フットサル日本代表の一員としてAFCフットサル選手権に出場したGK藤原潤 [写真]=河合拓
フットサル日本代表は、4大会連続のフットサルW杯出場と大会3連覇を目指し、ウズベキスタンの首都タシュケントで開催されたAFCフットサル選手権に臨んだ。W杯の出場権が与えられるのは上位5チーム。日本は過去14大会すべてで4強入りを果たしていた上に、今大会に出場したチームは、「史上最強」とも評され、W杯出場は確実視されていた。しかし、準々決勝でPK戦の末に敗れると、順位決定プレーオフ1回戦でもキルギスタンに2-6で惨敗。大会3連覇どころか、W杯の連続出場を途切れるという最悪の結末に終わってしまった。
プレーオフ1回戦終了後、フットサル日本代表の選手たちはウズベキスタンの地に残っていた。現地で、選手たちは現実を受け入れられずに、それぞれに苦悩、後悔を抱えながら、それでも懸命に前を向こうとしていた。そのときにインタビューに応じてくれた選手たちの言葉を『タシュケントの夜に』という連載として記す。
第3回目は、3度のアジア選手権を経験していたGK藤原潤(バルドラール浦安)。GK関口優志(エスポラーダ北海道)に次ぐ、日本の第2GKだった藤原は、準々決勝のベトナム戦ではPK戦から出場し、シュートを1本ストップ。続く順位決定プレーオフのキルギス戦は先発出場したが、チームを勝利に導けなかった。多くの経験を積んできたGKは、日本がW杯の出場権を獲得できなかったことの責任を、重く受け止めていた。
以下、藤原潤インタビュー
――大会を振り返って、どのような感想を持っていますか?
「そうですね……。感想は、残り一枠となっていたW杯のチケットを獲得するために臨んだ一戦に負けてしまった。そのことしか今は浮かびませんね」
――前回のW杯以降4年間で積み上げてきたものがありました。でも、最後の2試合でそれを出し切れなかった気がして、すごく悔しいのですが……。
「昨日の試合(ベトナム戦)に関しては、僕は外から見ていただけですが、強さは出せていたと思います。結果的に追いつかれて、3-1から4-1にできそうな場面もありましたが、そこの部分で決めきれなかったところ。あとは失い方が悪くて、カウンターを食らった。相手のシュートは落ち着いてループシュートを決めたと思うんです。でも、僕らは結果がすべてで、その結果を見たときにもう少しゲームコントロールができていたらと思います。ベトナムは近年すごく力をつけていますし、100%のブラジル代表ではなかったかもしれませんが、ブラジルに勝ったという実力もあるチームだったので。失点の仕方はもったいなかったのかなと言う部分。そこで、昨日勝ち切れなかったことが、5位決定戦に回って、一発勝負で負けて先はなくなってしまったので。そんな感じですね」
――今日の試合については、昨日の敗戦したショックもあったと思います。
「そこは昨日も、今日もミーティングをして、昨日は選手間でミーティングをして、(森岡)薫くんが、すごくいろいろなことを話してくれていましたし、各々が今日の試合に対して思っていることを話して『絶対に勝とう』という気持ちにもなっていました。昨日も、今日も、『絶対に勝つ』という気持ちで臨みましたが、いずれももったいない失点でした。特に今日は、(最初の2失点を)場所は違いますけど、似たような感じで入れられてしまった」
――そうして部分については、メンタル面で問題があったと感じましたか? それよりも技術的なところでしょうか。
「いろいろな選手がいるので、一概には言えないとは思います。『負けたらいけない』というプレッシャーで、ミスしてはいけないと固くなっている選手も、もしかしたらいたかもしれません。でも、今日は僕が試合に出て後ろから見ていましたが、そこまで固さはなかったと思います。(先発の)セットを変えて、入りが変わっていたのはあったと思いますが……」
――後半はずっとパワープレーを仕掛けました。あのときも、もう少し早く打てる場面もありました。
「外から見ていて、最初にパワープレーを始めてから、チャンスはつくれていたと思うんです。チャンスはあったけど、キルギスも負けたくないから簡単には点を取らせてくれない。良い形でファーサイドにつけて、あとは合わせるというところで合わなかったり、GKに止められたりした。『惜しい』と言うとあれなんですが、そこで0-2から1-2にできていたら……。0-3から1-3だったので、後半の最初にうまく決めることができていたら……と。『たら、れば』を言っても仕方がないし、そうならないために積み上げてきたと思うんですけどね……」
――でも、このチームは強いという感触はありましたよね?
「ミゲルが監督になってから6年以上が経ちますが、僕は最初からいるメンバーでもあります。2010年ウズベキスタン大会、2012年ドバイ大会、2014年ベトナム大会、もちろんW杯もありましたし、この間にはいろいろな選手がいて、時代ごとに、大会ごとに素晴らしい選手がいました。その中で、仁部屋(和弘)とか、若手の時からちょっとずつ入っていた選手が今は中心になっていった。そこに(森岡)薫くんだったり、(酒井ラファエル)良男だったりも加わっています。単純に歴代のチームと比較するのは難しいですが、個の能力、ポテンシャルという部分では、今までミゲルが監督になってからの日本代表の中では、一番だったと思います。それでも、やっぱり(W杯出場権を)獲得できなかったという……。昨日(ベトナム戦に)勝てなかったという部分に尽きるのかなと。昨日の試合に勝っていたら、僕らはW杯出場が決まって、準決勝に進んでいた。そこで(イランに)勝ったか、負けたか、わかりませんが、W杯の出場権を獲得できていたら、そこで評価されていたと思います。でも、負けてしまったから、今までの中で最低な結果、最低のチームと言われても仕方がない。……難しいですね」
――その意味で、やはり力を出し切れなかったのかなとも思うんです。
「出し切れなかった……。うーん。実際に、ベトナムとは、まだ力の差があったと思うんです。外から見た感覚で、10回やって、もしかしたら1回負けるかもしれない。まぁ、昨日は同点だったのですが、守れなかった部分がすごく大きかった」
――準決勝でのイラン戦を意識してしまった部分もあるのでしょうか? たとえば最後にファウルで止めれば勝てる場面でも、吉川智貴選手がスライディングをしなかった。そういうところで、ちょっと次を見ていたところがあったのかなと。ミゲル監督も、あそこで警告を一枚もらっている吉川を、どうしてピッチに残していたのかなとか。一つひとつの場面を振り返ると難しいんですけどね。
「ベトナム戦に集中はできていたと思うんですよね。……でも、僕らは結果がすべてなので。そこを出せなかったのは、現実なので」
――ここから日本代表を再生させるために、何をしていきますか?
「正直、僕が新チームにかかわっているかはわかりませんが、(関口)優志とか、若い選手たちをW杯に連れて行ってあげたかったです。ずっと一緒に長くやってきているし、あいつ(関口)は『本当にW杯に行きたいんですよ』って、いつも遠征先でも言っていたし、そういう話をしていたので、今日の試合に勝って、連れて行ってあげたかったんですけど……。まぁ、僕が連れて行くっていうあれでもないんですけど……」
――今日の試合は、なかなか勝てる気がしませんでした。それでも一瞬、『もしかして』と思えたのは、最初のカウンターを受けたとき、藤原選手が止めた場面でした。
「あそこは、自分たちのセットプレーからのカウンターだったので。あそこは絶対に……というか、もちろん全部止める気でいたんですけどね。でも、ちょっとしたところのセットプレーでやられて……」
――先制点、2点目の2本は、二つともセットプレーでした。
「そうなんですよね。ヨーロッパ遠征のときから少しやられていて、気にはなっていたんですよね。……。本当に、今日の試合に関しては、スカウティングとかじゃなくて、一人ひとりがどれだけ戦えるかという部分だったと思います。相手は難しいことをしてきたわけではありませんでした。しっかりついて行くことができていれば、問題なかったはずです」
――2点目の全員が棒立ちになっていた姿は、ちょっとショックでした。
「僕が触って、そのこぼれ球に誰も反応できませんでした。難しかったですね。……なんとか触ることはできたんですけど……」
――藤原選手の中では、今大会、何が一番悔やまれますか?
「僕、個人的な選手としての意見ですけど、昨日とか、大事な試合でピッチに立てなかった悔しさはありました。でも、それは積み重ねがあるので。(関口)優志はこれまでの遠征でも良いパフォーマンスをしていたし、チャンスをつかんでちょっとずつ信頼をつかんでいった。その過程で僕も一緒にやってきて、見ているので。しっかり結果を出して、監督の信頼をつかんで、大事な試合で出ている。GKは一つしかポジションがないので、コロコロと代えるのは難しいと思いますが、僕自身は大事なところで、力になれなかった部分が悔やまれます」
――とはいえ、PK戦から出場して、そこで1本止めました。
「そうなんですけど……。ルール変更があって3本になっていたのは知っていたんですけど……。PKになったら、(チーム間に)力の差があっても変えらない。子供が大人相手に蹴っても絶対に勝てるかというと難しい。どっちに転ぶかはわからないから。でも、一番くやしいのは優志だと思います。大事な場面で任されて、最後、リードしていたけど守れなくて同点にされて、PKで負けてしまったという部分では。彼が一番悔しいと思います」
――ミゲル監督の下で、日本代表がすごく成長しているなと感じていたので、この終わり方は悲しすぎます。
「そうですね。……。いやぁ、悔しいというか。はぁ(ため息)。だれも、コロンビアに行けないということを考えていなかったと思いますし、今後のことも年齢的なことを考えると、なかなか難しい。僕は代表にかかわることは、もうないかもしれません」
――コンディション面では、問題はありませんでしたか?
「問題なかったですね。敗因が何かはわかりませんが、イランはどれだけ世代が変わっても勝ち切る力、絶対に上まで行く力があるじゃないですか。アジアの力は確実に上がっています。今回、僕らはマレーシアを相手に11点取ることができましたが、そういう10点も取れるような相手はいません。僕が代表に入る前より、確実に全体のレベルは上がっています。良い指導者が他の代表にも入ってきて、そういう素晴らしい指導者がいます。サッカーもそうじゃないですか? どこが相手でも簡単に勝てなくなってきていますし、そういう時代になっているということ。そこで、僕らにはイランのような、勝ち切る強さがなかった。そこに尽きるんじゃないですかね」
インタビュー・文・写真=河合拓
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藤原潤(ふじわら・じゅん)
1982年11月23日生まれ。静岡県出身。2008年にFリーグのシュライカー大阪に加入すると、09年にはミゲル・ロドリゴ監督に日本代表にも選出された。10年にはバルドラール浦安に移籍し、正GKとして活躍を続ける。15年にはFリーグ通算200試合出場を達成している。日本代表にも定着し、3度のAFCフットサル選手権と、フットサルW杯2012に出場した。