日本代表での活躍に期待がかかる大迫勇也(左)と齋藤学(右)[写真]=JFA
2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選の行方を大きく左右する15日のサウジアラビア戦(埼玉)に向け、6日から茨城県内で事前合宿に入った日本代表。2日目となる7日は長谷部誠(フランクフルト)、香川真司(ドルトムント)、酒井高徳(ハンブルガーSV)、大迫勇也(ケルン)、浅野拓磨(シュトゥットガルト)の欧州組5人と、6日の明治安田生命J2リーグ・愛媛FC戦に出場した山口蛍(セレッソ大阪)の6人が合流。合計18人でトレーニングを実施した。
初日から参加しているグループは狭いエリアでの1対1、2対2などデュエル(局面での戦い)を強く意識したメニューに取り組んだ。「デュエルっていうのはウチのフランス人(横浜F・マリノスのエリク・モンバエルツ監督)も言うから聞き慣れている。自分は1対1の場面で違いを作っていかなければいけない」と齋藤学(横浜FM)が語ったように、練習に参加した選手たちはバトルを強く意識しながらプレーした模様だ。
その齋藤は、10月に行われたイラク(埼玉)・オーストラリア(メルボルン)の2連戦でも招集されたが、出番なしに終わった。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督もオーストラリア戦では彼の投入を考えたが、「本田(圭佑=ミラン)と小林(悠=川崎フロンターレ)にはFK対応の明確な役割を与えていた。齋藤や浅野だと経験がない分、プレッシャーに負ける不安があった」と起用を見送った理由を説明していた。本人としては出る気満々だったが、空振りに終わり、メンタル的に相当なダメージを受けたというが「信頼を得られないっていうところが出場チャンスをもらえないところにつながっている。『ここで使っても大丈夫』と思ってもらえるようなプレーを練習から出していかないといけない」と本人も気持ちをしっかりと切り替えている。
そうやって前向きな精神状態を維持しないといけない考えるのは、2014年ブラジル・ワールドカップで出番なしに終わった悔しい経験があるから。「ブラジルの時も練習からすごく調子がよかったので、出たらやってやるぞという思いでいたんですけど……」と当時の不完全燃焼感を吐露する。それでも「ザックさんの時は出ることに対する不安や怖さが多少あったが、今は全然ない。この前の代表で待ってる時、『ああ、成長したな』と思いました」と本人は余裕を持って大舞台にのぞめているという。
同じ90年生まれの齋藤と似たような精神的余裕を漂わせるのが、1年4カ月ぶりに代表復帰した大迫勇也(ケルン)である。ご存知の通り、この男もブラジル・ワールドカップ経験者ではあるが、2年前の世界舞台では初戦・コートジボワール戦(レシフェ)と第2戦・ギリシャ戦(ナタル)で連続先発しながら、相手に脅威を与えられないまま途中で退くという苦渋を味わった。直後に移籍したケルンでもFW以外のポジションで起用されるなど、2シーズン合計4得点という苦境に追い込まれた。昨シーズン途中には「大迫はホームシックにかかった」と現地メディアに報道されるなど、構想外のような見方をされる時期すらあった。
「FWじゃないポジションでプレーしたことも成長につながった? それを言ったら何でも成長になっちゃいますけど(苦笑)。ただ、苦しい思いはしましたからね。ああいう思いはしたくないっていう気持ちが強いですね」と本人はしみじみと当時を述懐する。
その悔しさをバネに、今シーズンはケルンでFWとして定位置を確保。ブンデスリーガでガボン代表FWピエール・エメリク・オーバメヤン(ドルトムント)と並ぶ11ゴールを叩き出し、得点ランクトップタイに立つフランス人FWアントニー・モデストと2トップを形成し、リーグ戦2得点2アシストと活躍している。この躍進ぶりに10月の代表2連戦でも「大迫待望論」が高まり、今回ついにハリルホジッチ監督に必要性を認めさせることになった。
「代表とクラブの違いは1トップと2トップの違いくらいだと思うし、むしろこっちの方が前に行けるので。自分は今、ドイツでFWとして試合に出ていますし、代表でもFWの選手としてしか考えてない。サイドの選手ではないし、そこは監督も分かっていると思います」と本人も点取屋としての意地とプライドを前面に押し出した。
今回の最終予選に入ってから原口(元気=ヘルタ・ベルリン)が最大の得点源になっていることについても「得点源はそこだけじゃなく、もっとたくさん増えればいいんじゃないですか」と自分自身が新たなフィニッシャーになることに強い意欲をのぞかせた。
ブラジルの地で悔恨の念を抱いた両アタッカーが今回のサウジアラビア戦で完全復活を遂げてくれれば、日本代表のムードもがらりと変わるはず。まずは11日に行われるキリンチャレンジカップ 2016のオマーン戦(鹿島)で目下絶好調の2人の競演をぜひ見てみたいものだ。
文=元川悦子
By 元川悦子