「東京で鹿児島出身者と会うと自然と仲良くなるんですよね。初対面でも『鹿児島なの? よし、飲みに行こう!』ってなる。県外に出た鹿児島の人って郷土愛が強くなるんだと思います」
FC KAGOSHIMA。発足3年目のこのクラブは、離れて暮らす故郷を思う気持ちから生まれた。
徳重剛(とくしげつよし)、35歳。自身も学生時代はサッカーに励み、上智大学サッカー部では主将を務めた。東京都大学リーグ選抜にも選ばれている。しかし、大学卒業後は東京でサッカーから離れた仕事に就くこととなる。
「スポーツ業界で公認会計士として働きたいという思いがありました」
2008年4月より多摩大学大学院にてスポーツマネジメントを学び、スポーツ業界への思いが強くなる矢先、多くの出会いが彼を後押しする。
「同じ鹿児島出身の知人に10年ぶりぐらいに再会した時、『篤姫や焼酎ブームが終わった鹿児島を今後盛り上げるものは何かないかな?』という話になりました。その後鹿児島や鹿児島のサッカーに関わる方々との出会いもあり、サッカークラブを作ることは運命だなと思いました」
東京在住で鹿児島県出身者の有志を中心に株式会社OASYS鹿児島を設立。時を同じくして自身は徳重公認会計士事務所代表として独立した。そして鹿児島県内の既存クラブ協力の下、2010年3月、FC KAGOSHIMAは産声をあげる。
「現在は広報からHPの制作など、クラブ運営のほとんどを選手自身や、県内外の応援してくれる方がボランティアでやってくれています。本当に鹿児島を愛する気持ちで今は成り立っていますね」
地方クラブが必ずぶつかる壁にスポンサー契約がある。鹿児島にはすでに、同じくJリーグ入りを目指すヴォルカ鹿児島というクラブがあり、クラブ発足当初は厳しい反応もあったという。JFLに手が届いていない鹿児島のサッカーに対する地元企業の熱は決して高くない。ただでさえ分母の少ないスポンサー候補を2クラブで取り合う形となる。
「1年目は『なんで1クラブあるのに、わざわざ新しいチームを作るの?』と言われたこともありました。しかしそれでも一生懸命こちらの思いを伝えていくうちに2年目、3年目と次第にご理解をいただけるようになりました。昨年の天皇杯2回戦でFC東京と対戦したことも全国的にFC KAGOSHIMAを知ってもらう良い機会となりましたね。現在は地元企業だけに止まらず、県外の企業にもスポンサーになっていただいています」
徳重氏を中心にクラブ一丸となり、結果を出すことでその壁を乗り越えてきた。取材後に最終戦を迎えた第40回九州サッカーリーグでは、17勝1敗という成績で、創設3年目、九州リーグ参戦2年目にして鹿児島県勢26年ぶりの同リーグ優勝。これにより名実ともに鹿児島を代表するクラブへと成長を遂げた。
愛する鹿児島を活性化すべく、地元の人たちやサポーターとの交流にも選手自ら積極的に参加している。それは、応援してくれる人たちのおかげでサッカーができると選手自身が自覚しているからだという。
「町内会の集まりからお祭りまで、可能な限り参加しています。地域密着を掲げるクラブはたくさんあると思いますけど、県外に出た人が地元を思う気持ちで作ったクラブというのはあまりない。海外にも数多くある鹿児島県人会にも協力していただいて、鹿児島在住だけでなく“故郷鹿児島”を応援する世界中の方々の共通の話題になるクラブになればいいと思っています」
鹿児島と聞けばサッカーどころという印象を持つ方も多いだろう。事実、2011年度データによると、JFAに選手登録している数、いわゆるサッカー人口は人口比にして全国第10位、そしてJリーガー出身別ランキングでは人口比で静岡県に次ぐ全国2位である。前園真聖や遠藤保仁、大迫勇也、県高校出身の松井大輔や伊野波雅彦など、日本代表クラスの選手も数多く輩出してきた。しかし、Jクラブは存在しない。
「県外に出て、そこの地域には熱狂的に応援するJクラブがあり、週末にはスタジアムへ向かうサポーターを見た時、本当にうらやましく思いました。鹿児島からはこんなに良い選手が出ているのにって」
良い選手を育てはぐくむ土壌がある。今は無償だとしても未来を信じ支え続けるスタッフがいる。そして故郷にJクラブが出来るのを待ち望むサポーターがいる。巨大な資本に頼らず、かといって地元だけに目を向けるのでもない。全国、いや世界中と“故郷”という共通の思いをつないでクラブを支える。単なる営利目的を越えた新しい地方サッカークラブの形がそこにはある。
「例えばFC KAGOSHIMAの優勝が懸かった試合が東京で行われて、その時満員のスタジアムの半分以上が鹿児島出身者で埋め尽くされているのを見るのが夢ですね」
まるで少年が大切な宝物の話をするように、熱く、無邪気に語る徳重氏は、挑戦者でありながら少しの迷いもない自信に満ちた表情であった。それもそのはずだ、同じ志を持った数多くの“郷土愛”が彼を支えているのだから。
インタビュー・文=松元達矢(サッカーキング・アカデミー)
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