「戦う」力を持つ長友佑都(左)や中田英寿(右) [写真]=Getty Images
25日、日本サッカー協会(JFA)の霜田正浩技術委員長が日本サッカー強化指針に基づく「アクションプラン1」として「FOOTBALLER×ATHLETE Project」の発表を行った。強化指針は、日本サッカーの長所と短所を分析した上で、目指していく方向性を示したもの。「原点回帰」「Japan’s Way」「世界基準」の3項目からなっており、各年代別代表チームの評価や代表選手選考のベースを示したものでもある。
記者会見の冒頭、霜田委員長は強化指針についてのイメージ映像を昨年の各代表チームの試合シーンから抜粋して見せた上で、「世界基準」を意識した上での課題として「フィジカルコンタクト」の分野に触れた。日本サッカーの弱点と言われて久しい分野であり、「フィジカルコンタクトで勝てないから、素早くボールを動かして当たらないようにしよう」という話が典型だが、「フィジカルコンタクトで勝てないから」というのは、日本サッカーについて考えるときの前提条件になってきた面がある。
ただ、先日のAFC U-23選手権(リオ五輪アジア最終予選)でも明らかだったように、日本がボールを支配できた試合はタイ戦くらいのもので、「アジアにおいてすら、僕らの強みが強みじゃなくなる時代が来てしまうのかもしれない」(霜田委員長)という現実もある。霜田委員長は「決して強みであるテクニックやパスワークを磨いていくことを捨てるわけではなく、むしろより徹底させていく」としたうえで、「弱みを弱みのままにしていかないことを考えていかないといけない」と強調し、フィジカル強化に向けたアクションプランを打ち上げた。大きな流れとして「フットボールがアスリート化していっている」傾向が明確にある中で、「テクニックだけでは戦えなくなっている。日本の強みを出すためにも、フィジカルアビリティを向上させたい」(霜田委員長)ということである。
もちろん、「陸上選手やボディビルダーを作りたいわけではありません」(同委員長)。まずベースに置くのは「日常トレーニングでのデュエル(決闘の意だが、転じて1対1の競り合い)の推奨」。コンタクトプレーを伴う練習を奨励して、接触に強い選手を自然と作ることを目指した上で、「フィジカルアビリティの全体的なベースアップ」「年代に応じた筋力アップトレーニング」で強化を図っていく。そのために「(フィジカルに関する)専門家の育成、普及、浸透」も図るという。
会見で霜田委員長が何度も強調したのは「サッカーのパフォーマンスを上げることが目的で、筋力アップが目的ではない」ということ。「みんなが筋トレやればいいと曲解されてしまうと困る。長期的、科学的、戦略的に取り組んでいかないといけない」とした上で、「方法を知らないクラブ、学校には、そのためのメニューや映像をどんどん情報として提供しますし、相談にも乗っていきたい」と意欲を語った。年代ごとにメニューは細分化される見込みで、協会内のプロジェクトチームが対応に当たる。先に行われたJリーグの強化担当者会議でも先行して発表されていたが、35クラブ前後からメニューの提供を受けたいという申し出があったという。
すでにU-16日本代表にもコンディショニングコーチが新年度から新たに配置され、フィジカル強化のためのプロジェクトは水面下でスタートを切っている。Jリーグの各クラブにいるフィジカルコーチなどの専門家とも連係、情報共有を図りながら、「日本は日本の武器をまず伸ばしていく。その上で、強みを生かすために(フィジカルコンタクトという)弱みの部分も伸ばしていくことに注力」(霜田委員長)していくことになる。
フィジカルトレーニングについては様々な理論が交錯しており、失敗例も少なくない。たとえば筋力をつけた結果として、それまで強みだった持久力が消えてしまったというのでは話にならない。ただ、「上手くいかないことがあるから、やらない」というのでは永久に進歩するはずもなく、チャレンジしていくことでノウハウの蓄積も生まれて、理論も発展していくというもの。長友佑都(インテル)、本田圭佑(ミラン)、武藤嘉紀(マインツ)、あるいはかつての中田英寿のように、トレーニングの蓄積によってサイズで上回る相手に対して「戦う」力を得た選手は実際にいる。目指す舞台を高く設定するなら、日本サッカー界全体としてトライしていく意義はあるに違いない。
文=川端暁彦
By 川端暁彦