選手権初優勝を飾った星稜高校 [写真]=瀬藤尚美
星稜の初優勝で幕を閉じた第93回全国高校サッカー選手権大会。今大会を振り返ると、例年より波乱の少ない大会だった。
昨年は富山第一と星稜が決勝でぶつかることを予想するのは難しかったし、一昨年も鵬翔と京都橘の決勝になること自体がサプライズだった。ここ数年はサプライズが必ず一つ以上はあったが、今回に関しては「そうなる可能性はある」と予想できたベスト4の顔ぶれだった。
流通経済大柏は毎年のように全国トップレベルの実力を持ち、出場すれば必ず上位に進出する安定した力を持つチーム。準優勝の前橋育英も出場する度に優勝候補と目され、今大会は夏のインターハイでベスト4。一昨年のU-17W杯でベスト16入りしたU-17日本代表の中心選手であるMF鈴木徳真と渡邊凌磨の2枚看板を擁し、前評判は非常に高かった。優勝した星稜も、昨年準優勝を経験した選手が5人(DF鈴木大誠、原田亘、MF前川優太、平田健人、FW森山泰希)が中軸を担い、優勝候補の一角と目されていた。
日大藤沢に関しても、トーナメントの組み合わせを見ると準々決勝まで勝ち上がってくることは十分に予想できた。準々決勝では優勝候補筆頭だった東福岡に3-0の快勝を収めて勝ち上がってきた名門・静岡学園と対戦したが、ここまで勝ち上がってくるとチームに勢いがつくので、十分に勝機はあった。一番の要因としては、県大会でフルに使えなかったFW田場ディエゴが初戦からスタメンで奮闘し、結果を残したこと。これにより対戦チームは対策をせねばならず、そこに意識が行くと周りが生きるという好循環が起こる。この好循環を佐藤輝勝監督がうまく利用した印象がある。
その中で決勝が前橋育英vs星稜になったのも、十分納得できた。星稜vs日大藤沢は、やはり星稜が一枚上手だったし、流通経済大柏vs前橋育英は流通経済大柏の前への圧力が前橋育英を押し込んだが、初優勝に懸ける名門の意地が土壇場で実を結んだ。この試合、流通経済大柏のDF小川諒也と前橋育英の鈴木という今大会のメインキャストの2人がそれぞれゴールを決め、1-1のままPK戦で決着という結果も十分に納得がいくものだった。
その他を見ても、優勝候補筆頭の東福岡の敗退は、3回戦でぶつかった静岡学園の出来を考えると、3-0という結果への驚きはあるものの意外ではなかったし、大きな波乱と言えば、青森山田が初戦で中津東に敗れたことのみだった。だが、どのチームも難しい初戦と考えれば、十分あり得ることだった。
波乱がほとんどない大会。それは裏を返せば、実力チームが実力通りの力を出せるようになったことだ。プリンスリーグに始まり、高円宮杯プレミアリーグなど通年のリーグ戦の急速な普及でトーナメントの戦いに戸惑いを見せていたのが、近年の強豪校の姿であった。しかし、その流れが定着してきたことで、通年のリーグ戦からトーナメントへの戦いをうまく使い分けられる強豪が増えたと言っていい。
最後に優勝した星稜には心から拍手を送りたい。昨年の準優勝校とは言え、翌年の全国制覇を有言実行するということは、並大抵のことではない。それを河崎護監督不在という逆境の中で、達成させたことは彼らの努力以外何ものでもない。素晴らしい戦いを見せてくれた高校生たちに感謝をしつつ、来年の熱戦が早くも楽しみだ。
文=安藤隆人