日本サッカー協会からJリーグへと活躍の場を移した原博実氏 [写真]=青山知雄
公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)は9日、東京都内のJFAハウスで2016年度第1回社員総会と臨時理事会を実施し、村井満チェアマンの二期目となる2016シーズンに臨む“新体制”を発表。それまで日本サッカー協会(JFA)で専務理事を務めていた原博実氏のJリーグ副理事長就任が正式に決定した。
会見の壇上で原副理事長は「今日からJリーグに移りました。Jリーグを世界水準にするために強化、普及育成を全力でやっていきたい。JFAには7年間おりましたが、代表強化は自国リーグのレベルが上がらなければできないものだと身をもって分かりました。トップチームだけでなく、アカデミー強化における取り組みも重要ですし、やれることからどんどんやっていきたい。そのために自分の力を発揮して、できるだけ現場に行って、いろいろなチームの方々や地域の方と話をしながら、Jリーグをもっともっと発展させるために全力でやっていきたい」と意気込みを語った。
JFAでは技術委員長として日本代表の強化を担当し、専務理事として日本国内における様々なカテゴリのサッカーに触れ、日本サッカー界全体のレベルアップや盛り上げを担ってきた。今年1月末に行われた日本サッカー協会の新会長選挙では、田嶋幸三副会長(当時)との一騎打ちとなった選挙戦で34対40(白票1)と惜敗したが、村井チェアマンから新設の“副理事長”就任オファーが届き、これを受諾。3月8日付けでJFAに辞表を提出し、9日の副理事長着任に至った。
原氏の思いは一つ。それは日本サッカー界の大きな発展に他ならない。
以前、スカパー!の『Jリーグラボ』に中西大介常務理事と出演した際、原氏は「日本代表とJリーグの両輪が回らなければ日本サッカー界の発展はない」と説いていた。つまりはJリーグをもっと盛り上げ、ピッチ内ではレベルアップを図り、Jクラブ所属選手が日本代表として活躍、その経験や人気がJリーグやクラブに還元されるというサイクルだ。だが、その部分に関して、日本代表とJリーグのバランスが取れていない現状を見つめる姿もあった。
かつて浦和レッズやFC東京で指揮を執った原氏は、いわば“Jリーグ出身”の人物。Jクラブの考え方や現場スタッフの思いが分かるからこそ、JFAの技術委員長時代には日本代表のスケジュール調整などでクラブ側に理解を示し、協力を得られる部分もあった。“共通言語”を持つことで一方的なやり方ではなく、スムーズなコミュニケーションを図ろうとしてきたわけだ。
その中で原氏が考えてきたのが、「日常のレベルアップ」。日本代表を強くするためのベースは選手たちが日々トレーニングを積む所属チームでの取り組みであり、そこで臨むリーグ戦などの試合にある。選手個々の、そしてチームのレベルアップを図ることができなければ、当然ながら代表チームを強化することはできないし、海外挑戦を選択する選手が出てくることもない。
奇しくも千葉県内で同日まで行われていた日本代表候補合宿でヴァイッド・ハリルホジッチ監督が選手たちに求めたのは、“世界を意識したJリーグでの戦い”だった。ハリルホジッチ監督はかねてから国内組の選手たちにレベルアップを強烈に要求し、クラブへ戻った国内組からチームメートへの波及効果も狙っている。Jクラブ所属選手に海外組と同様の高いハードルを設けてきた指揮官は、今季開幕からの明治安田生命J1リーグ2節を総括して「非常にデュエルの多い、激しいゲームになっていて、Jリーグ全体がいい方向に向かっている」と評価しているという。もちろんそれに満足しているわけではないが、Jリーグのレベルアップが日本代表の強化につながるという事実の一端を感じさせるエピソードである。
原氏が求める「日常のレベルアップ」は、トップチームだけの話ではない。アカデミーなどの育成、そして子供たちへの普及活動においても、日々の活動が非常に重要な意味を持つと考えている。JFAが育成や普及へ積極的に取り組む一方で、実際には地元クラブで毎日の練習に励む選手にどう働きかけていくのかがポイントだ。子供たちが笑顔でサッカーに触れられる環境づくりは現場、すなわち各都道府県サッカー協会や地元クラブに委ねられている。そういった部分でJリーグの“日常”を経験し、JFAで重要な任務を担った原氏だからこそ見えるものがあるのは間違いない。JリーグとJクラブ、そしてJFAや都道府県協会と手を取り合ってできることは少なくないとも感じている。ボトムアップを図ることで日本サッカー界を高みに押し上げようとする原氏のJリーグ副理事長就任が、日本サッカー界に新しい風を吹かせてくれる可能性は十分にある。
原副理事長自身も「今度は自分が一番得意な現場に近いところに専念できるので、今度はJリーグ側からJFAの人と強化や育成についてやらなければいけない立場だと思う。まずはそれを全力でやることが必要ですね」と語っている。物事を見る角度が変わっただけで、サッカーファミリーとして目指すべきところは変わらない。むしろJFAの取り組みや内情を知り尽くした原氏だからこそ言えること、求めていけるものがあるはずだ。
JFA専務理事の辞任に伴って関係者に送ったメールで、原氏は「明日からはJリーグの立場から、日本サッカーを強く、明るくするように皆さんと一緒に力を合わせていきたいと思っています。みんなで日本サッカー界を、スポーツ界を成長させていきましょう」と綴っていた。
この「強く」「明るく」という表現に、原氏の思いが込められているように思う。
かつてFC東京を率いていた当時、監督として結果を追求し、周囲からも求められる中で「あらゆる娯楽が溢れている東京でお客さんに来てもらうためにはどんなサッカーをすればいいのか」という考え方も持ち合わせていた。ただ勝てばいいという視点だけでなく、エンタテインメントとしてのサッカーにも理解を示す柔軟性も持ち合わせていた。
日本サッカー界を本当の意味で強く、そしてサッカーを通じて日本を明るくするために――。自らが経験してきた様々な視点を武器に、原博実氏がJリーグ副理事長という新たな角度から、日本サッカー界へのさらなる尽力を誓う。
文・写真=青山知雄
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