ブラジルに敗れ、ベスト8敗退となったコロンビア代表ハメス・ロドリゲス [写真]=Getty Images
王国からの警戒心は、試合前からむき出しだった。
22歳の10番対決と煽られた通り、スターティングメンバーがオーロラビジョンで発表されると、フォルタレザのカステロン・スタジアムを埋め尽くした6万人を超える観衆の反応の差は顕著だった。ブラジルの10番が映し出されると、割れんばかりの喝さいが響く。一方、コロンビアの10番が映し出されると、重くて低いブーイングが轟いた。
試合が始まると、警戒は敵意となって襲い掛かってきた。
序盤にブラジルのフェルナンジーニョから挨拶代わりの一発をお見舞いされる。強烈なタックルを受けてピッチをのたうち回ると、その後も思うようにプレーを出さない時間が続く。フェルナンジーニョとパウリーニョのダブルボランチに目を光らされ、ひとたびボールを持とうならば、ファウルも辞さない激しい守備にさらされた。
王国のなりふり構わぬ姿勢は、かえってニュースターのインパクトがどれほどだったということかを如実に表していた。モナコでも同僚のエースストライカーであるラダメル・ファルカオを負傷で欠く中、コロンビアを同国史上初のベスト8に導いたのは、紛れもなく彼の左足だった。4試合連続ゴールやウルグアイとの決勝トーナメント1回戦で叩き込んだ左足の衝撃的なボレーシュートにより、一躍大会の顔にまで躍り出た。
しかし、王国との南米決戦となった準々決勝では、警戒を一身に浴びたことで、過去の4試合のような輝きは封じ込められてしまう。中盤では殺し屋のような2人に狙われ、得意の左サイドに流れるプレーも、激しい守備から逃れるように映るほどだった。しかも、左サイドでは自身の対策のためか、守備に緩さの見られたダニエウ・アウヴェスではなく、マイコンに待ち構えられた。
逃げ場を失い、チームも早々にリードを許して窮地に陥ったが、彼の輝きは完全に失われていなかった。21分にカウンターからのドリブル突破で一気にフェルナンジーニョとマイコンを置き去りにしてチャンスを作り出すと、2点ビハインドの80分には一矢報いる。
自身のスルーパスで抜け出したカルロス・バッカがペナルティエリア内でファウルを受けると、獲得したPKを彼自身が落ち着いて沈め、1点差に詰め寄る5試合連続のゴールを挙げた。
ところが、チームを救うまでには至らない。彼とコロンビアの快進撃は、王国によってついに止められた。
試合終了直後から、涙が止まらない。頬に大粒の涙が伝う。
結果的に、69分にフッキの突破を彼がファウルで止めてFKを与えたことが勝敗を分けることになってしまった。
甘いマスクを崩して泣きじゃくる彼に、無回転FKで決勝ゴールを叩き出し、マン・オブ・ザ・マッチに輝いたダヴィド・ルイスが近付いて話し掛ける。
「僕に『君はいい選手だ』と言ってくれて、実際に多くのスーパースターが抱きしめてくれた。それは誇らしいことだよ」
ユニフォーム交換とともに、ルイスは彼を指さしてアピールした。2人の姿がオーロラビジョンに映ると、さっきまでの敵意が嘘かのように満員の観衆からは万雷の拍手が贈られた。
「準決勝に進むためにも全てを懸けていたから悲しいよ。でも素晴らしい役割を果たしたんだから、誇らしく思わなければね」
ホセ・ペケルマン監督に抱き寄せられても、涙は止まらない。そして、降り注がれる拍手も鳴り止まない。
ハメス・ロドリゲスにとっての、初めてのワールドカップは幕を閉じた。5試合に出場して得点ランクトップの6ゴールという圧倒的な成績と、王国からの最大級の賛辞とともに。
文=小谷紘友