ボランチの定位置獲得を目指す山口蛍(左から3人目) [写真]=兼子愼一郎
文=元川悦子
11日のイラク戦まであと2日。8日から横浜市内に場所を移して事前調整を行っている日本代表は9日、試合会場となる日産スタジアムで17時半から戦術確認を行った。
この日は右太もも打撲の川又堅碁(名古屋)に続き、前夜に右足底部に痛みを訴えた清武弘嗣(ハノーファー)も別メニューを余儀なくされた。そこで急きょ、永井謙佑(名古屋)が追加招集される形となった。
その永井を含めて26人全員で練習開始前にユニフォーム姿で記念撮影。この後、いつもよりかなり短い1分間のミーティングを経て、トレ―ニングがスタートした。しかし、メディアに公開されたのは冒頭15分間のみ。非公開で守備の約束事の徹底を入念に行った模様だ。
3月の新体制初陣となったチュニジア戦(大分戦)に先発出場し、2014年ブラジルワールドカップ以来の代表復帰を果たした山口蛍(C大阪)にとっても、今回の6月シリーズは重要な意味を持つ。昨年8月の右ひざ負傷から復活したものの、今シーズンJ2ではチームの足踏み状態に苦しんでおり、5月の国内組短期合宿も足の状態を考えて練習回避となった。そういう悪い流れを払しょくすると同時に、インターナショナルレベルでも十分戦える底力を今一度、強く印象付ける必要があるのだ。
「(セレッソで)試合数をこなしてきてるから、前回(3月)よりコンディションはよくなってるし、今は何も不安はない状態ではあります。正直、チームはうまく行ってなかったけど、それをこっち(代表)に持ってくるわけじゃないんで、しっかり割り切ってやっていくだけだと思います」と彼はメンタル面をキッチリと切り替えて、代表戦に向かっていくつもりだ。
今回のメンバーを見ると、ボランチの候補者は長谷部誠(フランクフルト)、谷口彰吾(川崎)と柴崎岳(鹿島)と山口の4人。ただ、柴崎はハリルホジッチ監督にはトップ下としても位置付けられているだけに、主に長谷部と山口がこの2試合のボランチを担うことになるだろう。1月のアジアカップ(オーストラリア)で国際Aマッチ150試合を超えた遠藤保仁(G大阪)が世代交代のため招集見送りとなり、32歳の今野泰幸(G大阪)も今回は選考漏れとなったこともあり、24歳の山口蛍に託されるものは非常に大きいのだ。
16日のシンガポール戦(埼玉)で2018年ロシア・ワールドカップへのチャレンジがいよいよスタートするが、3年後の本大会の時、長谷部は34歳。その時点の状態は全くの未知数だ。27歳という脂の乗り切った年齢で2度目の大舞台を迎える山口蛍がより大きな存在感を示さなければ、日本の中盤は支えられない。ともにブラジルの地を踏んだ青山敏弘(広島)も「ワールドカップ3試合全てに出た蛍の得た経験は物凄く大きい。その財産を日本の未来のために生かしてほしい」とエールを送っていたことがあった。そういう周囲の期待に応えるべく、彼はJ2レベルをはるかに超越したパフォーマンスを示さなければならない。
「ワールドカップ予選は初めてなんで、どういう雰囲気なのかあんまり分からないですけど、少しでもチームの力に少しでもなれたらいいなと思います。ハリルホジッチ監督も『(予選)全部勝ちたい』とミーティングで言っていた。自分たちもその覚悟を持って、全部勝っていきたいと思ってます。監督のやりたいことも前回より明確になっていると思う」と山口は前向きに言う。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ人指揮官が強調する球際や寄せの激しさ、攻守の切り替えの速さ、縦への素早い展開といった世界基準の重要性を、ブラジルで実際にコートジボワールやコロンビアと対峙した彼は感覚的に理解しているはず。それを自らピッチ上で実践し、ワールドカップを経験していない谷口ら若手に伝えていく責務も背負っている。
今季のC大阪ではディエゴ・フォルランとのホットラインから数多くの得点機を演出しているだけに、攻撃の起点としての期待もより高まっている。岡崎慎司(マインツ)や大迫勇也(ケルン)ら前線と同じようないい関係を築ければ、山口の攻撃センスもこれまで以上に前面に出るはずだ。
この男の完全復活がハリルホジッチ監督の率いる新生・日本代表の今後の動向を大きく左右すると言っても過言ではないだけに、まずはイラク戦の一挙手一投足に注目したい。
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By 元川悦子