大会前最後の試合でブラジルと対戦したリオ五輪日本代表 [写真]=Getty Images
8月4日21時(日本時間5日10時)に初戦のキックオフを迎えるリオデジャネイロ・オリンピック日本代表に、直前で追い風が吹き始めた。試合前日になっても対戦相手のナイジェリア代表が試合会場のマナウスに入っていないというのだ。
これまで3度延期されたナイジェリアのマナウス入り。アメリカのアトランタで事前キャンプを行っていたが、試合前日の3日もチャーター機が小さくてチーム全員が乗れないとの理由でキャンセル。試合当日7時発の便に4度目となるスケジュール調整がなされたことがナイジェリアメディアによって報じられている。
彼らがマナウスに到着するのはキックオフの約7時間前。アトランタとは時差がないものの、深夜~早朝の移動を強いられたままスタジアム入りすることになる。もちろん気候への適応もままならならず、順調に調整を進めてきた日本が優位に立てるのは間違いない。
もっとも手倉森誠監督は、ナイジェリアの動向に惑わされてはいけないと選手たちに説いている。
「(ナイジェリアの移動遅れは)想定外ですよ。でも、それを追い風だと思っちゃいけない。やっぱり敵は手強いし、我々は強いチームではなく、強くなりたいチーム。そういう姿勢で入っていかなければいけないと思います」
日本にとって最悪の事態は、油断して足下をすくわれること。相手がどのような状態だろうと、自分たちのやるべきことは変わらない。そして変えてはならない。手倉森監督は決勝まで全6試合の戦いを前提に考え、ゴール地点から逆算してコンディショニングや戦術の刷り込みを行ってきた。決してナイジェリア戦がすべてではない。
2014年1月にチームが立ち上げられて以来、2年間半に及ぶ活動の集大成となる戦いが迫っている。だが、選手たちはアジア最終予選と比べても、ずいぶんと落ち着いているように見える。
その理由の一つに、コンディション調整が順調に進んでいることが挙げられるだろう。手倉森監督は笑みを浮かべて言う。
「昨日、一昨日の練習では選手たちにスピードとキレが戻ってきている。日常の散歩でも暑さを苦にしなくなってきている。ブラジル戦ではあらゆるものが整っていない中で、ああいうパフォーマンスだったけど自分の中では計算どおり。あそこを境にいろいろなものを調整し始めれば、ナイジェリア戦でピークが来るだろうなと」
そしてもう一つは、やはりブラジル戦の効果だ。“仮想ナイジェリア”の意味合いもあったゲームで、おそらくナイジェリア以上のテクニックとスピードを体感した。課題もたくさんあぶり出されたが、ナイジェリアをイメージしやすくなったのは確か。ブラジルより強烈なことはないだろうという思いが選手たちに自信を与えている。
「ブラジル戦は圧倒されたけど、感じたことがたくさんある。分析してみると、ナイジェリアに対して少しはできるという感じがある」と話したのは興梠慎三(浦和レッズ)だ。一方、キャプテンの遠藤航(浦和)は「ブラジル戦で出た課題は明確になっている。ナイジェリア戦ではそれを修正したい」と言う。
その課題として指揮官が挙げたのが、「連動性」と「プレッシング」だった。
ブラジル戦では攻撃が縦一辺倒になってボールを失いがちだったこともあり、その後の3日間のトレーニングではスピードを落とさないようにしながら、しっかりと間のスペースでポジションを取ってパスを引き出し、ボール保持者へのサポートと追い越す動きを連動させた。
また、ブラジル戦の前半は相手のテクニックとスピードに驚き、全体的に下がり目になって後手後手に回ってしまった。相手のミスを待ったり、ボールを奪う位置が低くゴールが遠かった点も課題だった。
中盤でリンクマンとなる大島僚太(川崎フロンターレ)が「(植田)直通とも話したんですけど、(ブラジル戦では)前半からもっと激しくて速いプレスを掛ければ、(前で奪ってショートカウンターを繰り出した)後半のような戦いができたかもしれない」と言えば、その植田も「相手の出方に関係なく、『戦うんだ』という意思を見せなければいけない。最初からみんなで行きたいと思います」と力を込める。
大会を通じたテーマは「耐えて勝つ」。
ナイジェリアよりも日本のほうがコンディション面で上回っていることからも、「持久戦に持ち込む」(手倉森監督)、「後半勝負」(興梠)というゲームプランに変わりはないが、だからといって前半は自陣に閉じこもるわけではない。指揮官は「ゲームの入り方はアグレッシブに、慎重に行って、最後にスキを突いて仕留められればというイメージを描いている」と考えている。
この「アグレッシブに、慎重に」という言葉からは、先制点を与えないために攻撃的な守備をするという狙いがうかがえる。
順調に調整を続けてきたからこそ、手倉森監督はナイジェリアがスタジアムに到着せず、試合を行えない事態になってしまうことを懸念する。
「大会に入っていくために、ここに照準を合わせて状況を作ってきた中での完成度を測りたい。相手がどんな状況だろうと、我々のやってきたことを示したい。だから『目の前に必ず現れてくれ』という思いでいます」
果たしてナイジェリアは試合会場に現れるのか。予定どおりにゲームが行われたのなら、メダル獲得へ弾みをつけるためにも手負いの“イーグルス”からしっかり勝ち点3を奪わなければならない。
文=飯尾篤史