試合後、サポーターの声援に笑顔で応える金子 [写真]=平柳麻衣
代役では終われなかった。そして、終わらなかった。エース・大前元紀に代わって試合に出場するために果たさなければならない使命。今シーズン、悩みながらも急成長を遂げた21歳のストライカーは、リーグ最終節で自らに課された大きな仕事を成し遂げた。
清水エスパルスは2016明治安田生命J2リーグ第42節で徳島ヴォルティスに2-1で勝利。勝ち点を84に伸ばし、自動昇格圏内の2位でJ1復帰を果たした。攻撃の切り札として投入されたFW金子翔太が、値千金の決勝弾をマークした。
自力で自動昇格を決めるためには勝利しかなかった。クラブの命運を懸けた大一番は、1-1の同点で後半の半ばに差し掛かった。迎えた68分、前半に先制点をアシストした大前に代わって金子が投入される。勝ち越し点を奪わなければならない状況で、大前に代わって起用されることの意味を金子は十分に理解していた。
「元紀くんとの交代はチームのエースと代わるということだし、僕にとって特別なこと。責任を感じて緊張したけど、今日は僕が点を取ってやろうと強く思った」
すると、わずか5分後にビッグチャンスが訪れる。右サイドの裏に抜けた鄭大世と目が合うと、「最高のボール」(金子)がフリーで中央に走り込んだ金子の下へピンポイントで届いた。左足でしっかりとミートさせ、ボールがネットを揺らす。その瞬間、敵地・徳島に大挙して駆けつけた4000人超の清水サポーターの大歓声が沸いた。
「2トップの片方が走ったらあそこに出すという形は練習からやっていたので絶対にボールが来ると思ったし、落ち着いて流し込むだけだった。エスパルスサポーターの皆さんの前でのゴールだったので、ものすごく気持ち良かった」
試合後、鄭大世がプレッシャーから解放されて人目をはばからずに涙を流す姿につられて、金子は瞳を潤ませた。思い返せば2016シーズンは金子にとって、プロキャリア最高の22試合出場4得点という数字を残しながらも、「つらいことのほうが多かった」一年だった。
大前が肋骨骨折および肺挫傷で約3カ月の長期離脱を強いられたことで出場機会を得ると、献身的な守備を小林伸二監督から高く評価された。立ち上がりから運動量を惜しまない金子のプレースタイルは、鄭大世の守備の負担を軽減。結果的に鄭大世のゴール量産につながった要因の一つと言える。
「元紀くんがケガから戻ってきたら、またポジション争いが厳しくなる。憧れの選手だし偉大な存在だけど、僕も負けたくない。僕は長所であるハードワークをした上で、結果を残せる選手になりたい」
来る日に備えて金子は猛アピールを続けてきた。だが、戦列復帰した大前はそれに触発されたかのようにゴールやアシストと目に見える結果で圧倒的な存在感を発揮。金子は0-1で敗れた第33節の松本山雅FC戦を最後に、リーグ戦でスタメン起用されることはなかった。
「正直悔しかった。セレッソ大阪戦(第34節)では0-1の状況で投入されて2アシストできたし、途中から出ても自分の色を出せると思った。でも、元紀くんは復帰戦でFKを決めたり、その後も毎試合のように点を取っていて本当にすごかった」
試合に出て自信や手応えをつかみ始めた矢先だっただけに、もどかしさは募った。それでも腐ることなく取り組み続けた努力が、昇格を決める一戦での決勝ゴールという形で報われた。
徳島戦の交代場面で、大前から金子へ特別な言葉が掛けられることはなかったという。それはエースから若きストライカーへの信頼と、ライバルとして認められている証なのかもしれない。大前の離脱中、“代役”として試合経験を積んだ金子は、重要な場面で起用されるという指揮官の信頼を勝ち取った。エースの穴を埋めただけでなく、偉大な先輩の背中に確実に近づいている。
「今年はテセさんや元紀くんの相方として守備を特に意識してやっていたけど、守備だけじゃ自分は評価されないということがシーズンを通してわかった。これからは守備をしつつも、もっとゴールに向かわないといけないし、結果にこだわっていきたい」
ヒーローとして脚光を浴びた金子の姿は、ピッチの外から見届けたFW北川航也をはじめ、メンバー外の若手選手たちにもさらなる刺激をもたらしただろう。2年ぶりにJ1の舞台に戻る来シーズン、鄭大世、大前という強力2トップを中心に激しいレギュラー争いを繰り広げる清水攻撃陣の中に、ブレイクの止まらない金子がいるはずだ。
文=平柳麻衣
By 平柳麻衣