文/竹田聡一郎
4月9日、「全北現代対浦和レッズ」全州ワールドカップスタジアム
今日はホーム側に座ってみようと、チケットボックスでホームゴール裏のチケットを求めると、「イルボン?」と質問される。「ネー」。
するとなんだかマネージャーらしき人が出現し、片言の英語で「日本人にはホームの席は怖いです。危険ですからアウェイ席だけです」と言われた。仕方ないので、「旭日旗や政治的メッセージのある旗は持ち込めません」の注意書きが並ぶアウェイ席に腰を落ち着かせる。
が、そこにいるのは泣く子もチャントするレッズサポである。試合前から相手チームにブーイングしまくるわ、中指は立てまくるわ、写真を撮りにきたカメラマンに水をぶっかけるわ、やりたい放題で、おい、アウェイ席のほうが怖いじゃないか、と言いたくなる。とはいえ、異国の地で頼もしくもあるのも確かだ。
キックオフ直前、「We are REDS!」が始まる。いいコールだなあ、と思う。その叫びに魂は宿り、レッズの名を呼ぶごとに愛は深まる。サポーターとはそういう生き物であろう。このチームに問題がないとは思わない。でもあの凶暴な赤と、逞しい音を出せるチームは世界でもそう多くない。贔屓のクラブもないし無宗教だし、守る家族もない根無し草の僕としては、愛するものがあって、帰属すべき場所のあるレッズのサポーターがうらやましくもある。
さて、試合は既報のとおり、那須大亮、梅崎司が早い時間で続けてスコア。前半7分で2─0となる。これはもうアウェーで勝ち点3が芳しい感じになってくる。宇賀神友弥のボールロストがちょっと多いかな、くらいのもので、先発の選手がみな、自分の仕事を遂行して前半を終える。
しかし、やっぱり問題は後半だった。
前がかってきた全北にボールを支配され、後半開始早々に、エニーニョのいかにもブラジル人っぽい遊び心満載のループで1点を返される。最終的にはロスタイム、イ・ドングクにボックス内で粘られ、落としたボールをソ・サンミンに撃ち抜かれ、2─2のドロー。ホーム側のスタンドは勝ったかのような大騒ぎだ。
アウェイ側のスタンドも心を折らずに再び「We are REDS!」を合唱する。コールリーダーは「残り2つ、全部勝って何かを起こそうぜ」と言うが、グループリーグ突破がいよいよ厳しくなってきた。
試合後、緩衝地帯の警官隊からプルアウェイし、ホーム側のゴール裏に行ってみた。「MAD GREEN BOYS」と光合成でも起こしそうな名前の全北のサポーターたちは発煙筒を焚き、
「浦和レッズ、チョンモンカラセヨ」(意味分からず)
「うおおおおお」
と、コーフンしながら大勢で叫んでいた。
Jひとり応援団の僕としては「けっ、ホームで引き分けじゃねーかよ。こっちの勝ちみてえなもんだ」と悪態をつきたい気分だったが、さすがに日本人だとバレるのはちょっと嫌だし、0─2から後半のラッシュで追いついた、確かに劇的なゲームではあったから、昂る気持ちは分からないでもない。何度も何度も大きな声で「浦和レッズ、チョンモンカラセヨ」と繰り返す。
そのうち、勢いあまった全北のサポーターの中から、もうナイターの灯も落ちているににスタンドに戻り、逆サイドのスタンドで片付けをしていた浦和サポーターたちに、何かわめき挑発する輩が出てきた。
最初はまた謎のハングルかと思ったが、よく聞くと「やめて〜」とか言っている。誰かに教わった日本語なんだろう。なかなか悲壮感が出ていて発音も悪くないが、僕が見る限り、レッズサポはガン無視していたぞ。
しかし彼らは執拗だ。そのうちスタンドの柵によじ登って「ヘイ、モンキー」とか言い出した。さすがにカチンときて、猿はお前だ、とつっこみたくなるが我慢ガマン、と思って写真を撮ってたら、不意に後ろから、
「ポニョッセゴ、浦和レッズ、クンバハンネン?」(意味分からず)
と小太りの若者に声をかけられた。日本人ってバレたら厄介だな、と思って、愛想笑いをしてたら、
「ウルネゴマチェゲ〜」(意味分からず)
と、レッズサポーターを指してゲラゲラと嘲笑っぽい声をあげたので、なんだか急にコソコソしてたり日本人でいるのを隠しているのが嫌になってきた。
「うっせうっせうっせ! 2─2なんだよ! お前ら前半、お通夜みてえだったくせに騒ぐんじゃねえ。これで1勝1敗1分だからな、明日の広島戦で決着だかんな!」
と、この連載を読んでくれている人にしか通じない一方的な理屈を日本語で押し付けて、スタンドを後にした。我ながらワケ分からん。
背中から「イルボンなんたらかんたら」みたいな声が聞こえたので日本人ってバレたみたいで、誰かおっかけてきて、捕まってボコボコになるの嫌だな、と思ったけど、走って逃げるのは嫌なので、振り返らずに歩き続けた。と書くと、なんだか勇敢みたいだが、実際はスタジアムのゲートをくぐるとダッシュで逃げたのだった。まあ、誰も追って来なかったけど。
さあ、取り乱した僕も主張したが、このアウェー4連戦、1勝1敗1分の五分で千秋楽である。正直、引き分けでも御の字だが、そこはJ王者、なんとか勝利を奪い取ってほしい。ゴールした後、なんのパフォーマンスをしてくれるかも楽しみだ。
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LCCで飛ぶアジアの戦い 第1回
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1979年神奈川県生まれ。同い年の小野伸二にヒールで股抜きされたことを妙な自慢としながら、フリーランスのスポーツライターとして活動。戦術やシステムを度外視した「アンチフットボールジャーナリズム宣言」をして以来、執筆依頼が激減したのが近年の悩み。著書に蹴球麦酒偏愛清貧紀行『BBB』(ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅/講談社文庫)と、スルガ銀行のサッカーweb「I Dream」で連載中のコラムを書籍化した『日々是蹴球』(講談社)がある。
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