられるのが「アジリティ(敏しょう性)」だ。小回りが利き、加速力に優れ、急激な方向転換もできる。それが日本人プレーヤーの特徴であり、香川真司や清武弘嗣、原口元気といった選手たちは、特にこの部分が高く評価され、海外のクラブで主力を務めるようになったとされている。

 しかし、J1リーグ、ヴァンフォーレ甲府でフィジカルコーチを務め、多くのJクラブがトレーニングに取り入れている『タニラダー』の開発者である谷真一郎氏は、「日本人はアジリティに優れてはいない」と語る。「アジリティに優れていれば、一対一の局面で負けるわけがない」と。

 だからこそ、谷氏は『タニラダー』を使ったラダートレーニングを普及させ、日本人のアジリティ能力を高めようとしている。「できないことができるようになる」ためには、どうすればいいのか。谷氏がこれまでにどのようなキャリアを歩み、その中でいかにして現在、教えているメソッドに辿り着いたのか。本人に話を聞いた。

60メートル走で2秒ぐらい速くなった子も

――指導者として活動される中、「アジリティ」に注目し始めたのはいつ頃でしょうか。

谷真一郎 2001年3月にフランスのサンドニで日本とフランスが国際親善試合をしたんですが、雨上がりのぬかるんだピッチで、日本人が全くサッカーができなかったんですよね。ツルツル滑って、0-5と大敗してしまった。当時、その代表に私の教え子である明神智和(現名古屋グランパス)がいて、彼もツルツル滑っていたんですよね。どこに原因があり、どうすればフランスの選手みたいにあのピッチで動けるのかと考えたのがスタートでしたね。

――明神選手はそもそも、すばしこくて馬力がある選手というイメージがあります。

谷真一郎 でも、あのピッチではサッカーができなかった。それがなぜなのかを紐解くところから始め、自分で紐解いて選手たちに落とし込んでいきました。アジリティは当時まだまだ紐解かれていなかったですし、今も僕以外は紐解いていないと思っています。よく「日本人はアジリティに優れている」と言われますが、小さくてすばしこく動けるからそう言われるようになったのかなと。ブラジル・ワールドカップで日本が勝てなかった要因の一つに、最終局面での一対一で負けたことが挙げられます。アジリティ能力が高ければ、一対一では負けない。だから日本人はアジリティに優れているとは言えないんですよ。一対一の局面で負けるのには理由があります。なぜ抜かれるのか、相手の動きについていけないのかは紐解けば見えてきます。柏の選手に指導していた当時からそう考えていて、ラダートレーニングもその頃からやっていましたね。

――ラダートレーニングにはどのような効果が期待できるのでしょうか?

谷真一郎 滑っていた選手が滑らなくなるし、動きのスピードも上がる。ケガのリスクも減る。いろいろな変化が短期間で一気に起こります。できればジュニア世代のうちの、悪い癖がつく前にトレーニングするのが一番いいんですけど、大人になってからでも、時間はかかるかもしれないですけど変わりますね。横浜FC時代に指導した、当時40歳のカズさん(三浦知良)でも変わりました。

――今なお現役を続けるカズさんのフィジカル能力は気になるところです。

谷真一郎 持久力が高い。そしてそれを維持し続けている。それが今も現役を続けられる理由の一つだと思います。“ドーハの悲劇”でクロスを上げた選手に対応したのがカズさんだったじゃないですか。それもあるかもしれないですけど、守備時の体の使い方、足の運び方には興味津々でしたね。当時、カズさんは急転回で逆方向に行く時に、サイドステップのターンで2拍かかっていたんですよ。「カズさんこれ、1拍で行けますよ」と言ってトレーニングをして、1拍で無駄なくターンできるようになりました。ターンする時に大きくひざを回していると、足首に負担がかかってしまうんですけど、1拍で動くようにすることで負担が減り、ケガのリスクが少なくなります。

――ジュニア年代の頃からその動きを習得しておけば、負担が蓄積されないので余計にケガをしにくくなりそうですね。

谷真一郎 オスグッド病なども減ると思います。みんな「構えろ」と言われると、重心を低くして構えるじゃないですか。そうすると太ももの前の筋肉が引っ張られ続ける状態になり、オスグッドになりやすくなります。オスグッドを発症している子も、効率的な動きをすると痛みを感じずに動けるんですよ。つまり、効率的な動きによって安全性も高まるのです。

――谷さんが開発された『タニラダー』は特許を取得されていますが、その経緯を教えていただけますか?

谷真一郎 従来のラダーは長くて絡まりやすく、セッティングにものすごく時間がかかるんですよね。まずはこの問題を解決したかった。セッティングした時に芝生から浮いた感じになるのも気になっていましたし、長さについても、サッカー選手ってこんなに同じ動きを何回も繰り返さないな、短くしたいなと。あと、スタンスが狭いので、もっと動きやすいスタンスにしたい。そこで何かいい材料はないかと、ホームセンターを歩き回ったわけですよ(笑)。10年ぐらい試行錯誤して、今の形に辿り着きました。そしてこの『タニラダー』を使ったトレーニング方法をDVDにまとめて世に出そうとなった時に、妻から「出すんだったら権利を守ったほうがいい」と言われ、弁理士さんに相談したところ、特許が取れそうだということで申請していただき、取得するに至りました。

――『タニラダー』を活用したトレーニングのメリットはどこにあるのでしょうか?

谷真一郎 現在はラダーだけの販売はせず、どのようにトレーニングしたら良いのか、というメソッドを解説したDVDとセットで販売しています。子どもたちが従来のラダーでトレーニングしている様子を見た時に、小さなスタンスの中でちょこちょこ走っていたんですけど、これは本来の走る動きとは全く違いますし、スピードが上がるわけがない。こういった事態に陥るのを避けるためにDVDをつけています。速く走れない要因は、大きく分けて5つぐらいあるんですが、足が遅い子の大半はこの5つの要因のどれか1つ、あるいは複数が組み合わさって遅くなっているんです。それを一つひとつ改善していくと、スピードは上がっていきます。姿勢が変わり、動きが変わると、スピードは本当に短時間で変えられます。足が遅いと自信もなくしてしまいますし、運動に対してネガティブになっていきますが、そこが変わっていってくれるといいな、と思っています。

――小学校の体育などでも有効活用できそうですね。

谷真一郎 実は昨年の10月ぐらいに甲府市のスポーツ指導員の方に『タニラダー』のメソッドをお伝えしたんですが、そこの室長が「これは学校体育でやるべきものなんじゃないか」と考えてくださって、今年に入ってから学校の授業でのランクリニックが実現しました。時間が限られていたので教えたのは直線の走りだけだったんですけど、みんな速くなりました。60メートル走で2秒ぐらい速くなった子もいました。

――今回、実施して頂くセミナーには、指導者はもちろん、競技者も参加されると思います。より効果の高いトレーニングを行うために重要なポイントはありますか?

谷真一郎 ポイントはいくつかあるので、ぜひ今回のセミナーで理論を聞いて体で感じて、速く動くために何が必要かを整理してほしいですね。整理できると、走るのが遅くなっている理由、一対一に弱い原因が分かってきます。速く走るために何が必要なのかを指導者側が理解できていれば、選手への声のかけ方や見方も変わってくるので、聞いていただいて、なぜできないかを分析できるようになってほしいです。できない子をできるようにするためのメソッドを知っていただきたいですね。メソッド自体は全く難しくないです。ポイントも少ないですし、子供でも分かるように極力、難しい言葉を使わないようにして、シンプルに伝わりやすくしてあります。簡単に変われるので、たくさん実感して知っていただきたいですね。

――最後に、受講を検討されている方へメッセージをお願いします。

谷真一郎 できない子をできる子にするためのメソッドを日本全体で共有して、日本全体のレベルを上げたいと思っています。トップを目指す子でなくても、例えば走るのが遅くて運動が苦手な子ができるようになると、いろいろなものが変わっていきます。そんな変化が多くの場所で起こってほしい。だから一人でも多くの人に聞いてほしいですし、それを整理して、実際にトレーニングできるようになったら、いろいろなものが変わっていくと思います。どうなればよくなるのかをみんなで共有して、日本の底上げをしていきましょう。

 アジリティを高めるトレーニングの一環として広く普及しているラダーだが、正しい使い方をしないと、効果はむしろマイナスだという。谷氏は長年の研究の末に『タニラダー』を開発し、それを利用した効果的なトレーニングメソッドを確立させた。「できない子ができないようになる」。その効果をぜひ体感してほしい。

タニラダー開発者、谷真一郎氏が語る/前編…アジリティ向上のメリット

ヴァンフォーレ甲府 フィジカルコーチ
谷真一郎

愛知県立西春高校から筑波大学に進学し、蹴球部に在籍。在学中に日本代表へ招集される。 同大学卒業後は日立製作所本社サッカー部(現柏レイソル)へ入団し、1995年までプレー。
引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。 その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務める。
『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』である。

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