[写真]=山梨学院高サッカー部
3年ぶり7回目の選手権出場となる山梨学院。下級生の時から試合経験を積んでいた選手はGK熊倉匠(3年)、DF中根悠衣(3年)、FW野田武瑠(3年)といったところだけで、経験値ではライバルに劣るかもしれない。だが、「実直なチームだけど、個性に富んだ選手が多い。彼らを組み合せればいろいろなことができる」と長谷川大監督が話すように、誰もがスペシャルな武器を持っており、個性が融合すれば全国の強豪校と互角に渡り合うことが可能だ。
システムはダブルボランチを置くオーソドックスな4-4-2で、粘り強い守備から手数を掛けないカウンターが基本戦術となる。その中で個性豊かな選手たちが持ち味を発揮し、チームに色を付けていく。
最前線に構える茂木秀人イファイン(2年)は抜群の瞬発力で相手を置き去りにし、野田は速さと強さを併せ持つドリブルで相手を翻弄する。劣勢に陥っても2人のコンビネーションだけでフィニッシュに持ち込めるのも強み。また、ジョーカー役を担う久保壮輝(3年)は空中戦で勝負できるため、ロングボール主体の攻撃に切り替えることも可能だ。
彼らを支える中盤も曲者揃い。右サイドに入る新井爽太(3年)は圧倒的な運動量でサイドを上下動するハードワーカー。ロングスローの使い手でもあり、飛距離とスピードを伴ったボールでチャンスを作り出せる。また、左サイドの廣澤灯喜(3年)は1人でゴール前まで運ぶことができ、ベンチに控える左利きのファンタジスタ・笹沼航紀(3年)や背後への抜け出しが得意な浦田拓実(3年)もスタートから起用できる実力者だ。
守備陣も明確な特長を持つ選手が多い。2年生ボランチの谷口航大は鹿島アントラーズの下部組織出身らしく、球際で戦える潰し屋で、献身性に長ける相棒の石川隼大(2年)とともに中盤の守備を一手に引き受ける。最終ラインの柱である一瀬大寿(3年)は、学校OBの渡辺剛(FC東京)を彷彿させるエアバトラー。CBに転向して2年に満たないが、経験を積めばブレイクの可能性を秘める。脇を固めるクレバーなSBの飯弘壱大(3年)やコーチングに秀でたCB板倉健太(3年)も面白く、攻撃力に長けた控えSBの中根も含めて最終ラインも人材が豊富だ。
個性派揃いのチームをキャプテンのGK熊倉がまとめ切れれば、今大会の台風の目になる可能性は十分。「最後の大会なのでいい思い出を作りたいけど、それ以上に勝ちにこだわって戦いたい」(熊倉)。2年前のインターハイも含め、2度の日本一を経験している山梨の雄が王座奪還を目指す。
【KEY PLAYER】GK熊倉匠
グラウンドではプレーでチームを引っ張り、ピッチ外では仲間のために骨を折る。統率力で右に出る者はいない。誰からも信頼される山梨学院の絶対的なキャプテンだ。
1年次にサブGKとしてインターハイ制覇を経験し、2年次からレギュラーとして活躍。キャプテンを任された今季は新型コロナウイルスの感染拡大による活動休止で、思うようにリーダーシップを発揮できなかったが、常にチームのために動いてきた。自粛期間中には加藤拓己(早稲田大3年、清水エスパルス2022年加入内定)など、歴代のキャプテンに相談。コミュニケーションの方法論を学んだことがその後のチーム運営に生かされた。
リーダーとして振る舞う一方で、自身のプレーにも磨きをかけてきた部分もチームメイトからの信頼が厚い理由の一つ。今季はフィジカル面を強化し、セーブやキックに力強さが増してピッチ内でも存在感を高めた。
体が一回り大きくなった影響で背番号1のユニホームが入らず、今大会では大きめのサイズが用意されていた背番号17を背負うのは努力の証。誰よりも汗を流してきた守護神の働きが個性派集団の命運を握るのは間違いない。
取材・文=松尾祐希