12年ぶりの優勝を果たしたU-16日本代表 [写真]=佐藤博之
マレーシアで開催中のAFC U-16選手権は7日に決勝戦を迎え、U-16日本代表はU-16タジキスタン代表を1-0で撃破。柿谷曜一朗、水沼宏太らを擁した2006年大会以来、実に12年ぶりとなる栄冠を勝ち取ってみせた。
ただし、その過程は順風満帆では全くなかった。何しろそのスタート時点において、このU-16日本代表は、二つの意味で「森山佳郎監督のチーム」ではなかったのだ。
森山監督は今年2月に有馬賢二前監督からチームを引き継ぐ形で就任したが、代表チーム自体は前年3月からすでに1年間にわたって活動済みという状況である。その上でAFC U-16選手権まで半年余りしか時間はなかった。実を言うと、このバトンタッチを森山監督は当初かなり渋っていた。2017年にU-17ワールドカップを戦ったチームで自分なりにやり切ったという感覚もあり、「自分とは違う、別のやり方で世界に挑んだほうがいいのでは?」という考えもあった。そもそも1年間にわたってチームを作ってきた指揮官が別にいるのだから、その監督で行くべきではないかという森山監督なりの筋論もあった。
ただ、引き受けたからにはやり切るのみ。勢い込んでまずは2月のUAE遠征から活動をスタートさせるのだが、そこで森山監督は現実と直面する。
「力のない年代だという評価は聞かされていたし、『きっと厳しいのだろうな』と思ってはいました。ただ、今年2月のUAE遠征に行ってみて、これは相当、本当に厳しいぞ、と……」(森山監督)
自身が率いていた先代のチームと比べて、この時点でのチーム力は明らかに低い。「これでは本当にアジアの厳しい環境では勝てない」。この遠征を終えてから森山監督のまとうオーラは、まさに“危機感”そのものだった。
ただ、当初はまさに「笛吹けど踊らず」の部分が少なからずあった。「他の監督が作ってきたチームを引き継ぐというのは、もう本当に、想像していた以上に難しい部分があった」と振り返る。そもそも代表監督と代表選手の関係性というのは繊細なものだが、引き継ぎ監督となるとさらに難しい。監督からすると自分が選んだ選手たちではなく、選手たちからすると自分を選んでくれた恩人ではないのだ。少々奇妙な距離感のある代表チームに見えたし、それはピッチ上のパフォーマンスにも現れてしまっていた。
またAFCのルールも指揮官を悩ませていた。このチームは2002年1月以降に生まれた選手たちで構成されているのだが、1次予選メンバー以外の追加登録は2002年9月以降に生まれた選手に限るというルールがある。このため、森山監督がこの年代の選手を探す中で新しく呼びたい、試したいと思った選手も自由には呼べない。基本は前監督の選んだプレーヤーをベースとする以外に選択肢がないのだ。そもそも変化の激しい年代でもあり、日本の場合は中学生が高校生になる中で所属チームにおける出場機会を失うケースが多いという問題もあってか、これは最終選考まで大きな問題としてつきまとった。
9月以降生まれの可能性ある選手を発掘に努める一方で、今いる選手を「鍛えるしかない」とトレーニングから森山スタイルを植え付けるべく、精力的にメニューをこなした。ベースにあるのは世界云々以前にフットボーラーとして外せない基本中の基本の徹底である。素早い攻守の切り替え、ルーズボールへの即時反応、ゴール前での強さ・粘り……。サボりは一切許さず、甘いプレーは厳しく指摘した。時には先代のチームを持ち出し、選手たちのコンプレックスを刺激するようなこともあえて言った。一歩間違えればチーム崩壊のトリガーになりかねないアプローチで、実際に不満をこぼす選手もいたのだが、指揮官はそこで「なにくそ」と燃えてくる選手をこそ求めた。
外野から見守っている立場としては「まとまりとか団結力とかは最後の段階で出していける」という指揮官の言葉には納得しつつも、少々の不安がなかったと言えば、ウソになる。主将のDF半田陸(モンテディオ山形ユース)は「直前のヨルダン遠征になっても、全然チームとしてのまとまりがなくて……」と振り返るが、これは指揮官が激しく競争の炎を煽ってきた効果が出始めていた裏返しでもあった。
チームはマレーシア入りしてから徐々に、本当に徐々にではあったが、その炎を力に換えていく。森山監督の狙いもまた、大会前にチームを仕上げるのではなく、「戦いながら成長させる」ことにあり、その旨を明言してもいた。育成年代をずっと教えてきた指導者らしいアプローチである。
そんな大会の入りは、結果を除けば最悪だった。タイとの初戦は5-2というスコアこそ大勝だったが、開始早々に失点し、後半はチームが前と後ろで意思統一されずにバラバラになる中で相手に試合を支配される体たらく。最初の失点にしても、DF鈴木海音(ジュビロ磐田U-18)が目の前でシュートを打たれているのに体を張らないという、森山監督からすると「絶対にあってはいけない」形だった。鈴木個人に厳しい雷が落ちたのは当然で、指揮官はそのまま鈴木を外すことも考えたと言う。だが「次の練習から目の色を変えて戦う姿勢を出してきた」ことで考えを変える。これぞまさに指揮官が求めてきた「なにくそ」の姿勢だったからだ。
戦う姿勢を欠いたエース格のFW西川潤(桐光学園高)にも落雷があった。相手の激しいプレーに対して「簡単に転んでいるんじゃねーぞ」と問い詰め、守備をおろそかにする姿勢も厳しく指摘。変化を促した。これに対し、西川もまさに「なにくそ」を見せる。控え組に回されて悔しがったFW唐山翔自(ガンバ大阪ユース)、MF中野桂太(京都サンガF.C. U-18)といった選手も、「なにくそ」の意志を見せ続け、それはチーム全体に伝播していった。
そして大きなターニングポイントは「雷」だったように思う。森山監督の口から発せられる落雷ではなく、こちらはホンモノの雷。グループステージ突破を懸けて開催国マレーシアとぶつかることになった第3戦が、まさかの雷雨到来で順延となってしまったのだ。翌日11時からのキックオフとなり、すべての計算が狂う中での戦いとなったが、この土壇場で選手とスタッフが一致団結。雨降って地固まるように、見事な戦いぶりで2-0とマレーシアに完勝し、準々決勝進出を決めた。
世界大会出場権の懸かった準々決勝・オマーン戦を前にした練習では森山監督が求めてきた現象があちこちで感じられるようになっていて、外野の目からしても「これは運が悪くなければ負けないな」と思えるほどの仕上がりになっていた。実際、運も悪くてドキドキの展開になってしまったのはご愛敬(?)だったが、そういうタフでハードな試合経験もチームが仕上がる一助となった。
決勝の後半終盤には実に印象的な場面もあった。ゴール正面のこぼれ球から相手がシュートを狙ってくる場面で、3人が猛然とシュートブロックに入る。「シュートから逃げるな」とはよく言われることだが、逃げるどころか向かっていく勢いを見せてのブロックは、まさに森山監督の教えを体現するもの。「強くない」と評されていた選手たちが、戦いながら強さを身に付けていった証だった。もちろん、そうした側面に頼るだけのチームだったわけでもなく、コンビネーションで相手を崩す、技術的な質の部分も追求してきた。そして、それは練習でディフェンス役に入る選手たちの“防御力”向上と共に難易度も自然と上がり、矛と盾として相互に高め合う効果も生み出すことになっていた。
6月のJFAインターナショナルドリームカップで全敗したときは「森山監督“らしからぬ”チーム」という声もあった今回のU-16日本代表だが、最後には何とも“森山監督らしい” 、一体感を全員で戦い抜く好チームに仕上がり、見事に12年ぶりのタイトルを勝ち取ることとなった。
文=川端暁彦
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By 川端暁彦