第92回全国高校サッカー選手権大会 準々決勝 富山第一-日章学園
清水英斗(サッカーライター) 取材・文
14年1月5日(日)/12:05キックオフ/埼玉県・浦和駒場スタジアム/観客4718人/試合時間80分
富山第一 4 (1-0、3-0 )0 日章学園
得点者
(富山第一)
西村(前半21分)
細木(後半6分)
渡辺(後半8分)
村井(後半23分)
優勝候補の東福岡を破ってベスト8に名乗りを上げた日章学園を、富山第一が完璧なゲーム運びで下した。まずは前半21分、右サイドでボールを受けた25西村拓真が左足でインカーブシュートを沈めて先制。1-0で後半を迎えると、6分、11野沢祐弥の足裏で後方へ流すアシストから、ボランチの8細木勇人が左足でファーサイドへ流し込んで追加点。さらに8分、3竹澤昂樹のロングキックの処理を相手ディフェンスが誤ったところを、ストライカーの9渡辺仁史朗が抜け目なく拾ってゴール。仕上げは23分、途中出場の19村井和樹が左足のシュートを豪快に突き刺し、4-0と試合を決定づけた。ここまで1点差ゲームで勝ち上がってきた富山第一が、初めての完勝を収めている。
富山第一の1トップ9渡辺仁史朗と、日章学園の1トップ10村田航一。試合の鍵を握るのは、ここだと感じていた。
富山第一と日章学園は、どちらのチームもブロックを作った組織的な守備から、奪ったボールをターゲットマンの1トップに当てて押し上げる攻撃パターンが中心だ。この試合で輝きを放つのは、どちらのターゲットだろうか。その点に注目していたが、結論から言えば、より輝きを放ったのは9渡辺のほうだった。
9渡辺はまさに、最前線のダイナモだ。裏への飛び出し、サイドに流れてのボールキープで特長を見せる。大塚一朗監督が『ジャックナイフ』と表現する必殺カウンターの起点としてボールを収め、そこに対する中盤のサポートも早い。また、9渡辺はファーストディフェンダーとしてのプレスも、トップ下の10大塚翔と共に強烈なプレッシャーを与える。高さや強さはないが、運動量で特徴を見せる富山第一の前線は、攻守両面において日章学園を困らせた。
そして9渡辺が最も特徴的なのは、抜け目のない、得点を盗み出すようなプレーだろう。日章学園の早稲田一男監督が「嫌らしいプレーヤー」と語るように、9渡辺は相手ディフェンスラインのミスを決して見逃さない。3回戦の市立浦和戦、そして今回の日章学園戦でも同じようなルーズボールを拾い、ハンター9渡辺は、確実にゴールを決めてきた。
一方、日章学園の10村田は、高さと強さを押し出す1トップ。球際の競り合いにおいては特長を出す選手であり、これまでの試合でも目立っていたが、富山第一のセンターバック4藤井徹と5村上寛和はしっかりと体を着けて、10村田を自由にさせない。また、富山第一は中盤の戻りが速いため、日章学園がここで時間を使うと、あっという間に強固なブロックを作られてしまい、なかなかスペースを見出すことができなかった。
それでも途中から前線を10村田と11甲斐匠の2トップに変更した日章学園は、後半12分に右サイドからのロングフィードに10村田が頭で競り勝ち、6松田岳がボレーで狙うなど、チャンスも作った。しかし、富山第一はたとえ中盤の過程で後手を踏んでも、最後の最後で必ずブロックの足を合わせてくる。ズバッとかわすことができず、粘り強く最後まで絡みついてくるような…、まさにそのようなディフェンスを、日章学園は3回戦で東福岡を相手にやってのけたのだが、準々決勝では逆にそれに苦しめられたようだ。
隙のないプレーを見せる富山第一の選手において、少し違った味わいを見せるのが右サイドハーフの25西村だ。彼には、高校生の成長スピードの恐ろしさを教えられた。
前半21分、右サイドで25西村が、軽くカットインしながら左足のインカーブシュートで巻いて決めた先制ゴール。その裏側をぜひ伝えておきたい。
試合後のスタジアムインタビューでは、「スタンドで観戦しているお母さんも、初めて見るゴール(の形)だと言っていました」とインタビュアーに問いかけられ、「練習どおりです」と答えた25西村。
実は25西村は、1回戦を戦った後、密かに自らのプレーに修正を加えていた。
「いつもは右サイドから縦に突破して打つシュートが得意だったんですけど、全国に入って、結構読まれてくるので、どこかで変えなきゃいけないとは思っていました。県予選でできたことが全国ではなかなかできなかったので、初戦が終わった後に意識しました」
縦に持ち出して右足ではなく、中央へ持ち出して左足。大塚監督が「いつもチーム練習の後に、最後まで(個人の)練習をしている」と語る25西村は、この左足のシュートの形がキーポイントになると感じ、選手権の間にもそれを磨き続けていたのである。母親でさえ「初めて見た」と語るのも無理はない。
また、この場面では右サイドバック22城山典のタイミングの良いオーバーラップが、25西村を助けていたことにも触れなければならないだろう。22城山がフリーになったため、日章学園は、25西村に対して寄せ遅れてしまった。22城山は、攻撃的な反対側の3竹澤昂樹に比べるとそれほど目立つプレーヤーではないが、守備の細かいポジション修正、リスクマネージメントなどが非常に利いていた。
彼ら右サイドの25西村と22城山だけでなく、富山第一はユニットにおける個性の相性が良い。左サイドは献身的なサイドハーフ11野沢祐弥と、攻撃的な3竹澤の組み合わせ。ボランチは自由に前へ行って攻撃に絡む8細木勇人と、後方でバランスを取る⑰斎拓斗。前述した前線の9渡辺と10大塚もそうだが、各所での役割が明確で、全体のバランスが良く取れていた。
もう一つ、富山第一に関して感銘を受けたのは、そのアイデンティティだ。
大塚監督は「選手を育てるというより、一人の人間を育てる」という意識で、指導に取り組んでいるそうだ。そのためには、「たくさんの人に関わったほうがいい」と語る大塚監督。その一環として、障害者の方と一緒にサッカーをして、触れ合うという活動を行っている。それについて、8細木は次のように語る。
「障害者サッカーは、僕は2年間連続で携わってきたんですけど、どんなに障害があっても、サッカーをやっている以上は同じ仲間なので、そういう人たちから本当に、良い刺激を受けています。松葉杖をついていたり、筋肉がなかったり、耳が聞こえなかったり、しゃべれなかったりする人がたくさんいるので、そういう人たちと一緒に、どうやってサッカーをできるようにするか、いろいろ考えることもあるので、そういう意味で一緒にやることが大切だと思います」
そして、触れ合った方々からはミサンガを託され、全国大会に臨んだ富山第一。さらに8細木は続ける。
「富山第一のことをすごく応援してくれるって分かったら、恥ずかしいプレーもできないし、絶対勝たないといけないという思いはとても強くなりました」
彼らはただサッカーがうまいだけの選手ではなく、人として成長しながら、この舞台にたどり着いたということを実感するエピソードだった。
また、大塚監督は、富山第一というサッカー部について、県外から優秀な選手を集めて強くなるのではなく、「地域の人間を育てる」ということを大切にしているそうだ。それが日本サッカーとして理に適っていると。
ピッチ外で触れ合ってきた地元の方々のサポートを受け、人として成長しながら、臨んだ高校サッカー選手権。もちろん、それは富山第一だけの話ではないだろう。Jリーグが掲げる『地域密着』は、Jクラブのみで成し遂げるものではないと、改めて強く感じられた。