大勢のリーベルサポーターが道頓堀に集結。明日の決戦に向けて「バンデラッソ」を行った
「今日の18時半に、みんなでナンバに集まって『バンデラッソ』をやるんだ。俺たちも行くから、そこで会おうぜ」
15日午後、新世界の界隈で出会ったアルゼンチン人のグループが、そのような情報を教えてくれた。彼らがアルゼンチン人だと分かったのは一目瞭然、全員がリーベル・プレートのユニフォームやジャージを身に着けていたからだ。「バンデラッソ」とは、サポーターが特定の場所に集まって横断幕を掲げ、フラッグを振り、チャントを歌って大騒ぎする集会のこと。ゴール裏でサポーターが繰り広げている応援を、街中でやるものだとイメージすれば分かりやすいだろう。聞けば、アルゼンチンからは約1万2000人のサポーターが、この大会のために来日するという。
18時頃に難波に向かうと、どこからかサポーターのチャントが聞こえてくる。声のするほうに歩を進めると、戎橋と道頓堀橋の間に大勢のリーベルサポーターが集結していた。阪神タイガースが優勝した時は黄色と黒の縦縞に染まるこの空間が、この日はリーベルの赤と白にジャックされていた。昼間、出会ったサポーターたちは18時半と言っていたが、どうやらみな待ちきれず、かなり早めに「バンデラッソ」をスタートさせていたようだ。
道頓堀川の遊歩道に設けられた手すりは赤と白の横断幕であふれ、その手すりにまたがったり、上に立ったりと、それぞれのスタイルでチャントを熱唱し続ける。地元の人々や観光客は何が起こっているのか分からないながらもスマホで動画を撮影し、時折、通る遊覧船の乗客も、突然の光景に戸惑いを隠せない様子だった。
あるサポーターに話を聞いた。彼は7月のスルガ銀行チャンピオンシップ2015の際にも来日しており、今年2度目の日本滞在。今回はエアーチケット代だけで2万7000アルゼンチンペソ(約33万円)かかったという。アルゼンチンの生活水準を考えるとかなりの額だ。「もう何も残っていない。しばらくは空気を食べて生活するしかないな」という言葉もあながち冗談ではないかもしれないが、クラブワールドカップについては「(サンフレッチェ広島戦で)勝つのはリーベル。スコア? スコアは重要じゃない。勝つことが大事だ。決勝も同じ。みんなバルサが勝つと思っているだろうけど、俺たちはリーベルを信じている」と自信を見せた。
19時頃、地元警察官が対応に駆け付けた。「全く情報が入っていなかったです。あらかじめ知っていれば、こちらも対応できたんですが……」と困惑の表情を見せていたところ、事態は急展開を迎えた。前日練習を終えたリーベルの選手たちを乗せたバスが、道頓堀橋を通りかかったのだ。サポーターたちは一斉にバスに向かって走り出し、瞬く間に取り囲む。車道だろうがお構いなしにバスに群がり、最高潮のボルテージでチャントを歌う。
選手たちは静観を決め込むと思いきや、その真逆の反応を見せた。車内から窓ガラスを叩き、同じチャントを口ずさみながらサポーターに呼応したのだ。サポーターはさらに熱狂し、交通は完全にマヒ状態。大阪の中心地、難波はこの瞬間、完全にリーベルにジャックされた。この日の練習後の記者会見で、リーベルのマルセロ・ガジャルド監督は「サポーターの情熱は本当に信じられないものがある。機会があればサポーターと直接、会いたい」と語っていたそうだが、その直後にこのような光景に出くわすとは、彼自身も想像していなかったのではないだろうか。
地球の裏側から、30時間以上もかけてはるばる来日したリーベルサポーター。16日の試合では会場の半分近くを埋め尽くすだろう。彼らが本国アルゼンチンと同じような雰囲気を作り出す中、リーベルの選手たちは広島に対して真剣勝負を挑む。
文・写真=池田敏明