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「南米で教わったことを伝えたい」亘崇詞(なでしこリーグ ASエルフェン埼玉 コーチ/サッカー解説者)

2014.04.24

亘 崇詞

「今、指導しているエルフェン埼玉で結果を残したい」

 2014年から戦いの舞台を「チャレンジリーグ」から「なでしこリーグ」に移すエルフェン埼玉の亘崇詞コーチは現在の目標をこのように語る。

 亘氏は、2012年に「なでしこリーグ」の日テレ・ベレーザのコーチに就任し、女子サッカー指導のキャリアをスタートさせた。それ以前は、サッカースクールのアシスタントコーチを歴任し、2010年に東京ヴェルディ1969 ジュニアユースコーチ、2011年にジュニアユース監督へと昇格を果たす。その傍ら、アルゼンチンの名門ボカ・ジュニアーズへの留学経験を生かした活動も行っている。中でも、スポーツ専門テレビ局J SPORTSで放送されているサッカー情報番組『Foot!』では定期的に留学時代の旧友を訪ね、フレンドリーなインタビューを展開するシリーズが好評である。

夢中で駆け抜けたアルゼンチンへの留学

 1972年3月8日生まれの亘氏は少年時代を岡山県津山市で過ごし、地元で通っていたスポーツ少年団でサッカーと初めて出会った。しかし、最初に憧れたポジションは意外にもGKであったという。

「GKがすごくカッコ良く見えました。僕の少年時代のアイドルは『キャプテン翼』の若林源三ですね」

 しかし、キャリアを重ねるにつれポジションを変えていくことになる。中学時代にはフィールドプレーヤーへと転向した。そんなある時、当時指導を受けていたコーチからワールドカップのゴール映像集を見せてもらう機会を得る。そこで、南米への留学を志すきっかけとなったアルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナのプレーを目にすることになる。

「マラドーナは別格でしたね。マラドーナを大好きになったことでアルゼンチンに行きたいと思うようになりました」

 自身のプレースタイルもドリブルとフェイントで1対1を仕掛け、相手を翻弄する形を意識するようになっていった。

 両親を説得し、17歳でアルゼンチンに留学してからも同じプレースタイルで挑んだ。

「アルゼンチンにはドリブルとフェイントで勝負するプレーヤーが何人もいたので、彼らと競い合って自分の価値を高めていましたね」

 そう、アルゼンチンには当時見たマラドーナと同じプレースタイルを得意とする選手たちが何人もいたのである。

 しかし、アルゼンチンは個人技を重視するサッカーばかりではなかった。

「アルゼンチン人が戦術を深く考えていることにビックリしました」

 ケガの影響もあり、ボランチや右サイドハーフでプレーする機会が次第に増えていった。ポジションごとの動き方の違いを指導されたとき、アルゼンチン人が考える戦術の深さを知ることになる。

「相手チームの人と人との間に入る動きや、ボランチがあまりボールに寄り過ぎない動き、攻撃時に急激なスピードアップをしないという動き方は20~30年前から南米の指導者は知っていました。今、ヨーロッパでバルセロナが実践しているのと同じことですね」

 ではなぜ、今になってバルセロナのスタイルは多くの人たちに伝わることになったのだろうか。

「南米の指導者は職人気質な感覚で動きを教える。例えば、襟ぐりをつかんだりして、体で覚えさせようとする。しかし、バルセロナなどのヨーロッパのサッカークラブは、素晴らしいメソッドと言葉で伝えるスキルを持っているので、多くの人に理解させることができる」

 この部分がヨーロッパと南米に大きな差を感じるところであるという。

亘 崇詞

指導者としての「伝え方」の重要性

 そんな亘氏が本格的にサッカーの指導者を目指したのは、子供たちを対象とするサッカースクールにアシスタントとして参加したことがきっかけだった。

「子供たちとリフティングをしたり、一緒に試合に参加して面白いプレーを見せたりしていました」

 当時、比較的年齢が若かったこともあり、自身も子供たちと同じように楽しみながらサッカースクールに参加していた。そのつながりからJリーグのクラブ組織で指導するチャンスをつかむことになる。

「元日本代表の都並敏史さんが『現場も悪くないぞ』と誘ってくれたんです」

 この一言が東京ヴェルディ1969の組織に入ったきっかけである。

 そこから10年、ジュニア、小学生、中学生、女子と様々なカテゴリーの指導を歴任してきた。この、各世代、性別の違うカテゴリーを指導するときに重要視していることが「伝え方」であるという。

 2年程前、テレビ番組の取材でフランスリーグのパリ・サンジェルマンを訪れた。練習グラウンドには、ボカ・ジュニアーズ時代の旧友であるアルゼンチン代表のエセキエル・ラベッシの姿があった。

「ラベッシが監督のカルロ・アンチェロッティ(現レアル・マドリー監督)から子供扱いされるような指示を受けていました。指示を受けた直後、ラベッシは不機嫌な表情と行動を見せましたけど、紅白戦でラベッシはアンチェロッティが指示した動き方を完璧にこなしたんです。ラベッシのプレーを見ていたアンチェロッティは接し方を変えましたね」

 プロのサッカー選手である前に一人の人間として接し、個性を尊重することが相手を理解する第一歩である。

「短い時間で人の性格を把握することが、優れた指導者になれる一つの条件だと思います」

 違ったカテゴリーを指導してきたことは、いろいろな「伝え方」を学べるという面でも大きな財産となっている。

 現在はエルフェン埼玉で指導をしているが、選手たちに一番伝えている思いが「相手を見て判断すること」である。

「サッカーにはチームとしての決めごとは存在する。しかし、その時々の判断で選択肢は何通りでもある。ロボットみたいに言われたことだけをするのではなくて、的確に判断できる選手を育てていきたい」

 今年からトップリーグに昇格したエルフェン埼玉が、その中で結果を残していくには、更なる判断力のレベルアップが必要になってくる。

 また、アルゼンチンで学んだ「メンタル面の強さ」も伝えていきたいと、自身の思いを打ち明けた。

「南米の人はメンタルの部分が大きいと思っている。カルロス・テベスやリオネル・メッシあたりのメンタル面の強さは計り知れないものがある。日本のような恵まれた環境で教えるのは難しいかもしれないが、僕が南米人から学んだメンタル面の強さも伝えていきたい」

クラブが支える世界トップの実力

 2011年の女子ワールドカップで世界の頂点に立った日本の女子サッカーは、その後も常に世界ランク上位にランキングされている。世界からも一目置かれ、目標にされる存在だ。この状況の中で日本の女子サッカークラブを指導することの責任は大きいが、とてもやりがいのある仕事である。

「代表で選手が集まっても、合宿期間中に指導する時間は短い。だから、僕たちが日々指導していることが今後の日本女子サッカー界の底上げや、ワールドカップやオリンピックの結果に響いてくる。その底辺を支えていることに責任を持ちながら日々指導を行い、今シーズン、エルフェン埼玉として結果を出すことに集中していきたい」

 日本にJリーグが開幕する前からプロを目指し、日本を飛び出した亘氏。アルゼンチンの名門クラブに所属し、プレーだけではなく、内面的な部分を目の当たりにしてきた。その経験を伝え、実践することが今後のエルフェン埼玉と日本サッカーの成功へとつながっていく。

>>>「エルフェン埼玉オフィシャルサイト」はこちらから<<<

インタビュー・文=珠玖章弘(サッカーキング・アカデミー
写真=石井一樹(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
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