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小遣い月額10円の選手も…最貧国から世界一を狙うU-16マリ代表が日本サッカー界に与えた衝撃

2016.06.27

3戦全勝でU-16インターナショナルドリームカップを制したマリ代表 [写真]=川端暁彦

 6月22日から26日にかけて鳥取県で開催されたU-16インターナショナルドリームカップ。現地で大会の話題をさらったのはU-16マリ代表の戦いぶりだった。

マリ代表

日本戦に臨んだマリ代表イレブン

「心を掴まれてしまった」という言葉で形容したのはテレビ中継の解説者として来鳥していた元日本代表MFの水沼貴史氏。日本も寄せ付けなかった3戦全勝という結果もさることながら、マリは「それだけではない何か」を確かに感じさせてくれることとなった。

 第2戦でそのマリと対戦した日本は「圧倒的な身体能力と迫力」(森山佳郎監督)で押しまくられて、1-2の逆転負け。だが、スコアよりもその内容が日本の16歳に大きな衝撃を与えた。

日本vsマリ

日本は1-2と逆転負けを喫した

 沈黙を余儀なくされた攻撃陣では「あんなに何もできないなんて」とFW宮代大聖(川崎フロンターレU-18)が絶句し、「(U-17の)ワールドカップが来年で良かったと思うしかない」とFW久保建英(FC東京U-18)も脱帽するほかなかった。

 守備陣もまた「ビルドアップしていても怖さを感じた」とGK谷晃生(ガンバ大阪ユース)が言い、「個の力の差。日本国内の試合では絶対にないくらいフィジカルの差があった」とDF菅原由勢(名古屋グランパスU18)が振り返ったように、肌で感じたマリの脅威に言及する。

 共通している認識は、「マリは本当に強かった。これが(昨年の)U-17ワールドカップで準優勝するような国の力」(森山監督)ということ。昨年の欧州遠征ではフランスやイングランド、オランダなどとも対戦しているが、チームスタッフの一人は「フランスとかより断然マリが強い」と断言した。

 マリの身体能力は言うまでもなく、連動したプレッシングも見事だった。ただ、何より「相手の雰囲気に飲まれた」と菅原が振り返ったように、懸命さ、ひたむきさという言葉がピッタリくるような温度感の高さこそがマリが持つ最大の魅力だったかもしれない。

 ゴールを決めた選手が涙を流して喜び、日本に勝利した時はまるで優勝したかのようなお祭り騒ぎとなった。その様子を見て「感じるものがあった」と菅原も言う。果たして自分たちはマリの選手ほどの強い気持ち、勝利への執着心を持って戦っていたのかという疑問である。

 マリを指揮するヨナスコク・コムラ監督も同じようなことを感じていた。「日本の選手のテクニックは本当に素晴らしい」などと絶賛のコメントをした上で、同時にこうも言った。

「もしかしたら日本選手の頭の中に『生きるためにはサッカーしかない』という感じではないのかもしれませんね。彼らには他の選択肢があるのかなという印象は受けました。マリの選手は違います。彼らにとってサッカーは、本当に生きるための手段なのです」

コムラ

U-16マリ代表を率いるコムラ監督(中央)

 マリは後発開発途上国(途上国の中でも特に発展が遅れている国々で、俗に「最貧国」とも言う)の一つであり、資源が豊富なわけでもない貧しい国である。関係者によれば、マリの平均月収はエリート階層ですら1万5千円ほどで、今回の日本遠征で彼らが訪れた100円ショップでも「高すぎて買えないよ!」という反応だったと言う。月の小遣いが10円や20円という選手もいるそうなので無理もない。

「マリの子供たちの夢は当然プロサッカー選手になることですし、彼らにとってのサッカーとは、家族を生かすための大きな手段なんです」

 このコムラ監督の説明を踏まえると、U-16という世代はまさに貧困から抜け出すための扉に手を掛けた段階。チーム結成から3カ月で迎えた日本遠征は、彼らにとって生まれて初めて飛行機に乗る機会であり、初めての海外であり、初めて迎える本格的な国際試合だった。臆してもおかしくない状況ながら、彼らは勇気ある挑戦者だった。

「(選手選考の)プライオリティーは何よりハートですよ」というコムラ監督の哲学もあったのだろう。「ストリートサッカーで育ってきた選手に集団で戦うことを教えるのが私の仕事」と豪語する指揮官は、練習の前後に必ず国歌を全員で歌うなど「どれだけ代表のユニフォームのために汗をかけるのか」を選手に問うてきたと言うが、その成果はピッチ上にも確かに反映されていた。

 肉体的な能力の差を埋める努力は当然必要で、戦術的に対応することも不可欠だ。各選手はマリとの試合を通じて取り組むべき課題を感じたことだろう。ただそれ以上に「やっぱりハートなんだな」(菅原)という気付きを日本の選手たちに与えたことの意味も小さくない。開催中の欧州選手権を見ていても分かるように、ひたむきに戦うチームが絶対に強いのがサッカーというスポーツの根源にはある。ひたむきに戦う姿勢で「気付き」を与えてくれた若きマリ代表に感謝する日が、そう遠くない未来にやって来ることを期待している。

文・写真=川端暁彦

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By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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