昨季はケガに泣いた小林(左)。今季はすでにリーグ戦2試合で3ゴールを決めている [写真]=Getty Images
「心は何度も折れている(笑)。もう嫌になるくらい。何で僕なんだろうと思ったりもした」
今回、日本代表候補メンバーに選出されたFW小林悠(川崎フロンターレ)は、5日の2016明治安田生命J1リーグ・ファーストステージ第2節、湘南ベルマーレ戦後にそう笑って振り返った。これまで負傷による代表辞退は3回――。2014年10月のジャマイカ戦で代表デビューを飾るなど代表監督に能力を評価されながらも、その実力を発揮する日の丸の舞台は遠かった。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が小林に初めて声を掛けたのは、2015年3月のことだった。初陣として注目を集めたチュニジア代表、ウズベキスタン代表との親善試合に臨む代表メンバー31名に名を連ねた。しかし、小林はメンバー発表から3日後のリーグ戦で負傷。右ハムストリングの肉離れで涙を飲んでの代表辞退となった。
アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ体制下でもケガを理由に辞退や途中離脱を経験しているだけに、そのショックは大きかった。自身のブログ(http://ameblo.jp/kobayashi-yu11/)で、「誰かが言っていました。『神様は乗り越えられる人にしか試練を与えないんだよ』と。神様に言いたい。何回目だよ! そんな俺強くないわ!笑」と明るく振る舞ったが、その言葉には悲痛な想いが滲んだ。その後もけがに悩まされ、昨年5月には右ひざの手術を決断。ファーストステージ最終節で復帰を果たすも、セカンドステージに入ると右ふくらはぎの肉離れを発症し、予備登録メンバーに選出されていたEAFF東アジアカップ2015への出場も叶わなかった。
そして今、ようやくハリルホジッチ監督の下でプレーする時を迎える。日本代表候補は3月7日から9日にかけてトレーニングキャンプを実施。候補合宿ではあるが、小林には期するものがあるはずだ。
「ハリルさんの下でやるのは初めてなので、しっかりと自分の良さを見せたい。どんな練習をするのか楽しみですし、いろいろな指導者の下でできれば自分の成長にもつながると思います。たくさん吸収したい」
小林の一番の武器は、動き出しの良さだ。先日の湘南戦でもその特長を存分に発揮した。相手DFと駆け引きをしながらゴール前の空いたスペースに抜け出した小林は、FW大久保嘉人のスルーパスを受けると、相手GKをあざ笑うかのように軽く浮かせたシュートでネットを揺らした。2点目は相手のマークを外してフリーになり、MF大島僚太からのパスを受ける。巧みなトラップから前を向き、右足を振り抜いた。MF中村憲剛も「悠は、ボールが別のところにある時から、自分が欲しいスペースにしっかりと走り込んでいる。だから2点取れたし、アシストもできた。彼は相手の嫌がることをできるスペシャリスト」とその能力を高く評価した。
単に裏への抜け出しが巧いだけではない。相手を背負ってのポストプレーではボールを失わない強さがあり、177センチと決して長身ではないが競り合いに強く、空中戦でも頼りになる。守備では労を惜しまず動き回り、献身的にプレッシャーをかける。つまり、ハリルホジッチ監督が強調する「デュエル」の強さを兼ね備えた選手だ。
そんな小林が掲げる今季の目標は「ケガをしないこと」。FWでありながら具体的なゴール数を口にすることはない。むしろ、これまでの悔しさが凝縮された重みのある一言に感じた。「ケガをしないために何ができるのか。昨年、散々探して今年を迎えているので、それがうまく今季の結果につながってほしい」とシーズンオフは今まで以上にケガをしない体作りを徹底した。「練習でも筋トレや体幹トレーニング、ケアをしっかりとやっている。それが一番自分の成長になるし、チームの助けにもなる」。試合に出続けることができれば、おのずと結果はついてくる。その自信は、今季のプレーに表れた。
小林は開幕から2試合ですでに3ゴールを奪い、存在感を思う存分に示している。コンディションは良好で、「しっかりと自分の良さを見せて、アピールしたい」と意気込みを示した。まずは3月末に控えるロシア・ワールドカップ アジア2次予選の2試合に向けた本メンバー入りへ、この3日間でインパクトを残したい。今度こそ代表定着へ――、小林悠の新たな戦いが始まる。
文=高尾太恵子
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By 高尾太恵子
サッカーキング編集部