レアルのカンテラに所属する中井くん/レアル公式HPのキャプチャー
文=北村敦
「バルセロナのカンテラ期待の星の1人である久保建英が、クラブを退団して日本に帰国することを決断した」
バルセロナのお膝元のメディアである『SPORT』や『Mundo Deportivo』によって発信された若干13歳の日本人少年のニュースは、スペインと日本の両国において大きな話題を呼んでいる。
久保くんが今回の決断を下した理由は、「いつまで待てば再び試合に出られるか分からないから」という理知的かつ明快なものだ。とはいえ、これは久保くんではなくバルサの問題以外の何物でもない。
バルサは昨年4月、過去の18歳未満の選手の獲得ならびに登録に関する規定違反があったとして、FIFAから移籍市場における活動禁止処分など複数の制裁を受け、違法な形で獲得したと判断された若手の公式戦への起用も不可能となった。そして、その煽りを食らった1人が、2011年夏に入団した久保くんだった。
バルサは、FIFAによる制裁は不当であるとして、CAS(スポーツ仲裁裁判所)に処分の解除の異議申し立てを行ったものの、この控訴は昨年12月に棄却された。この結果、バルサで再びプレーするためには、晴れて移籍が合法となる18歳の誕生日まで4年以上も待たなければならなくなった久保くんには、退団を予想する声も出始めた。そして、クラブや両親が模索していた新たな解決策も見出せなかったため、4年近く過ごしてきたバルサに別れを告げるという苦渋の決断を下したと報じられている。
そして、この報道によって我々日本人にとって気になるのが、バルサのライバルであるレアル・マドリードのカンテラに所属している中井卓大くんの動向だろう。とはいえ、現在11歳の中井くんには、久保くんのような退団の噂はまったく流れていないどころか、レアルでの活躍の話題ばかりが目立っている。
ではなぜ、久保くんはバルセロナでのプレーを禁じられたのに、中井くんはレアルでのプレーを認められているのか? この疑問を紐解くためには、両クラブないし両選手が置かれている状況の違いを説明する必要がある。
FIFAは18歳未満の選手の国際間移籍を禁止しており、これに抵触するという点では久保くんも中井くんも同じだ。一方、この移籍規約には例外条項が設けられており、選手の両親がフットボールとは関係のない理由で国外に住居を移す場合に限り、その国のクラブに獲得の権利が発生すると規定されている。そして、バルサがこの例外条項に関して違反を行ったと認められたため、久保くんの移籍が違法と判断された訳である。
とはいえ、ヨーロッパの多くのクラブが、目を付けた未成年選手を獲得するために、両親にフットボールとは無関係の職業を斡旋したうえで移住させるという手続きを、自らの関与を隠して行っているのは公然の秘密だ。
FIFAも、当然ながら未成年選手の青田買いを積極的に行っているクラブには特に目を光らせており、もちろんレアルにも調査の手は及んだ。だがレアルは、FIFAから求められたカンテラに所属する18歳未満の51選手に関する資料を全て提出し、制裁を逃れることに成功。そのうちの1人である中井くんの移籍も合法と判断された訳である。
その中井くんは、昨年夏のレアル入団からアレビンA(11歳~12歳のカテゴリー)でプレーをしており、4‐4‐2のシステムを採用しているチームで主にドブレ・ピボーテ(ダブル・ボランチ)の一角を務めている。
自治州リーグのアレビン1部のグループIに所属するレアルのアレビンAは、ここまで17勝2分1敗で首位のアトレティコ・マドリードのアレビンAから1ポイント差の2位に着けている。そして、チームでは“ピピ”の愛称で親しまれている中井くんは、ここまで16試合に出場(11試合に先発)して3得点を挙げている。
本来のポジションであるトップ下より若干低い位置でプレーしているため得点こそ多くない中井くんだが、1月15日に行われた第13節のアトレティコ・マドリレーニョ(アトレティコ・マドリードのもう1つのサテライトチーム)戦で決めたミドルシュートが、レアルのカンテラ全体のその週のベストゴールに選ばれるなど、印象的な活躍を見せている。
また、宿敵バルサのアレビンAとの“エル・クラシコ”となった昨年12月10日のFair Play Cup決勝での、ボールを奪いに来た相手選手を次々と手玉にとった卓越したテクニックは、実況したアナウンサーに驚嘆のコメントを発させている。
「何というボールタッチだ! 信じられない! 本当に凄い! 敵を全てかわし切った!これには観客も大喝采だ!」
レアルというヨーロッパ屈指の名門クラブで、着実に歩を進めている中井くん。比較されることも多かった久保くんがバルサでの雄姿を見せられなくなった今、その活躍が日本人ファンにとって一段と注目の的となることは間違いないだろう。
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