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【J2再開注目選手】「誰かのために」…こだわりの場所で戦い続けたい|佐野海舟(町田)

2020.06.23

サッカーキング編集部が今季のJ2注目選手として推す町田・佐野海舟 [写真提供]=FC町田ゼルビア

 今シーズン、指揮官が代わり、スタイルを大きく変えたFC町田ゼルビアで、「もう一度ボランチで頑張ろう」と決意した若武者がいた。佐野海舟、ミレニアム生まれの19歳だ。

 両サイドができる器用さを持ち、昨シーズンはルーキーイヤーながらリーグ戦で21試合に出場した。しかし、それは本職のボランチではなく、サイドバックでの出場だった。周囲の声にも助けられ、サイドバックでのプレーをプラスに捉えることができるようになると、シーズン終了時には「絶対にボランチを勝ち取ってやろう」と心に誓った。

 そして迎えた2020シーズンの開幕戦、気持ちよさそうにプレーする佐野の姿があった。その場所は、佐野がこだわり続けたボランチだった。

インタビュー=三島大輔
写真=FC町田ゼルビア

――緊急事態宣言の発出による自粛期間中は、どのように過ごしていましたか?

佐野 朝はいつもどおりに起きていました。それから朝ご飯を食べると、チームから個人用の練習メニューが配られていたので、それをこなしていました。大きな器具を使うトレーニングができなかったので、腹筋などの筋トレを行ったり、外を走ったりしていましたね。トレーニングを終えるともう午前が終わるので、逆に午後からは「何をしようか」と毎日悩んでいました(笑)。映画を見てリラックスしたり、サッカーの勉強のためにDAZNで試合を見たりすることが多かったです。

――DAZNでは過去の試合映像も配信されていましたが、見ましたか?

佐野 見ましたよ。すごく昔の、自分が生まれる前のJリーグの試合も見ていました。個の力が強い選手たちが集まっているという印象を受けましたね。もちろん今のJリーグも個の力は強いですけど、今のほうがより戦術的になっているのかなと。昔はチームというより個人の能力で打開している場面が多かったように感じました。

――クラブとしてはこの期間、SNSを中心に積極的にさまざまなコンテンツを配信していましたよね? インスタライブやゼル塾などの面白い取り組みをされていて、選手もすごく協力的だなという印象を受けました。

佐野 ファン・サポーターの皆さんに会えない時間が続いていた中で、自分たちの状況を発信できるツールがあったのはすごく良かったと思っています。シーズン中にはなかなかできないことなので、僕たちも協力させてもらっていたのですが、インスタライブは反響も多くて、やった手応えがありました(笑)。

――そういえば、ABEMA 『ゼルつく』の企画では大谷尚輝選手とウイニングイレブンで対戦していましたね。

佐野 ボコボコにされました……。大谷選手が強過ぎましたね(笑)。僕はもともと全然ゲームをしないタイプだったのですが、同世代の橋村(龍ジョセフ)とか仲のいいチームメイトと一緒にやっているうちに、自然とプレーする機会が増えてきました。

――緊急事態宣言が解除されてからのトレーニングは、まずはグループ練習からスタートしたそうですね。

佐野 はい。グループ練習を2週間ほどやって、それからは全体練習をやっていました。グループ練習が始まった時に「サッカーができるって本当に幸せだな」と感じたのですが、全体練習が始まるとコミュニケーションを取る回数や人数も増えてくるので、より楽しさが増しました。同時に、「やっとJリーグが始まるんだな」という実感が湧いてきて、今度は気が引き締まりました。

――再開に向けてチームとして重点的に取り組んでいることはありますか?

佐野 僕らのスタイルは連係がとても重要なのですが、中断期間で少し忘れてしまった部分があります。なので全員の頭の中で戦術を共有できるように、今は連係や戦術の部分を重点的にトレーニングしています。

――佐野選手は昨シーズン、早い時期からベンチ入りを果たし、第12節の水戸ホーリーホック戦でプロデビューを飾りました。

佐野 プロの世界に入りたての頃は、自分のレベルの低さを痛感しましたし、周りに付いていくのに必死でした。でもベンチ入りしたのをきっかけに自信を持ってプレーできるようになったことが大きかったです。最初はベンチに入るだけでもすごいことだなと思っていましたけど、どんどん「試合に出たい」という思いが強くなっていきました。そこで自分の武器をアピールし続けることができたので、チャンスが巡ってきたのかなと思っています。

――デビュー戦は緊張しましたか?

佐野 あまりしなかったですね。もともと緊張しないタイプなので(笑)。「やっときたか」という気持ちのほうが強かったです。

――出場したのは、本職のボランチではなくサイドバックでした。両サイドでプレーができる佐野選手は相馬直樹監督にとってキーマンだったと思いますが、コンバートを告げられた時の心境を覚えていますか?

佐野 プロに入ってからサイドバックやセンターバック、サイドハーフなどいろいろなポジションをやりましたけど、やっぱり最初はボランチで試合に出たいという気持ちが強かったです。だけど周りの人から「いろいろなポジションでプレーできたほうが絶対にいい」と言ってもらえて、それからはサイドバックでのプレーを自分の中でプラスに捉えることができました。

――昨シーズンは最終的にリーグ戦21試合に出場しました。プロ1年目はどんな気づきがありましたか?

佐野 試合勘というか、試合の雰囲気の違いというのは強く感じましたね。練習試合ではしないようなミスをしてしまったり。あとはボランチとサイドバックとでは視野が全然違うし、サイドバックでも右と左では全然違うので、その難しさはありました。でも、それをうまくこなすのがプロなんだろうなとも思っています。

――相馬監督のサッカーはすごく特徴的で、ボールサイドに選手が寄りますよね? Jリーグを見渡しても他にはない戦術だと思いますし、11人のまとまりが非常に大事になると思うのですが、実際にプレーしていてどんな印象を抱いていましたか?

佐野 サイドバックの選手も逆サイドにボールがある時はかなり内側に絞るので、そこから逆に展開されると、大きなスペースを使われてしまいます。だから正直、「あまり絞りたくない」と思いながらやっています(苦笑)。ただ、そこで自分勝手なプレーをしてしまったら、一つのズレからすべてがズレてしまうので、戦術どおりにやっていました。逆に自分たちがボールを奪うことができれば、選手間の距離がすごく近いのでカウンターを仕掛けやすいというメリットはありましたね。

――今シーズンはランコ・ポポヴィッチ監督が就任しました。大きく変わったのはどんなところですか?

佐野 もう180度変わったと言っていいと思います。これまでは相手DFの背後を狙って蹴ることが多かったのですが、後ろからしっかりとつないで、連係で崩していくのが今シーズンのサッカーです。とはいえ、昨シーズン同様に背後を狙うプレーも意識しています。一発でそこを攻められたら、それが一番いいですからね。僕自身、背後にボールを出すのがあまり得意ではないので、そこは指摘されています。

――昨シーズンと違い、今シーズンの開幕戦は本職のボランチで出場しました。やはりボランチへのこだわりは強いですか?

佐野 はい。ボランチで出場したいという思いはずっとあったので、昨シーズンが終わったタイミングで、もう一度ボランチで頑張ろうと決意しました。それから少しずつチャンスをもらうことができたので、絶対に自分の武器を見せてボランチを勝ち取りたいと思っています。

――監督からはどんなことを求められていますか?

佐野 ディフェンスラインからボールを受けた時に、どうしてもバックパスや横パスが多くなってしまうので、常に前を見るように言われています。

――理想のボランチ像、目標とする選手はいますか?

佐野 バルセロナのセルヒオ・ブスケツがめちゃくちゃ好きです。うまいだけじゃなく、体を張ったり、考えて守備をしたりできる選手なので、理想的なボランチだなと思います。

――ヴァンフォーレ甲府との開幕戦はスコアレスドローでしたが、昨シーズンとは違う新しいサッカーの片鱗が見えました。実際にプレーしていて手応えはありましたか?

佐野 うまく崩すことができた場面もあったのですが、シュートまで持っていくシーンは少なかったですよね。シュートを打たないと点は決まらないので……。でも、連係の部分は良かったので、その先のシュートにつなげることができれば必ずうまくいくと思っています。

――佐野選手自身は前半から前に飛び出したり、ミドルシュートを狙ったりする場面が見られました。ボランチの選手がああいう形でプレーするのは昨シーズンとの違いの一つですよね?

佐野 そうですね。僕のような後ろの選手が機を見て飛び出すというのはすごく有効だと思いますし、チャンスがあればもっと出ていきたいです。あとはシュートを積極的に打っていきたいですね。ロングシュートやミドルシュートを決められるボランチがいるチームは絶対に強いので。

――守備の部分はどうですか? 一番の持ち味は球際の強さやボール奪取能力だと思いますが、サイドバックでのプレーとはまた違いますよね?

佐野 守備面に関しては背後からの指示がすごく的確なので、自分で考えつつも、後ろからの声に助けられています。自分の視野に入らない部分も、その声一つでイメージができますから。球際の部分に関しては、目の前のバトルで絶対に負けたくないという気持ちでやっています。

――後ろからの声というのは、水本裕貴選手や秋元陽太選手といったベテラン勢の指示ですか?

佐野 はい。経験のある選手ばかりで指示が本当に的確なので、助けてもらっているし勉強にもなります。

――その一方で中盤は佐野選手や期限付き移籍で加入した高江麗央選手など、比較的若い選手がそろっています。

佐野 あまり気にしていなかったけど、改めて考えてみたら若いですね。若手ならではのプレーというのは大事だと思います。そういうプレーを見せることで、ディフェンスラインの選手たちがより頑張ろうと思えたり、逆に僕たちがディフェンスラインをカバーするくらいの強い気持ちでやれれば、必ずいい方向に向かうと思います。

――今シーズンは超過密日程で試合を消化していくことになります。戦い抜く上でどんなことが大事になると考えていますか?

佐野 すごく厳しい日程で、次々と試合がやってくる感じですよね。とにかくあまり先を見過ぎず、目の前の試合にしっかり集中すること。総力戦になるのでケガをしないことも大事ですね。チームには能力の高い選手がそろっているので、個人的には「それを自分が引き出すんだ」という気持ちでプレーしたいです。昨シーズンは目に見える結果を出すことができなかったので、ゴールやアシストといった数字にもこだわりたいですね。

――最後に今シーズンの意気込みを聞かせてください。

佐野 今はまだコロナの影響で大変なことがたくさんありますけど、自分たちが結果を残すことで誰かを元気にすることができると信じています。自分のために頑張るのは当たり前ですけど、誰かのために、チームのために頑張ることを目標にしていきたいです。それができればチームは自然とうまくいくと思うし、上位に上がっていけるはずなので、「誰かのために」という想いで戦い続けます。
    

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By 三島大輔

サッカーキング編集部

サッカーキング編集部所属。 週刊J2&月刊J3 MC。Jリーグ&ブラジルサッカーウォッチャー。

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