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[鵬学園]ゼロからのスタートで掴んだ全国切符…会社を辞め、躍進を支えた指揮官【高校サッカー選手権】

2020.01.02

[写真]=森田将義

 鵬学園が位置する石川県・能登半島の七尾市は少子高齢化が進む地域だ。県庁所在地である金沢市から特急で1時間近く、アクセス的には恵まれていない。サッカー部の強化には不向きな環境ながらも、今年は2度目の選手権出場を達成。躍進は、赤地信彦監督の存在抜きでは語れない。

 現役時代はCBとして活躍し、石川県の国体選抜では日本代表の本田圭佑ともプレーした赤地は、高校生の頃から教員を目指していた。人生設計の通り、大学でも教員免許を取得したが、ふとした瞬間に「世間知らずな自分が、このまま大学を卒業してすぐ先生になっても良いのか」と考え、就職活動を行った結果、大手電機メーカーへの就職が決まった。

 様々な人生経験を積むには、多くの人に会って話をするのが一番と考え面接では、本部での勤務を志願。大卒2年目には異例の若さで、中部エリアの換気扇にまつわる全ての物事を統括する立場を任された。当時の経験について赤地は、こう口にする。

「周りは一流大学を出た賢い人ばかり。そうした環境でも、コミュニケーション力や、次に何をすべきか、相手が何を思っているかを考える力を養えば、僕にだって周囲から信頼され、大事な仕事を任せてもらえた。社会で必要な能力と、サッカーに必要な物と変わらない。味方とのコミュニケーションは必要だし、相手を見て判断する必要がある。子どもたちに学力が高くなくても社会で生きていけるぞとサッカーを通じて教える上で、重要なヒントがたくさんあった」

 社会人として着実にキャリアを積む赤地に転機が訪れたのは、就職して3年目の11月。中学時代の恩師で、現在は小中学生の育成を行う「セブン能登」を指揮する新出誠氏から、「一緒にサッカーで能登半島を盛り上げよう」と鵬学園の監督就任を薦められた。大学まで石川県一筋だったとはいえ、赤地が高校生の頃に女子高から共学化したばかりで、サッカー部としての実績は皆無。「最初は鵬学園ってどこ? 七尾市にそんな学校なんてあったけ?という感じだった」が、元々教員になりたかった赤地にとっては渡りに船。二つ返事で許諾し、周囲の反対を振り切り、会社を辞めた。

 念願だった教師としてのキャリアを歩み始めたが、サッカー部監督としての道のりは平坦ではなかった。当時の鵬学園は県大会で早期敗退するのが当たり前で、3年生の部員はわずか5名。初めて練習に立ち会った際には、選手がバットを持って野球をしていたことに衝撃を受けた。いざ練習が始まってもふざける選手ばかりで、サッカーすらままならない。彼らに対して、赤地は「サッカーが好きなのは分かるから、部活とは別にサークルを作って両方を見てあげる。でも、部活の方は全国を目指すから、厳しいことも言うぞ」と選択を迫った。結果的に全員が部活を選んだが、初年度は練習道具の管理を徹底するなどサッカーをする以前の指導に終始した。

 ゼロからのスタートとなったが、「強化をするにはゆっくりしていてはいけない。やるからには少しでも早く全国に行かなければ意味がない」と判断を重視するサッカーを磨き、早期の全国大会出場を目指した。迎えた2014年は、就任から3年目を迎えた勝負の年だったが、選手権予選が開幕する3日前に脳梗塞で倒れ、ICUに運び込まれた。「命には別条ありませんが、右手はもう動きません」と宣告されたが、試合の日には「一回、家に帰らせてください」と病院を抜け出し、チームを指揮。その結果、PK戦で勝利し、ベスト8進出を果たしたが、喜ぶ様子が新聞に掲載され、翌朝に医師からこっぴどく怒られたという。

 懸命なリハビリの甲斐あって、全快となった5年目の2016年には当時、選手権予選17連覇中だった星稜高校を決勝で倒し、選手権に初出場。当時は、粘り強い守備によって掴んだジャイアントキリングだったが、2度目の出場となった今年は、堂々と攻め勝って掴んだ全国の舞台だ。

 結果だけでなく、赤地が大切にするコミュニケーションを重視した教育も進んでおり、部の雰囲気は就任当初とは比べ物にならないほど良くなった。鵬学園と赤地を見ていると、高校サッカーのチームは、監督の生きざまがよく表れるように思う。

「この子たちにとって大事な3年間に携われるのは楽しい。好きなサッカーを通じて、彼らが成長していく姿を見られるのは嬉しい」

 そう屈託のない表情で話す赤地と鵬学園が選手権でどんな戦いを見せるのか楽しみでならない。

取材・文=森田将義

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By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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