17日のボルシアMG戦で移籍後初先発した宇佐美貴史 [写真]=Bongarts/Getty Images
年内最終戦となったブンデスリーガ第16節のドルトムント戦。クリスマス直前にも関わらず、8万人超の大観衆が押し寄せた敵地シグナル・イドゥナ・パルクに乗り込んだアウクスブルクの先発イレブンに背番号39をつけるFW宇佐美貴史の名はなかった。
ディルク・シュスター監督解任によって、12月17日に行われた前節のボルシアMG戦で今シーズン初スタメンに抜擢され、守備面で貢献した彼の連続出場を予想する現地メディアも多かった。が、ふたを開けてみればベンチスタート。アウクスブルクが韓国代表FWチ・ドンウォンの一撃で先制し、ドルトムントのフランス代表MFウスマン・デンベレに同点弾を奪われる一進一退の攻防が続いたことで、マヌエル・バウム新監督は守備を固めて勝ち点1を確保する手堅い戦い方を選択。宇佐美という攻撃のカードを切ることなく、1-1のドローに持ち込んだ。
「ドイツでボールを保持するスタイルを採っているのは上位6~7チームくらい。バイエルンとかドルトムントというクラブに対して、1部下位のチームの戦い方が徹底しているというのは、ドイツでは結構あることだと思います。今日の左サイドは5バックの左まで落ちるシステムだったんで、そういう中で(自分)はまだ使いにくいと思われてるのかなと感じます。ただ、僕としてはできる自信はあるし、前の監督の下で積み上げてきたものは絶対に生きてくると思う。今回みたいに5バックの左に吸収されないといけなくても、プラスアルファの攻撃力を出していくことが大事。1試合の中でサイドで仕掛けられる回数が5回に満たないでしょうけど、その5回でどう自分の色を出していくかを徹底できればチャンスは増えてくる。サイドで強烈な仕掛けができて、後ろにも戻れるようになれば、物凄いレベルの使いやすい選手になれる。そう考えてポジティブに取り組んでいます」と宇佐美は出番なしに終わった試合後、努めて前向きに現状を説明していた。
とはいえ、今シーズンのリーグ戦16試合のうち出場は5試合。先発わずか1試合というのは、本人も想定外だったに違いない。超守備的戦術を志向したシュスター前監督がヘディングの競り合いに長けた長身選手を前線にズラリと並べたがったうえ、宇佐美自身のケガも重なり、9月11日のブレーメン戦から11月19日のヘルタ・ベルリン戦までリーグ10試合連続出番なしという苦境にも陥った。彼を寵愛するヴァイッド・ハリルホジッチ監督からも日本代表落選を突きつけられ、宇佐美は出口の見えない迷路に迷い込んだかのようだった。本人も「試合をこなしながらブンデスリーガのスピードに慣れて、自分の表現したいプレーができるようになっていくだろうと思っていた」と相次ぐ誤算を口にした。
しかしながら、彼はそこで腐ったり、諦めたりは決してしなかった。かつて試合出場から遠ざかったバイエルン、ホッフェンハイム時代以上に自分自身を冷静に見つめ直し、できることを1つ1つ洗い出して取り組み、改善を図っていったのだ。
「当時も自主練はやってたけど、1人で黙々とボールを触ったりするだけだった。でも今季、試合から遠ざかった時はフィジカルコーチを捕まえて負荷を上げるように仕向けたんです。監督が代わる前のこのチームは、負荷低い練習ってホンマに低いんで、試合に出れない自分は練習で積み上げていくしかない。そう思ってフィジコに『今日終わった後、やってくれ』と言ったんです。そしたら他の選手も『じゃあ俺がやる』とみんなやるようになっちゃったけど、たぶん俺の練習量が一番多かったと思うし、質と量も求めながらやれたと考えてます」と宇佐美は自らアクションを起こしてフィジコを味方につけ、自主トレに変化を凝らしたという。
生活面の見直しと改善も妥協することなく細かいところまで踏み込んでやった。9月に行われた2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選のUAE(アラブ首長国連邦)&タイ2連戦に合流した際も、動ける体を作るためにグルテンフリーを取り入れたことを明かしていたが、それはほんの一例だったのだ。
「食べるもの、飲むもの、寝る時間、寝るまでのサイクルもそうですし、考えること、普段の過ごし方…。『ここまでやるのはアカンかな』って思うくらい変えましたね。 走力に関しても、シンプルに下半身の筋力をもっと上げることも重要やし、心肺機能を鍛えるえで鼻呼吸、口呼吸のどっちがいいのかも勉強しました。ホントにいろんなアクションを起こして、自身の中身を変えながらやってます。そういうところを見ても、成長はしてると思いますし、これだけの苦しみを与えられながらもよく踏ん張ったと自分を褒めてあげたいくらいです」と彼は考えられる全てのことにトライしたのである。
それだけの努力の成果はまだ明確には表れてはいないが、宇佐美自身はいつか必ず報われると信じて疑わない。確かに、同じドイツ組の原口元気(ヘルタ・ベルリン)も試合に出られなかった移籍1年目のフィジカル強化が今に生きているし、大迫勇也(ケルン)も試合に出たり出なかったりの状況下で試行錯誤を繰り返したことが今シーズンのFWとしての躍進につながっている。バイエルンやホッフェンハイム時代とは異なるメンタリティを手に入れた今、宇佐美が結果を出す日は近いはずだ。2017年1月下旬から再開される後半戦が本当の勝負と言っていいだろう。
「正直、俺、(この年末年始は)日本に帰りたくないんですよ。ぶっちゃけ言って、オフいらない。このままシーズンが続いてほしいんです。体も疲れていないし、休む必要もないから。おそらく他の選手たちはベッタリ休んでくると思う。だから、自分にとってはオフ明けが大きなチャンスだと思う。後半戦も今と同じ状況じゃ話にならないし、もう下積みというか、積み上げ作業は半年で十分。それを試合にぶつけるシーズン後半戦にしたいなと。ホントに貪欲にポジションを奪っていかないといけないと強く思ってます。試合に出ないと代表にも入れない。ブンデスリーガで試合に出れば間違いなく成長できるし、そうなって初めてホントに代表に必要な選手になれる。それを目指して僕は再びドイツに来ました。ガンバ(大阪)で出番を与えられながら、Jリーグの環境でやっていても、キヨ(清武弘嗣=セビージャ)君や元気君、真司(香川=ドルトムント)君、圭佑(本田=ミラン)君たちには及ばないと思ったから。今は苦しんでますけど、その苦しみがあるから、自分をここまで変えようと努力できたんだと思います。応援してくれる人たちも『宇佐美、何してんねん』って心配してるだろうけど、恩返しって意味でも来年は力を見せたいですね」
こう力を込めた宇佐美貴史は逆境をバネに大きく変貌しつつある。2017年は真価を問われる1年になるが、「怪物」と称された才能と努力を厭わないブレないメンタリティがあれば、高い壁を越えられるはず。背番号39のブレイクを楽しみに待ちたい。
文=元川悦子
By 元川悦子