[ワールドサッカーキング0418号掲載]
文=フットメディア Text by Footmedia
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
本格ブレイクからわずか2年あまり、ギャレス・ベイルはプレミアリーグにおいて“異次元”とも言える活躍を披露し、スペインの2強を筆頭とする有力クラブから注目されている。しかし、英国人の彼には国外移籍を前にまだやり残したことがある。
悪夢の2年半を経てリーグ屈指のタレントへ
育成の名門サウサンプトンで育ったギャレス・ベイルが超有望株としてロンドンへやって来たのは17歳の時。しかし、トッテナムでのデビュー以降、彼は悪夢のような時期を過ごすことになる。ベイルが出場するとなぜかチームは勝てず、プレミアリーグで実に24試合連続未勝利という不名誉な記録を打ち立ててしまう。この負のジンクスは「The Curse of Bale」(ベイルの呪い)と呼ばれ、将来を嘱望された若者は思わぬ形で有名になった。ベイルが初めて勝利を味わったのは加入から2年半後の2009年9月。4点のリードで迎えた85分からの出場というハリー・レドナップ前監督の恩情によるものだった。
しかし、この呪縛から解放されて以降、ベイルのキャリアは大きく変わっていく。「勝ちたければベイルを出すな」と揶揄された男は、今や「ベイルがいればどこにでも勝てる」と言われるまでに急成長を遂げたのだ。
レドナップによる左サイドバックからウイングへのコンバート、2年連続でのリーグ年間ベストイレブン選出と、20歳を過ぎてからの彼は加速度的な成長を遂げた。そして、その進化は今シーズンもとどまることを知らない。アンドレ・ヴィラス・ボアス監督は、板についた左ウイングというポジションからベイルを解き放ち、トップ下の位置で完全な自由を与えた。この采配が見事にハマり、ベイルはリーグ屈指の“ゴールマシーン”へと進化。今シーズン既にプレミアリーグでキャリア最多となる16ゴールをマークしている。
元トッテナムの英雄であるガリー・リネカーは、ベイルの成長ぶりをこう評する。「彼はクリスチアーノ・ロナウドを彷彿とさせるプレーを見せ始めている。ロナウドも、同じようなステップアップを遂げて現在のレベルに到達したんだ。ベイルはとんでもない能力を持っている。信じられないほど速く、強く、誰にも負けないシュート力まで持っている。空中戦も強いし、あらゆる能力を兼ね備えている。フットボールの歴史において伝説的な選手になれるだろう」
国外クラブからの関心もトッテナムは放出拒否
リネカーの言葉どおり、ベイルは今やC・ロナウドと比較される存在となった。7月には24歳となるが、これはマンチェスター・ユナイテッドでゴールハンターとして覚醒したC・ロナウドがレアル・マドリーに移籍したのと同じ年齢である。そのせいもあって、シーズン終了後の移籍を予測する声は多い。そして、移籍先の筆頭に挙げられるのもC・ロナウドが所属するR・マドリーだ。
R・マドリーは以前からベイルを注視しており、スポーツディレクターのジネディーヌ・ジダンがトッテナムの試合で何度か目撃されている。ベイルはカウンターを志向するチームとの相性も良く、C・ロナウドと両翼を担う形でも、彼が退団した場合の後継者としても有益な人材になるだろう。
他のクラブも候補に挙がっているが、正直、R・マドリー以外のチームに移籍する可能性は低い。過去に何度もスカウトを送り込んでいたバルセロナは、競合クラブが増えて明らかに予算オーバー。ジョゼップ・グアルディオラが新監督に就任するバイエルンもベイルを気に入っているそうだが、彼らの優先ターゲットはストライカーだ。パリ・サンジェルマンは移籍金の支払い能力はあるが、残念ながらリーグ・アンにはベイルを引きつけるものがない。
各クラブの動きに対し、トッテナムの姿勢は「移籍断固拒否」と明快だ。今シーズン開幕前にはベイルと4年の契約延長を行い、チャンピオンズリーグ(以下CL)出場権を獲得した際の昇給を保証する代わりに、その場合は少なくとももう1年はクラブに残留するという契約条件を盛り込んだと言われている。所属選手の給与管理を徹底するダニエル・リーヴィー会長も、ベイルのサラリーについては「例外」を認めている様子。彼の慰留のためなら出し惜しみはしないだろう。
会長と同様、ヴィラス・ボアスも「どんな状況になってもギャレスを手放したくない。目標達成のためにも、チームのベストプレーヤーを出すわけにはいかない」と確固たる姿勢を見せている。近い将来のプレミアリーグ制覇、そしてCLでの躍進を狙うトッテナムにとって、ベイルは絶対売却不可の“宝石”なのだ。
最近のデイリー・スター紙の報道によれば、ベイルに接触を図ったユナイテッドは7000万ポンド(約100億円)という破格のプライスタグをつきつけられて門前払いを食らったという。アレックス・ファーガソン監督がサウサンプトン時代からベイルに目をつけていたことは有名だが、リーヴィー会長は国内のライバルチームに対してはびた一文まける気はないようだ。
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