けがから復帰し、J2開幕戦で先発出場を果たした山口蛍 [写真]=Getty Images
「彼は差をつけられる存在。ホントにクオリティの高い、格の違う偉大な選手だ。安心して見ていられるし、監督に一番求められる選手じゃないかと思いますね」
今季からセレッソ大阪の指揮を執るブラジル人知将、パウロ・アウトゥオリ監督にこう言わしめたのが、キャプテンマークをつける山口蛍だ。
昨季のセレッソがまさかのJ2降格を強いられたのも、2014年ブラジル・ワールドカップで3戦連続先発出場を果たした中盤の要を夏以降、けがで欠いたことが大きく影響したと言っていいだろう。
「あの時期は何もできなかった。手術もしたし、自分のけがを治すことでいっぱいいっぱいだったから。ただ、少しでもチームの役に立ちたいとは思ったし、『自分が試合に出てれば』って考えたこともありましたね」と彼は昨季終盤の苦しい胸の内を改めて吐露した。結局、ジュニアユース時代から過ごしてきた愛着あるクラブは17位に低迷。昨季末には南野拓実(ザルツブルク)、杉本健勇(川崎)ら仲間たち数人が退団し、チーム構成の大幅変更を余儀なくされることとなった。
山口本人も今季からはダブルボランチの一角ではなく、中盤のアンカー役に抜擢された。不慣れなポジションに適応しつつ、回復途上の右ひざの状態を斟酌しながら、8日の今季J2開幕戦・東京ヴェルディ戦をついに迎えたのである。
序盤のセレッソは久々のJ2参戦の固さから受けに回る展開が多かった。山口も中盤でバランスを取りながら献身的に動くものの、攻撃の起点になり切れない時間帯が続く。それでも36分にフォルランに出した縦へのロングパスなどでキラリと光る攻撃センスを垣間見せる。そして後半立ち上がりに1点を奪われた後には、リスクを冒して前に攻め上がるシーンも作った。
「監督からもずっと中盤の底にいろって言われてるわけではないし、チャンスがあれば出ていきたいけど、前の(インサイドハーフの)2人がかなり前へ行くからなかなか難しい。もう少しやっていけば連携が取れていくと思うし、そこは時間が解決してくれる。俺の中ではアンカーをやることで1選手としてまた違った部分も見えてくるやろと思うし、前向きにチャレンジして楽しみたいと思います」と山口は模索中の新ポジションで新境地を開拓する強い覚悟を持っているようだ。
彼のハードワークもプラスに働き、フォルランの直接FKで1-1の引き分けに持ち込んだセレッソ。東京Vの1点リードを追いついたという意味では、ポジティブに捉えていいだろう。「去年であればあのまま1-0で落としていたかもしれない。今日はしっかり追いついたし、逆転のチャンスもあった。そういうところを見せられたのは昨年との違い」とキャプテンマークを巻く男も前向きに語っていた。確かにセレッソはいい方向に進んでいると言ってよさそうだ。
その山口自身も、昨年8月9日のFC東京戦以来、7カ月も遠ざかっていた公式戦復帰を、フル出場という形で飾ることができた。球際の激しさや寄せの厳しさなどを見る限りでは、ブラジル大会の頃とほぼ変わらないレベルまで回復した様子だった。しかし本人は「恐怖心はないけど、完全にスッキリしたひざじゃないというか、何をするにも引っかかるものがある。違和感が取れるまでにはまだ時間がかかるのかな。今はまだ7~8割ですね」と慎重な姿勢を崩さなかった。中盤のダイナモとして走り回ってボールを奪い、攻めに転じていた負傷前の逞しい姿を取り戻すべく、今後も貪欲なアプローチを続けていくつもりだ。
もちろん、その先には日本代表復帰がある。1月のアジアカップ(オーストラリア)で若返りの遅れが指摘された日本代表にとって、ロンドン世代の象徴である山口の台頭はやはり不可欠だ。「J2だと見てもらえる機会が少ない。J2から呼ばれるのはかなり厳しい道のりだと思う」と彼自身、ハードルが高いことを自覚していた。その壁を乗り越えるためにも、セレッソが勝利を重ね、山口もコンスタントにパフォーマンスを高めていくことが肝要である。J1昇格のライバルと目される大宮アルディージャやジェフユナイテッド千葉、京都サンガらが初戦勝利を飾っているだけに、15日のホーム開幕戦・大宮戦では勢いの乗れるような快勝がほしいところだ。
ようやく完全復活への力強い一歩を踏み出した山口蛍。新指揮官から絶対的な信頼を寄せられる24歳のMFの一挙手一投足から目が離せない。
文=元川悦子
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