11月17日のカンボジア代表戦に出場した本田圭佑 [写真]=Getty Images
3シーズン目を迎えたミランでは出場機会が減り、苦境に追い込まれている本田圭佑。しかし日本代表では依然として絶大な影響力を誇っている。2015年の国際Aマッチではチーム最多の10ゴールをマークし、岡崎慎司(レスター)、香川真司(ドルトムント)とともに日本攻撃陣を力強くけん引し続けているのだ。かつて日本代表でともにプレーした遠藤保仁(ガンバ大阪)も「クラブでは事情もあるでしょうけど、日本代表では間違いなく必要な選手。あれだけ前線で体張って起点を作れる選手はあんまりいない。年齢的にも非常に一番いい時期を迎えているとは思うので、攻撃の中心としてこれからもやってくれるとは思います」と本田の存在感に太鼓判を押していた。
彼の影響力はピッチ内にとどまらない。ピッチ外でも他選手とコミュニケーションを密にする努力を惜しまないという。その一挙手一投足を、今年代表デビューを果たした藤春廣輝(G大阪)が話してくれた。
「海外や代表の話、第2のサッカー人生を含めてかなり熱い話をしてくれます。11月の海外遠征(シンガポール&カンボジア)では食事の時に圭佑くんと槙野(智章)くんがホンマによう喋ってた。そこに(原口)元気や(西川)周作くん、自分も混ざって30分くらいは残ってました。他の選手はとっくに帰ってるのに(苦笑)。僕個人に限って言えば、2時間くらい話を聞いたこともあります。圭佑くんはいろいろな語学を勉強しているらしいんで、自分も来年から英会話に行ったりしようかなという気になりました」
本田とピッチ外で名コンビを組み、トークでチーム全体を盛り上げている槙野は「圭佑くんの雰囲気がチームのいいバロメーターになっている」と強調する。
「僕は食事でもよく隣に呼ばれるし、部屋に行ってコーヒーを一緒に飲んだりもします。今は圭佑くんが笑うとチームが明るくなる。すごくいい影響をもたらしてくれているし、彼の振る舞いがチーム状態をよく表してくれていると思います。ザッケローニさんの頃は、少し気負いすぎてた感じがありますよね。当時は『自分がやらなきゃいけない』って思いが強かったのかもしれないけど、今は『チームとして自分が輝くためにどうするか』ってことを考え、チーム第一の発言と行動を取ってくれている。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に物申す時も圭佑くんと長谷部(誠)さんがきちんと言ってくれてますし、チームを思っての行動がすごく目につく。僕から見ると『頼もしい』という印象が強いですね」
槙野が言うように、本田が今の日本代表の絶対的中心なのは間違いない。とはいえ、彼も来年6月には30歳の大台を迎える。いつまでも彼に多くの責任を託し続けるのはリスクが高いと言わざるを得ない。この状況を打破するためにも、本田や長谷部のようにリーダーシップのある若手の出現が待たれるばかり。それは槙野も危惧するところだ。「一つ気になるのは、選手の誕生日とかチームのイベントがある時。28歳の俺がまだ仕切ってるんですよ。下にいっぱい選手がいるのにね。そういう時に若い選手が率先して動いて勢いつけてくれないと。いつまでも俺に頼ってたらダメだよね」と若きムードメーカーの台頭を待ち望んでいた。
確かにハリルホジッチ体制になってから、92年生まれの宇佐美貴史(G大阪)や武藤嘉紀(マインツ)、93年生まれの遠藤航(湘南ベルマーレ)、95年生まれの南野拓実(ザルツブルク)ら20代前半の選手が増えている。だが、彼らは真面目なタイプが多く、本田や槙野のように周りにうるさがられるほどコミュニケーションを取ったり意思統一を図ったりすることはない。
「今の五輪世代(U-22日本代表)はホントに静かで、食事会場もシーンとしているっていうから、ホント心配だよね。1月の最終予選を突破したら、オーバーエイジでリオデジャネイロ・オリンピックに手を挙げたいくらい。テグさん(手倉森誠監督)にも『試合に出なくてもいい。ベンチで盛り上げるからお願いしますよ』ってアピールするよ」
槙野がこう冗談交じりに言うほど、若い世代は感情や情熱を前面に押し出さない傾向が強いようだ。
かつてカズ(三浦知良/横浜FC)が「日本をワールドカップに連れていく」という名言を残して、多くのファンや選手たちを感動させたが、そうやって自己表現をする人間が一人でも多く出てこないと、日本サッカー界は活性化されない。それは2016年以降の大きな課題だろう。
本田には今後もチームの攻撃の軸、コミュニケーションの柱として君臨してもらう必要がある。だが、その一方で本田依存症から脱することも日本代表の重要テーマ。果たして誰がその大役を担うのか。年齢に関係なく自己主張し、日本サッカー界をけん引できる人間の出現が待たれる。
文=元川悦子
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By 元川悦子