2013.07.03

サッカーの夢を叶える本 Powerd by I DREAM 「黒人選手の身体能力が優れているというのは、本当ですか?」

テーマ募集

このコーナーでは、選書してほしいテーマを募集しております。時勢に合ったネタ、サッカーとは直接関係のないテーマ等々、なんでもかまいません。ブックディレクターの幅允孝氏が、あなた好みの本をセレクトしてくれます。

黒人選手の身体能力が優れているというのは、本当ですか?

金メダル遺伝子を探せ

善家賢(角川書店)

ジャマイカのウサイン・ボルトが2009年の世界選手権の100m走で叩きだした9秒58という記録は、人間の限界ギリギリのところまで到達したと思わせるほどに圧倒的なものだった。その100m走のスタートラインに並んだ選手は、すべて黒人選手だったことに気づいただろうか。NHKの番組、「追跡!AtoZ 〜いま一番知りたいテーマを追う!超リアルドキュメント」は、そうした結果として身体能力が高いと言われている黒人選手の遺伝子を、徹底的に研究しているひとりの博士を取材することから、番組を作り始めた。

 

人種とスポーツ
黒人は本当に「速く」「強い」のか

川島浩平(中央公論新社)

黒人が人種由来の優れた身体能力を持つアスリートであるというイメージ、情報はいったいどこから、どういう根拠の元に生まれてきたものなのだろうか。そのステレオタイプな物言いは、おおよそ多くの真摯なスポーツ好きにとってはあまり意味がないだろうが、一般の人々の中ではまだまだそのイメージは消えていない。

アメリカ研究を専門とする著者は、人種とスポーツの関係を歴史と科学の観点から“人種”による能力の差をリサーチしている。19世紀、アメリカでは人種分離政策のもと黒人は白人から不可視の存在と位置づけられ、あらゆる面で劣った、野蛮な人間として扱われていた。徐々に娯楽であるスポーツの世界へと進出した黒人たちは、30年代以降急速に増加。特定のスポーツではあるが、ある一定の居場所を確保する中、黒人選手が残す優秀な成績は生得的に身体性が優れているからだとするステレオタイプなイメージが形成され始める。

 

黒人アスリートはなぜ強いのか?
その身体の秘密と苦闘の歴史に迫る

ジョン・エンタイン(創元社)

本書の現代は「TABOO : Why black athletes dominate sports and why we’re afraid to talk about it」。著者は、なぜ黒人だけがスポーツを席巻しているのか、そしてなぜそれについて言及することが憚れるのかを問う。著者は、遺伝子によって選手の素質が開花するかどうか、優れた選手になるかが決まるとしているのだ。

例えば、こういうことだ。100mや200mの短距離走の世界記録保持者のルーツはほぼ全て西アフリカに行き着き、ヨーロッパ系でも足が速いアスリートは南欧に多く、これはアフリカの血が北よりも混ざっていることによる。アジア系の人種は柔軟性が高く、体操やスケート、水泳で強さを発揮し、東アジア地域の人は上半身の反応速度が速く、格闘技や卓球で強いなどなど。眉唾にも思えるような持論が、立て続けに展開されていく。60年代半ば、NBAの選手構成は黒人20%、白人80%だったのだが、90年代は黒人85%以上に変化する。そしてケニアの長距離トップアスリートの殆どがナンディ地区という小さな地域に住む部族の出身か、またその親戚であるとするデータも披露される。

 

ケニア! 彼らはなぜ速いのか

忠鉢信一(文藝春秋)

東京からアテネまでの夏季五輪陸上競技で54個のメダルを獲得したケニア。2007年の世界6大マラソンのうち、5大会でケニア勢が優勝。そしてそのうち4大会は、リフトバレー州という地域を故郷とする「カレンジン族」出身の選手が制している。ケニアの人口中でもわずか10%に過ぎないその部族から、なぜ優秀なランナーが多数生まれてくるのか、その疑問を解き明かすべく著者は、『金メダル遺伝子を探せ』にも登場したヤニス・ピツラディスの元を訪れる(こちらが先)。

 

黒人リズム感の秘密

七類誠一郎 a.k.a. Tony Tee(郁朋社)

スポーツの分野に限らず“黒人”がもつ独特の身体技法が注目されている。そのひとつがリズム。ブラックミュージックと呼ばれるリズムを強く打ち出した音楽は、黒人独特のリズム感、タイム感から出てくるのだと一般には信じられている。それではなぜ黒人スポーツ選手の動きはリズミカルになり、日本人はなぜリズム感が悪いのだろうか。黒人のリズム感は後天的に体得できるものなのか。東京学芸大学大学院で運動生理学の修士課程を修了し、85年に渡米。マイケル・ジャクソンやマドンナなどの振付師ビンセント・パターソンのアシスタントを経て、様々なPVなどに出演し、多くのスタジオで後進を育てた著者が、自らが実践的に身につけた黒人独特の“ノリ”を理論的に解説している。

 
幅 允孝(はばよしたか)

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。
国立新美術館ミュージアムショップのスーベニアフロムトーキョーやTSUTAYA TOKYO ROPPONGI、LOVELESSなどにおける本のディレクションや、d-labo(スルガ銀行ミッドタウン支店内)などのライブラリー・ディレクションを手掛ける。ほか、編集、執筆、ディストリビューション等、本周りのあらゆる分野で活動中。最近では、渋谷のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、銀座のHANDS BOOKSがオープンしました。

BACH : http://www.bach-inc.com

 

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