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盟友との直接対決で味わった悔しさを糧に…“現在地”を知った鈴木冬一の挑戦

2020.08.03

古巣・C大阪戦に出場した湘南の鈴木冬一 [写真]=清原茂樹

「戦う前はやっぱり、ほかのJのチームとは違う感覚があって、ちょっとソワソワしていました。当日になったらいつも通りでしたけど、前日の夜はソワソワしましたね」

 湘南ベルマーレの背番号28をつける20歳の成長株・鈴木冬一にとって、8月1日のセレッソ大阪戦は特別な一戦だった。ジュニアからユースの途中まで過ごした古巣を本拠地で倒し、下位脱出の布石を打ちたかったのだ。

「セレッソは相手を見ながら立ち位置を変え、短いパスをつなぎながら、長いパスも織り交ぜられるチーム」と相手をリスペクトする浮嶋敏監督は、システムを昨季までベースにしていた「3-4-3」に戻して戦った。

 左ウイングバックに入った鈴木は序盤から積極的な仕掛けを見せ、要所要所でクロスを入れつつ、得点を狙っていく。「今年は試合に出ている分、余裕を持ってプレーできている。自信もついて、自分のパフォーマンスをコンスタントに出せている」と本人もメンタル面の変化を口にした通り、清武弘嗣ら偉大なC大阪の先輩たちにも臆することなくぶつかっていくことができた。

 しかし、今季通算失点がわずか5というC大阪の堅守はそう簡単に崩れない。同じ2000年生まれの同期・瀬古歩夢が陣取る最終ラインは安定感抜群で、ゴールをこじ開けられないまま前半をスコアレスで折り返した。

 後半に入ると、湘南はタテの意識を強めてきた相手を受ける場面が多くなる。浮嶋監督は64分に馬渡和彰を投入。鈴木は右サイドへ移動し、同じアカデミー出身の丸橋祐介とのマッチアップに挑むが、どうしても得点につながるお膳立てができない。

 迎えた70分、馬渡がJ屈指のドリブラー・坂元達裕を後ろから倒してPKを献上。これを清武に決められてしまう。この1失点が最後まで重くのしかかり、湘南は0-1の惜敗。ついに最下位に転落してしまった。

「今日は正直、勝ち点1のドローゲームだったと思うけど、そこで失点しまうのが今のウチ。最下位なんで、何を言われてもしょうがない」と後半途中に退いた齊藤未月は憮然とした表情でコメントしたが、フル出場した鈴木の屈辱感はそれ以上だったに違いない。「全体的に詰めの甘さが出てしまった」と反省しきりだった。

 とりわけ悔しかったのは、瀬古擁するC大阪守備陣に完封されてしまったこと。瀬古は前半に組み立てのミスを犯した以外は競り合いにしても、カバーリングにしてもパーフェクトに近いプレーを見せていた。

「冬一とは小学校の時から一緒にやっていたので試合ができて嬉しかったし、楽しかった」と瀬古は満足そうに語っていたが、鈴木の方は「(歩夢は)前に強いし、ヘディングもほぼ負けていなかったし、ビルドアップもつねに冷静で、(マテイ)ヨニッチ選手とともに大きな柱としてチームを支えているなと感じました」と盟友の進化に驚かされた様子だった。

 一方で、自身の評価は辛口だった。「少しは攻撃の起点になれたと思いますけど、それが結果にはつながっていない。(勝利という)結果につながるプレーをやり続けるしかないですね」と不完全燃焼感を吐露した。今季の鈴木は2月21日の開幕・浦和レッズ戦での2アシストに始まり、7月8日の横浜F・マリノス戦でのJ1初ゴールと、得点に絡む仕事は着実に増えているものの、低迷するチームを窮地から救える絶対的存在にはなり切れていない。彼はそんな自分を冷静に客観視しているのだろう。

「クロスは何本か上げましたけど、得点につながっていないし、それでは意味がない。本数は少なくても正確にクロスを上げていけるようにならないとダメだなと思います」と本人も自戒を込めて言う。勝利を手繰り寄せられるような圧倒的な力をつけること。それが今の鈴木に託された責務と言っていい。

 改善すべき点は攻撃だけではない。守備面でも、前半は坂元のタテへのスピードと推進力を止めきれず、翻弄されがちだった。坂元と松田陸が息の合ったコンビネーションを見せながらタテを崩してくるため、対面に位置した鈴木はかなり苦労しただろうが、やはり坂元のようなスピードスターを完封できてこそ、東京五輪やA代表といった大舞台への道も開けてくるはずだ。

「1対1の守備は意識しなければいけない部分だと思います。今年のベルマーレはまだ1勝しかできていない。1つでも多く勝利ができるように、反省するところは反省して、よかったところはポジティブに捉えて、次の試合に臨みたいです」

 気丈に前を向いた鈴木冬一。古巣との特別な一戦、そして少年時代からの盟友との直接対決が教えてくれたことは少なくなかった。彼自身も言うように、今回の悔しい負けをどうやって今後の糧にするかが重要だ。輝かしい未来を切り開くためにも、今回のC大阪戦で感じた「現在地」を脳裏に深く刻み付け、できる限りの努力を払うこと。それに徹してもらいたい。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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