2016シーズン清水エスパルス加入内定のMF光崎伸を擁し、今夏の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)にも出場している東海学園高校。今年の愛知は、この東海学園と中京大中京高校がけん引する図式となっていた。だが、この勢力図に伝統校が割って入った。
愛知県立刈谷高校。県内屈指の進学校ながら、文武両道を実現させ、サッカー部はこれまで選手権準優勝2回、インターハイ準優勝1回を誇っている。白地に真っ赤な襷が描かれたユニフォームは、『伝統の赤ダスキ』と呼ばれ、高校サッカーのオールドファンなら誰もが知っている伝統校だ。
この伝統校が東海学園を相手に、圧巻の試合運びを見せた。13分に左CKからDF花橋亜蘭にヘッドで合わせられ、東海学園に先制を許すが、彼らは冷静だった。「東海学園はボールサイドに寄ってくるので、そこを抑えることができれば、逆サイドが空く。なので、しっかりとボールにはプレッシャーに行って、奪ったらパスをつないでスペースを突いていくことを狙った」。刈谷の佐野朋生監督が語ったように、フィジカルに勝る東海学園を相手に、球際では一歩も引かず、全員がプレスをさぼらなかった。さらに奪ったら、1トップのFW藤枝丈、1年生MF水野智大とMF東弘一郎のツーシャドーが軸となって、正確なパスで相手をいなし、左MF小西健友と右MF勝野大地のドリブラーを有効活用して、反撃に転じた。
ハーフタイムには小西に代えて、FW田中亮輔を投入すると、田中を1トップに、藤枝を左MFに配置転換。「田中は動きだしがすごく早くて、セカンドボールを拾えるFW。彼を入れて、攻撃の活性化を狙った。前半は右と比べて、左の攻撃が甘かったので、左に突破力のある藤枝を置いて、両サイドから崩すイメージ」と語った佐野監督の狙いは見事に的中した。
田中が前線で幅広く動くことで、徐々に東海学園のDFラインは下がりだし、アンカーのMF神谷凱士もDFラインに吸収され始め、中盤が間延び。トップ下の光崎にも良いボールが入らなくなり、東海学園の攻撃を寸断した。さらに攻撃面では左の藤枝が起点を作ったことで、右の勝野の突破力がより引きだされ、チャンスを作りだせるようになっていった。
そして、67分、右サイドの勝野に縦パスが入ると、勝野はそのまま右サイドを突破してセンタリング。これを東がドンピシャヘッドで合わせ、同点に追いついた。1-1で迎えた延長戦でも、ペースを握ったのは刈谷の方だった。99分に流れるようなパスワークから、水野がGKと一対一になるが、シュートは枠の外。試合の流れをつかんだ刈谷は、PK戦でもGK加藤綜一郎が2本のシュートをセーブしたのに対し、6人中5人がきっちりと決めて、東海学園を下して準決勝進出を決めた。
「ちゃんと狙いを実行してくれた。前の試合の名古屋高校戦でも、0-1でリードを許しても、慌てることなく、リズムを崩さずに勝ちきってくれた。成長したと思う」と、佐野監督は選手たちの成長ぶりに目を細めた。
優勝候補から奪った大金星。試合後、大号泣をする選手たちもいた。それほど東海学園に勝つことの意義の大きさを彼らは知っていた。そして何より、選手権に懸ける想いも強かった。刈谷は進学校ゆえに、インターハイを持って受験のために部活を引退する3年生が多い。だが、近年は引退せずに選手権まで部活を続ける3年生が増えた。今年は29人中10人の3年生が残った。殊勲の存在となった加藤は、「インターハイ予選で決勝リーグの4つにすら残れなくて……。中途半端に終わってしまって、悔しかったんだと思う。『残ろうぜ』と声をかけなくても、10人が残った。みんな『選手権こそは』という想いが強いと思う」と語った。
平成10年度に出場した以来の選手権に向けて、想いを一つに。3年生の強い想いにけん引された、『伝統の赤ダスキ』軍団の快進撃から目が離せない。
文・写真=安藤隆人