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不動の1トップが見せつけた絶大な“効果”…次なる戦いは「最強の相手」との大一番

2019.01.28

[写真]=Getty Images

 VARによって与えられた堂安律のPK弾で1点をリードした日本。しかし、攻撃の手詰まり感が拭えない展開が続いていた。今月24日にドバイで行われたAFCアジアカップUAE2019準々決勝のベトナム戦、重苦しいムードが漂う中、70分に“その男”は登場した。

 森保一監督が満を持して「サコ」と口にすると、アップの強度を上げていた大迫勇也はすぐさまベンチに駆け寄り、ユニフォームに着替えた。そして、北川航也に代わって定位置の1トップに陣取る。この直後から日本の前線に“タメ”が生まれ、攻めのバリエーションは一気に広がった。

「大迫さんの場合、ただ1タッチ2タッチで急ぐだけでなく、必要な時にはドリブルで3~4秒タメを作ってくれる時もある。ボールキープから先の展開は正直言って、他のFWとレベルが違う」と柴崎岳が話した通り、大迫が入ってから攻めのリズムがガラッと変わった。終盤にはロシア・ワールドカップをともに戦った盟友・乾貴士も投入され、若いアタッカー陣も生き生きとプレーするようになった。堂安が「(サコ君や乾君とは)やっぱりやってて楽しかった」と語るほど、“大迫効果”は絶大だった。

 今大会初戦(トルクメニスタ戦)で2得点を決めたが、昨年末から痛めていた右臀部の負傷を再発。グループステージの間、別メニュー調整を強いられてきた。その後、決勝トーナメント1回戦のサウジアラビア戦前に全体練習に合流すると、ベトナム戦前の練習では強烈なシュートを放つなど、コンディションは上向いていた。だが、指揮官は敢えて大迫の起用を見送り、北川と武藤嘉紀で急場をしのいできた。

 そこまで慎重なスタンスを貫いたのも、強豪相手の大一番に、大迫の存在が必要不可欠だと考えていたからこそ。本人もそれを理解していたから、焦らずベストな状態を取り戻すことに専念してきた。ベトナム戦のラスト18分間、ロスタイムを含めた22分間の出場で、その成果が如実に出た。連携やコンディションなど、森保監督も安堵を覚える内容だったはずだ。

「下から這い上がってきてほしい」

[写真]=Getty Images

 ゲームから遠ざかっていた間、大迫は自分なりにチームのために振る舞ってきた。練習では乾らとともに笑顔でチームを盛り上げ、サウジアラビア戦では武藤、ベトナム戦では原口元気に対してハーフタイムに熱く指示を送った。特にインパクトが強かったのが、北川に対する愛ある苦言だ。

「長友(佑都)さんとかは『若手が力を出せないのはベテランのせいだ』って言ったりしてるけど、僕の考えは違う。こんなチャンスはなかなかないし、日本の中で11人しか試合出られないわけだから『やってやるぞ』っていうのをもっと出してほしい。僕らが引っ張るんじゃなくて、下から這い上がってきてほしいですけどね」(大迫)

 自身の代役に抜擢された若武者に刺激を与えた。こうした立ち振る舞いは、半年前までとは明らかに違う。ロシアW杯までは長谷部誠や川島永嗣、本田圭佑といった年長者がいた。当時は「自分は中堅」という認識だったのだろう。けれども、若いメンバーに入れ替わった今、28歳の大迫はベテランの域に達しつつある。年齢的には乾に続く2番目、代表キャップ数も原口に次ぐ位置にいる。

 乾と原口のポジションは中島翔哉という新世代アタッカーが台頭したが、大迫の「1トップ」は今のところ替えが利かない。今大会に入って武藤がようやく潜在能力を発揮しつつあるものの、大迫ほどの落ち着きと安心感をもたらしているとは言い難い。そんな状況もあってか、自らアクションを起こして若手の奮起を促そうとしていたのだろう。

準決勝の相手は“今大会最強”

[写真]=Getty Images

 停滞感が続く日本の攻撃陣を活性化できるのは、やはり大迫しかいない。次戦の相手はイラン代表。ここまで5試合で12得点・無失点と、間違いなく今大会最強の相手だ。「アジアNo.1」の呼び声高い守護神、アリレザ・ベイランヴァンドはシュートストップに絶対の自信を誇る。加えて、圧倒的なスローイング能力で決定機を一瞬にして作ることもできる。モルテザ・プーラリガンジとホセイン・カナアニのセンターバックコンビは、いずれも185cm以上の長身で屈強なフィジカルを兼ね備えている。大迫と言えども渡り合うには困難の伴う相手だが、複数のDFに囲まれてもボールをキープし、味方が攻め上がる時間を作れれば必ずチャンスは生まれる。逆に、大迫がその役割をこなせなければ、背後にいる堂安や南野、原口、乾と言ったアタッカー陣がゴール前に迫ることは難しくなる。それだけは何としても回避しなければならない。

 イランのエースFWサルダル・アズムンとの1トップ同士のバトルも大きな注目点だ。長友が「大迫とイランの20番(アズムン)はアジアでもちょっと抜けてるプレーヤーだと思いますね」と2人を別格扱いした通り、彼らのどちらが輝くかで両国の命運が分かれると言っても過言ではない。タイムアップの瞬間に笑うのは、今大会4得点を挙げている「イランのメッシ」と呼ばれる24歳の点取屋なのか、それとも日本の絶対的1トップなのか。森保ジャパンの大黒柱・大迫勇也の真価が今こそ試されようとしている。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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