第67回大会を制した早稲田大は、通算成績を35勝18分け14敗とした [写真]=岩井規征
“らしさ”を見せたのは、早稲田大学だった。6日に行われた第67回早慶サッカー定期戦。1万2307人の観客が詰めかけた等々力陸上競技場で、早稲田大は1-0で勝利を収めた。5大会連続の完封勝利、そして3大会連続の1-0。虎の子の1点を守り切るしぶとさで、35回目の歓喜を味わった。
この一戦迎えるにあたって、好条件がそろっていたのは慶應大の方だった。「アミノバイタル」カップ2016第5回関東大学サッカートーナメント大会(兼総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント関東予選)で早稲田大に敗れ、2回戦で敗退。8日間の準備期間があり、全国大会への道を“宿敵”に阻まれたことも、大きなモチベーションとなっていたはずだ。対する早稲田大は、アミノバイタル杯で決勝に進出したため、6月25日から7月3日までの9日間で5試合を消化。ほぼ固定メンバーでこなしており、特に決勝戦は酷暑の中で延長戦、PK戦を行って桐蔭横浜大学に惜敗。メンタル面のショックは少なからずあっただろう。
試合序盤は、慶應大がアグレッシブな姿勢で早稲田大ゴールに迫った。しかし、7分、16分の決定機を逃すと、徐々に流れは早稲田大へ。31分に迎えたチャンスをFW中山雄希が確実に仕留めた。
その後は、時間が経つごとに早稲田大の粘り強さが際立っていく。終盤は慶應大の猛攻を浴びたが、DF新井純平を中心に集中力を高く保ち、ゴール前で懸命に体を張って何とか凌ぎ切った。その奮闘ぶりは、慶應大GK上田朝都も「精神的にも体力的にもすごく強いなと純粋に感じた。気持ちの差だと思う」と敵ながら称えるほど見事なものだった。
だが、宿敵打倒への気持ちは慶應も同じように強かったはず。早稲田大のある選手は試合後、「向こうも死ぬ気で自分たちに向かってきていたと思う」と述べている。それでも、早稲田大が疲労やメンタル面で不利の状況を乗り越えた要因は何か。
一つは、「いつもの」早稲田大であったこと。小林大地は、早稲田大が大きな舞台でも動じない理由について、こう述べた。「自分たちがやるサッカーはいつも変わらない。リーグ開幕戦も、カップ戦の決勝も、早慶定期戦も、一試合の重みは全部同じ。それをみんなが認識して練習から本気で取り組んでいるから、大一番でも結果が出せるのだと思う」。練習から常に本気で取り組むことで培った“ブレない強さ”は、ここぞという時に力を発揮する。
早稲田大のエネルギーとなったもう一つは、仲間を想う気持ちだ。この試合、主力の4年生MF小林とFW山内寛史がけがの影響で欠場した。小林はスタメンの4年生一人ひとりに「自分の言葉で奮起してくれれば」とLINEで激励のメッセージを送った。決勝ゴールを挙げた中山は、「2人のためにも、死ぬ気で戦いたいと思っていた」と明かし、フル出場した4年生MF平澤俊輔は、自分のユニフォームの下に小林の「11番」を身につけた。また、3年生DF木下諒は先輩を思いやり、試合後に大粒の涙を流した。
「アミノバイタル杯決勝では3年生がPKを失敗して、4年生を勝たせられなかった。だから、今日は4年生を笑顔にできるようにと自分にプレッシャーをかけて臨んだので、試合が終わった瞬間にうれしさで自然と涙がこみあげてきた」(木下)。主将の新井は、「誰が出ても、仲間の想いを背負って戦えるのが早稲田らしさ」だと胸を張る。
さらに、早稲田大の選手たちは、最後まで走り抜けた要因について、口をそろえてこう語った。
「僕たちの試合を観に来てくれた人に、感動や、明日への活力を与えたい」
20歳前後の若者たちで構成されたアマチュアチームで、全員がその意志を貫くのは、そう簡単ではないはずだ。必ずしも全員がプロを目指しているわけではなく、大学をサッカー人生の集大成と捉えている人もいる。もちろん、サッカーでお金を稼いで生活しているわけでもない。
それでも、木下をはじめとした早稲田大の選手たちは、自分たちのサッカーが持つ可能性を信じている。「リーグ戦では多くても3000人くらいしかお客さんが入らないけど、早慶定期戦では1試合で1万人以上の人たちの心を動かすことができる。プレッシャーはあるけど、そのプレッシャーを感じられるのは幸せなこと」(木下)
計り知れない心身の疲労を抱えていても、最後まで懸命に体を張り、相手に走り勝ち、闘志を見せ続けた彼らの姿から、「明日への活力」を得た観客は多くいたことだろう。
“早稲田大らしさ”。それは、学生サッカーの域を超えた意識の高さに基づく。「誰かのために戦うことは、重荷ではなく、自分が本当に苦しい時の後押しになって、一歩でも二歩でも前に進めてくれる」(木下)。青春ドラマの台詞の一つのようだが、全員がその意志をプレーで体現できる早稲田大は、やはり強い。
文=平柳麻衣
By 平柳麻衣