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高騰するサッカー選手の給与、背景に放映権料…ベイルは4日で英首相の年収稼ぐ

2014.01.21

レアル・マドリードでプレーするベイル(左)とC・ロナウド(右) [写真]=Real Madrid via Getty Images

文=藤井重隆

 2013年夏、世界移籍金最高額の8600万ポンド(約137億5000万円)でトッテナムからレアル・マドリードへ移籍したウェールズ代表MFギャレス・ベイルは、たった4日間でイギリス首相の年収を稼いでしまうというから驚きだ。彼の年収は約21億2800万円にも上る。

 契約更新をした同僚のポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドのそれは約22億8000万円で、スポンサー収入なども含めるとその額は約44億円(アメリカ誌『フォーブス』調べ)にも跳ね上がり、サッカー選手最高額となる。イギリス紙『ガーディアン』のガビン・ニューシャム記者は、近年批判されているサッカー界の資金循環について、次のように分析している。

 現代サッカー界において、トップクラブが1週間に選手たちに支払う給与が約1600万円にも上るというのは普通になってきている。プレミアリーグで最大の軍資金を持つとされるマンチェスター・Cを例に挙げると、毎年約320億円(日に換算すると約8800万円)を選手の給与に充てているとされ、これはクラブ収益の87%を占めるという。

 選手や代理人の意見としては、「約15年の現役寿命」、「けがで引退する可能性」などを給与額高騰の理由として挙げているが、実際に背景にあるのはリーグ放映権料の高騰だ。2012年夏、1992年にプレミアリーグが設立されて以来、試合をほぼ独占的に生放送してきた『BSkyB』が、新たに毎シーズン116試合を放映する権利を3年契約で更新。その総額が史上最高額の約3680億円にも上ったという。

 だが、放映権料の高騰に伴い、『BSkyB』の独占的市場は崩されつつあり、新たに通信会社の『BT Sport』が毎シーズン38試合を放映する権利を約1180億円の4年契約で購入。さらにプレミアリーグのハイライト番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」を放映する『BBC』は約288億円を支払っているほか、海外TV局 への放映権売却やインターネット上での放映権を合わせると約8000億円(チームスポーツにおける世界最高額)にも達するという。プレミアリーグ創設時の92年の放映権料の総額は約483億円だっただけに、高騰の勢いは凄まじい。

 無論、この放映権料を棚ぼた的に手にするのがプレミアリーグの20クラブだ。現在では最下位で2部リーグへ降格するチームでさえ、約97億円を手にしている。マンCに関して言えば、収益のほとんどがテレビゲームの世界の軍資金のように移籍金や選手たちの給与に支払われる。 プレミアリーグ創設前の91年、選手たちの平均年俸は約958万円で、その額は国民平均の約3倍だったが、現在は30倍 にも膨れ上がっているという。

 イングランドの選手協会(PFA)の会長代理を務めるボビー・バーンズ氏は「プレミアリーグはリーグ1(3部相当)やリーグ2(4部相当)とは別世界のリーグだ。後者のリーグでは、選手たちの契約は短く、生活の保障はない。毎年クリスマスになると来季の事を気にしなければならないのが常だ」と語る。元イングランド代表主将のデイヴィッド・ベッカムは20年のプロキャリアを築いたが、イングランドのプロ選手平均寿命は8年であるという。さらに、アカデミーに在籍する16歳の80%がプロになれないという過酷な現状もある。

 一方、ベイルの前に世界移籍金最高額の記録を保持していたC・ロナウドは、レアル・マドリードがマンチェスター・U支払った移籍金8000万ポンド(約128億円)を1年も経たずして還元したという。

 2010年のクラブ公式発表によると、マドリードだけで120万枚ものC・ロナウドのチームシャツを売り上げたとされ、世界中の売上を合わせるとその額は9カ月で160億円以上にも上った。

 2011年にイギリス紙『デイリーメール』が報じた国内プロサッカー選手のリーグ別平均給与(週給)によると、プレミアリーグは約358万円、2部リーグは約65万円、3部リーグは約18万円、4部リーグは約12万円であるという。選手を擁護する立場にあるPFAのバーンズ氏はこれについて、「現代サッカー選手は莫大な給与をもらっているイメージがあり、実際にリーグ2(4部)でも週給1000ポンド(約16万円)という国民平均以上の給与を受け取る選手も存在するが、それは選手のこの先30年を保証する額ではない」と語る。

 とはいえ、2011年4月には、当時マンCに在籍したイタリア代表FWマリオ・バロテッリ(現ミラン)が、路上生活者に1000ポンドをばらまいたことが話題となり、選手たちがプロ引退後も働きながら5部リーグ以下でセミプロ選手として国民平均の2倍以上の生活を続けている背景があることからも、バーンズ氏の話は説得性に欠ける部分がある。

 この先、放映権料がどこまで上昇するのかは定かではないが、イングランドだけでなく、欧州サッカー界全体が下部リーグに至るまで豊富な資金に守られている事は間違いなさそうだ。

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