来季はより結果にこだわり、さらに攻撃に比重をかけられるようなチームにステップアップしたいと目論む [写真]=Bongarts/Getty Images
このチームで圧倒的な存在になりたい――。今シーズンを戦い終えた原口元気(ヘルタ・ベルリン)の中に湧き上がる思いがあった。負けず嫌いの彼がここで納得するはずはない。すでに来シーズンに向けて、貪欲にただ前だけを見つめる。
レギュラーに定着したブンデスリーガ2年目は、「足りない部分は(試合に)出ないと分からない」と実戦を積みながら多くを学んだシーズンだった。攻撃的なポジションを務める原口にとって2ゴール3アシストは満足のいく数字ではないが、リーグ戦32試合に出場。左右のサイドだけではなくトップでも起用されるなど、ユーティリティ性を評価され、ポイントに置いていた「シーズンを通して、しっかりと試合に出る」という最低限の目標をクリアした。
昨シーズンとの大きな変化はフィジカルだ。ヘルタ・ベルリンはチーム全体が献身的に守備をこなすため、サイドハーフを主戦場とする原口は、守備時にサイドバックの位置まで下がらざるを得えない。移籍当初は、味方がボールを奪った瞬間に前線へと一気に駆け上がっても、フィニッシュに持ち込むパワーが残っていなかった。これでは、原口の武器であるスピードとゴール前への飛び出しが生きない。そこで現状を打破するために出した答えが走力強化だった。「やっとスピードが出ても、ケガをしないような体ができてきました。バランスが良くなり、負荷をかけてもいい体ができてきたんです」。意欲的にスプリント能力を高めるトレーニングに取り組んだ成果を実感している。“天才肌”という印象の強い原口が泥臭く走り続け、スプリント回数は1年間で計827回を記録。今シーズンのブンデスリーガで5位の成績を残した。
ブンデス1年目でドイツサッカーに慣れ、2年目は球際や競り合いで戦える土台を作り上げた。そして、3年目の来シーズンは「自分の特長をもっと伸ばしていく」と自分の持ち味を磨いていくつもりだ。原口は「簡単に言えば、スプリントの質を上げていくこと」と説明してくれた。
「速くボールにたどり着くことができれば余裕ができる。そうすれば、今の技術でも十分にやっていけると思うんです。ここからは負荷をかけるトレーニングをしていくので、どんどんスピードも出てくると思うし、今までとは違うプレーができ始めるんじゃないかな」
質と量にさらに磨きがかかった時、巧いドリブラーから危険なドリブラーへと変貌を遂げるだろう。「上に行くために、僕はスプリント能力を上げることに懸けている。自分の成長が楽しみでもあり、これ以上伸びなかったらどうしようという不安もあります」。そう言って、目をこちらに真っ直ぐ向けた。
20歳そこそこの頃は感情をむき出しにしてプレーすることが多かったが、「少しずつ色々なものが見え始めてきて、冷静になり過ぎている部分もあるかもしれない」と言うほど、今ではメンタル面も安定してきた。日本では「自分だけ浮いているくらい熱くなる時があった」が、そんな血気盛んな原口だからこそ、海外でのプレーに無理なく溶け込むことができた。「ドイツだと僕と同じくらいに熱くなっている選手がたくさんいる。そういう部分では、日本にいた時よりもノンストレスかもしれない」。サッカーへの情熱をさらけ出すことでチームメイトとのコミュニケーションが深まり、その好循環はピッチ上にも現れた。
ドイツに渡って約2年。ヘルタ・ベルリンに欠かせない存在へと成長を遂げたが、ここで終わる選手ではない。「もっとチームのど真ん中でやりたいし、本当に頼られる存在になりたい。ヘルタで1番の選手になれたら、また何か見えてくる」と先を見据える。
「一歩ずつでいいので、最終的に自分の目標にたどり着けるように、しっかりと進んでいきたいんです。自分で納得しながら一歩ずつ。いきなり大爆発するのではなく、コツコツとやっていきたい」。さらなる高みを目指すために――。原口元気が着実に歩みを進める。
インタビュー・文=高尾太恵子
By 高尾太恵子
サッカーキング編集部