ミャンマー戦はテレビ朝日、ABEMAで中継されたが… [写真]=兼子愼一郎
日本の8大会連続8回目のワールドカップ出場が懸かるFIFAワールドカップ26アジア2次予選兼AFCアジアカップサウジアラビア2027予選が11月からスタートしたが、その2次予選第2節のシリア戦のテレビ・配信の中継が、試合の3日前になっても決まらない事態となっている。
第1節のミャンマー戦は日本のホームゲームであり、テレビ朝日系列で生中継、ABEMAでも生配信された。しかし、ワールドカップ出場が懸かる公式戦の放送がいまだ決まらないことは異常事態と言っていい。
テレビ放送・配信には放映権があり、中継のために権利者へ放映権料を支払う必要があることは周知の事実だ。近年はその金額高騰が世界各地で止まらず、なでしこジャパンが出場したFIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023も、大会直前まで日本国内での放映が決まらなかったことは記憶に新しい。(日本戦および決勝はNHKで放送。それ以外の試合は結局、国際サッカー連盟(FIFA)が手掛ける配信サービス『FIFA+』で無料配信された)
今回、シリア戦の放送がなぜ決まっていないのか。それはホーム開催となるシリアサッカー協会が放映権を持っており、シリアサッカー協会の放映権販売を担っている代理店が高額な放映権料を日本側に提示してきたからだ。円安・物価高もあって、かなりの乖離があったと放映権に詳しい関係者は話す。
アジアサッカー連盟(AFC)は日本において、DAZNと2028年までの主催大会配信契約を締結しているが、3次予選(アジア最終予選)に関してはAFCが一括で放映権を持つという特殊ケースのために成立している。通常は今回の2次予選のように、各協会が放映権を持っている。
単発の試合で、なぜ放映権が高騰しているのか。それは日本と対戦する国(代理店)が、「日本からどうやって大きな放映権料を獲得するか」を考えているケースが多いという。これまでは日本が放映権料のドル箱相手だったこともあり、その感覚のままで値付け→交渉をしてくるケースが多い。また、FIFAワールドカップカタール2022やFIFA女子ワールドカップでの日本勢の印象的な試合内容、プレミアリーグを中心とした欧州で活躍する日本人選手が増えていることにより、日本でのサッカー人気は高いという前提の考えを持って、強気な交渉に臨んでくるようだ。
また、サッカーの興行においては放映権料を中心としたマーケティング収入、スポンサー収入、入場料収入が利益を得るための三本柱と言えるが、日本や韓国、オーストラリア、中東などの一部国を除いたアジア諸国では、AFCが分配する放映権料を中心としたマーケティング収入に依存しているケースがほとんどのため、そこで利益を生み出そうとしている点もある。
日本側も、テレビ局や配信プラットフォーム側の持つ企業体力が以前より失われていることに加え、昨今の円安により、適正と考えている価格帯との乖離が大きくなっているようだ。前述の関係者も、「過去のイメージに基づいて相手側もビジネスをしてくる。今回はまさにそのケースです。当初のシリア戦は日本の夜中2時キックオフでしたが、こちらのゴールデンタイムで放送するような価格で交渉してきました」と苦労を口にする。
金額の乖離もあるが、加えて急な変更も今回の悩ましいポイントとなっている。シリア戦は当初、8月31日までに開催会場やキックオフ時間が決まる予定だった。しかし、今回は10月に入ってからアラブ首長国連邦での開催からサウジアラビア開催に突如変更。これにより時差も変わった。さらに金額の折り合いがつかないからなのか、11月に入ってからキックオフ時間も変更されるなど、シリア側の焦りも見て取れる状況だ。日本側のテレビ局は3カ月前には番組編成を固めたいところだが、開催国変更、時間変更が加わると対応が困難となる。
前述の関係者はシリアサッカー協会側の代理店が、シリアサッカー協会に一定額の代理販売権をすでに支払っているため、日本側との交渉で譲れない金額のラインがあるのではないか推察している。放映権はもともと無形のものに値段をつけているため、ここからはシリア側が利益をどれだけ確保するかによって放映権の行方が決まると言っても過言ではない。
JFAの田嶋幸三会長もミャンマー戦後、「最後まで交渉は粘り強くやっていかないといけない」と話した通り、ギリギリまで交渉を続け、国内での中継を実現させたいとしているが、近年の放映権高騰への釘を刺す意味でも、一定額以上の金額は支払えないとしている。
シリア戦については日本国内での放送・配信が実現しない可能性が高くなっており、日本のサッカーファンには残念な出来事となってしまうが、今後を考えると高額の放映権料を飲まずに拒否することも必要な状況だ。今後も同様に粘り強い交渉が必要になることが想定される。
取材・文=小松春生
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By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長