2012.07.24

【第8回】南米屈指の名将ホルヘ・サンパオリを知る

 

文=池田敏明
写真=市川陽介、ウニベルシダ・デ・チリ

 試合前、スタジアムではその日の先発メンバーがアナウンスされる。GKから順番に一人ひとり名前が呼ばれ、サポーターがそれに呼応していく。歓声が大きい選手、それほどでもない選手と様々だが、では最も大きな声援を浴びるのは誰なのか。守護神ジョニー・エレーラ、キャプテンのホセ・ロハスはもちろん、期待の若武者アンジェロ・エンリケスなどアカデミー出身の中心選手が紹介された時はやはり盛り上がる。しかし、最もスタンドが沸き上がったのは、最後に「ホルヘ・サンパオリ」という名前がコールされた時。チームを率いるアルゼンチン人指揮官は、サポーターから絶大な人気を誇っているのだ。

  サンパオリは独自のキャリアを歩んできた指揮官だ。ニューウェルス・オールド・ボーイズの育成組織で守備的MFとしてプレーしていたが、足のケガにより19歳の時に現役続行を断念。ニューウェルスの下部組織での指導歴を経て、2002年にペルーのフアン・アウリクという小さなクラブで初めてトップチームの指揮を執ることとなる。

 その後はペルー国内でキャリアを重ね、2008年にはチリのオイギンス、2010年にはエクアドルのエメレクへと招かれた。これらのクラブで国内リーグのプレーオフ進出、コパ・リベルタドーレスやコパ・ブリヂストン・スダメリカーナ出場権獲得などの実績を残し、2010年12月にウニベルシダ・デ・チリとの契約を締結。翌2011年シーズンから同クラブの指揮を執ることとなる。
 

 「アスレティック・ビルバオをあそこまで攻撃的なチームに仕上げるなどと、誰が想像しただろうか。それを実現させたビエルサは本当に素晴らしい」。

 そう語るとおり、サンパオリは屈指の戦術家であるマルセロ・ビエルサを崇拝している。そしてビエルサ同様、ハイプレスと縦へのスピードを重視した超攻撃的なサッカーを志向する。ウニベルシダ・デ・チリのプレーを見れば一目瞭然だが、90分間を通じて全員がハードワークを怠らず、人数を掛けて果敢に攻め立てるサッカーは見ていて実に快濶だ。

  サンパオリの就任以降、ウニベルシダ・デ・チリの実力は如実に上昇した。2011シーズンは前期、後期ともにリーグ戦を制し、コパ・ブリヂストン・スダメリカーナでは無敗優勝という偉業を達成。2012年上半期は国内リーグ、コパ・リベルタドーレスでともに優勝を目指すという困難なミッションが課される中、コパ・リベルタドーレスではベスト4進出を果たし、国内リーグではプレーオフ準決勝でライバルのコロコロに大逆転勝利、決勝のオイギンス戦ではPK戦までもつれこむ激闘を制し、クラブに16回目のタイトルをもたらした。サンパオリの評価は急上昇しており、今ではブラジルのビッグクラブや中東の国から監督就任のオファーが届いているという。

 地元のラジオ局『ラディオ・アグリクルトゥーラ』のアンドレス・フェルナンデス記者の話によると、サンパオリは「たとえ親善試合であってもベストメンバーをそろえ、全力で戦うことを選手に求める指揮官」だという。時差や気候への適応、長旅による疲弊など、南米から日本にチームが来る時は様々な問題を抱えるのが常だが、甘えを一切許さない指揮官に率いられた選手たちは、間違いなくピッチで全力を尽くし、本気でタイトルを奪いに来るだろう。ホルヘ・サンパオリが率いるチームに“敗北”は許されない。それがコパ・ブリヂストン・スダメリカーナ王者という称号を引っ提げてのタイトルマッチとなれば、指揮官の意気込みは言うまでもないだろう。

【動画編】南米屈指の名将ホルヘ・サンパオリを知る