昨年11月の浦和戦で、フィードを前線に送る坂井(右) [写真]=東和正
28日にハビエル・アギーレが発表した日本代表23人メンバーで、一際目を引いたのはサガン鳥栖所属のDF坂井達弥だった。
プロ2年目となる今季のJリーグ出場は、負傷もあってわずか4試合。昨季も14試合の出場に留まった。経験のない坂井がアギーレに抜擢されたのは、183センチの左利きという希少性が評価されたからに他ならない。左利きのセンターバックといえば、トルシエジャパンの中核を担った中田浩二が思い浮かぶが、それも10年以上前のこと。近年の日本代表には見られないパーソナリティーといえる。
左センターバックには左利き。これはポゼッションチームの理想ではある。もちろん、「相手よりボールを持つ、相手より攻撃を仕掛ける」と語るアギーレのチームにとっても例外ではない。
その理由は第一に、左センターバックに左利きが入ると、相手FWのプレスからボールを隠しやすい。逆に右足にボールを置くと、相手FWにボールをさらす格好になり、安定したボールキープが難しくなる。また、現代サッカーでは、ボランチが相手のマークを受けたとき、センターバックがドリブルで中盤へ持ち運んで解決するケースも珍しくないが、このようなプレーも左サイドでは左利きのほうがやりやすい。
ザックジャパンでこのポジションを務めた今野泰幸は右利きながら、左足を使うこともでき、素晴らしい適応性を見せていた。しかし、気になるのはブラジル・ワールドカップ、ギリシャ戦後に彼自身が反省したコメントだ。
「オカちゃん(岡崎慎司)、(本田)圭佑、サコ(大迫勇也)とか(長友)佑都を見ることはできていたけど、(大久保)嘉人のところがすごく空いていたというのを試合中に言われて、そこをなかなか使えなかった。そこが見えていたら、もっと展開が変わったと思うし、嘉人も活きたと思う。悔いが残りますよね」
「嘉人のところ」というのは、右サイドハーフの大久保が中央へ寄り、相手ディフェンスラインとボランチの間でフリーになっていた箇所のことだ。今野はこの試合、山口蛍に続くチーム2位となる78回のパスを出し、明らかな起点になっていた。全体が左サイドへ寄った状況で、この逆サイド側の大久保のところに今野から対角線をつなぐようにビュッとパスが通れば、相手にとって非常につかまえづらい、一段レベルが上のパスワークになっていたのは間違いない。
左足を“使える”レベルと、“純正”左利きのレベルは違う。もともと右利きの選手が左足でボールを持つと、どうしても足元が気になって視野が狭くなりがちであるし、また、純正の左利きならばインサイドキックのような体勢から、とっさに足首を返してインステップキックに切り替え、角度を変えた対角線にボールを蹴るなど、より柔軟なテクニックを発揮しやすい。たとえばドイツ代表のマッツ・フンメルスは、右利きでもそれくらいの左足の技術を備えた世界的にも稀有なセンターバック。さすがに、今野はそのレベルではなかった。
そして今回選ばれたのが、183センチの左利きセンターバックである坂井だ。左足を使えるDFを選ぶことは充分に予想していたが、正直、ここまで実績を度外視し、“純正の”左利きにこだわった抜てきをするとは思わなかった。なぜなら、来年1月のアジアカップまで、もう半年も残されていないからだ。もちろん、これで坂井に椅子が用意されたわけではない。伸びしろが評価された選手が成長しなければ、当然、次の招集リストからは名前が消える。
しかし、これほど長期的な視点で明らかな育成枠を設けたこと。この選考には大きな意味がある。「ロシアで誇りを持って戦えるように」と語るアギーレのコメントに偽りはない。
文=清水英斗
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