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<インタビュー>大儀見優季「うまくなりたい。その思いを胸に」

2013.09.02

エースとしてなでしこジャパンを世界の頂点へと導いたストライカー、大儀見優季。ポツダムではチャンピオンズリーグ制覇を経験し、ブンデスリーガ得点王のタイトルも獲得するなど、世界屈指の実力を誇る彼女は今夏、イングランドのチェルシーに新天地を求めた。数々の栄冠をつかんでもなお、挑戦をやめないその理由はただ一つ。「サッカーがうまくなりたい」という思いが胸にあるからだ。

インタビュー、写真●Akio Hayakawa/Photoraid.uk

自分の長所を磨き、良さをどう出していくかが大切

――何度も聞かれているとは思いますが、女子サッカー界で最高のレベルにあると言われているドイツを離れて、チェルシーへの移籍を決断した理由をお聞かせください。

大儀見優季 疑問に思った人はたくさんいると思います。最もレベルが高いと言われているリーグでやり続けることも、一つのステータスになるのかなと思いましたが、やはり自分自身の成長や今後のプランを考えた時に、このタイミングで違った角度からフットボールを見たかったことと、違うレベルに身を置くことによって今後の更なる成長につなげていきたいと思いました。

――レベル的には“ダウン”という見方をされている方も多いと思うのですが、ご自身は「“個”があればレベルアップにつなげられる」とおっしゃっていました。なぜ、そのような考え方ができたのでしょうか?

大儀見優季 結局は環境のせいにしてしまうじゃないですか。それだと絶対に成長しないし、「チームのレベルが低いから自分は成長できない」と決めつけていたら、それこそ成長が止まってしまいます。私自身はしっかりとしたビジョンを持っていて、どうやったら成長していけるかを分かっている部分があるので、どの環境にいてもレベルアップできる自信があります。

――ドイツとイングランドのサッカーにおける環境の違いはどんなところにありますか?

大儀見優季 ポツダムは、スポーツシューレという国が運営するスポーツの学校のようなものだったので、施設の環境的には悪くなかったですし、他の競技の選手もたくさんいたので、むしろ設備が整っていました。

――まだ数週間しかイングランドに滞在していないので答えづらいかもしれませんが、やりやすいのはどちらですか?

大儀見優季 イングランドのほうが束縛がなく、自由ですね。ピッチに来てもすぐに自分のやりたいことをできます。ドイツでは、入場する際もみんなでまとまって出ていかなくてはいけませんでした。

――数試合を戦った段階で、イングランドのレベルはどう感じましたか?

大儀見優季 自分がやってみた感触では、ドイツよりもプレッシャーが早く厳しいですし、こっちのほうがレベルが高いのではないかと感じる部分もあります。レベル自体を比べるというのは、国のスタイルも違うので難しいです。

――どちらのほうが好きですか?

大儀見優季 ドイツに行った時と、3年経った今では感じ方が違いますからね。最初に行った時はドイツのサッカーが好きでしたけど、自分がある程度成長していくと、リーグへの見方も変わってきました。その中で新しい環境であるイングランドに飛び込んで、また新たな新鮮さを感じていますし、単純に楽しいですね。スピード感が違います。ドイツに渡った時もすごく早く感じましたが。

――ロンドンでは単身で生活をされているそうですね。新天地での生活はいかがですか?

大儀見優季 特に問題なく生活できています。

――日本から海外に行かれると、日本の便利さを思い知ることも多いと思うのですが。

大儀見優季 結局は「あるものでどうにかしよう」という発想に至るので、恋しいとかそういう感覚には特にならないですし、あるもので工夫することを楽しむほうがプラスになっていくと思います。日本の便利さはすごいと思いますが、こっちで生活をしている以上は関係のないものなので。

――今シーズンはどのような目標を持たれていますか?

大儀見優季 個人的にはイングランドのサッカーを知ることですね。チームとしては、3位以内でフィニッシュするために自分に何ができるかを探し、チームにどう貢献していくのがベストなのかを見つけながらやっていきたいと思います。

――なでしこジャパンはアルガルベカップや欧州遠征、東アジアカップで結果を残せていません。チームが成長するために、何が足りないのでしょうか。

大儀見優季 いろいろな問題がありますが、一番は“個で戦える選手”がもっと出てこなければいけません。そうしないと、チームとして戦う時に厳しい展開を強いられる場面が増えてしまいます。先日のアルガルベカップや東アジアカップにしても、韓国や北朝鮮は個の戦う力が際立っていました。それは海外に出なければ身につかないものではないですし、本人の意識次第で自分のレベルを高めていけるものです。普段からそういった意識、危機感を持って取り組んでいかないと、これから先、もう一つ上の段階に行く時、もう一つ上のプレーを求められた時にできなくなってしまうし、そうすると、チームでやりたいことが個の能力が足りないがゆえにできなくなってしまいます。チームの戦術が大きく変わろうとしている中で、それを発揮できるだけの力がまだついてきていないと思います。

――海外に挑戦する選手が増えてきていますが、なでしこリーグとの差はいかがですか?

大儀見優季 最近はなでしこリーグの試合を見ていないので、分からない部分があります。見ているだけでは分からないところもあるし、今の状態でなでしこリーグでやってみないと分からないところもあると思うので、そこは比べられないですね。

――なでしこジャパンには若く有望な選手たちが増えてきていますが、先輩としてアドバイスできることをお願いいたします。

大儀見優季 自分が若かった頃は、ある意味必死でしたし、「先輩たちについていきたい」という思いもありました。逆に「上の人たちを抜いてやろう」という野心も持っていました。そういった気持ちの根っこにある向上心をもっと表に出していかなければ、試合に出た時に、上の選手たちと融合できずに終わってしまうと思います。アルガルベカップでもそう感じることは多かったですね。自分の長所を磨き、良さをどう出していくかを、日頃から考えながらやっていくことですね。あとは国内リーグでやれていることだけで満足せず、常に世界のトップレベルを肌で感じてほしいというか。今はユース年代のワールドカップもありますし、そういう大会でもイメージはできると思うので。

――出るのは早ければ早いほどいいですか? それともある程度の経験を積んでからのほうがいいですか?

大儀見優季 早ければいいということでもないと思います。本人が「行きたい」と思った時がいいタイミングだと思います。自分が海外に来て思ったのは、人間的な部分でしっかりしていないと生活していけないということでした。サッカーだけでなく、普段の生活もついてくるわけですし、違う文化や人種の中で生活するだけでストレスになりますから、そういうことにもうまく適応していける人間力が必要ですね。

――「自分から行きたい」と思わなければいけないということですね。

大儀見優季 はい。そうでなければ行った後に現地での生活が嫌になり、自分の力を発揮できないまま日本に帰らざるを得なくなるという状況にもつながてしまうと思います。自分から行きたいと思える状態になってから、海外に行ってほしいですね。

「習慣にすることの大切さ」を父親から学んだ

――プレーを見ていると、明らかにボールキープにおける体の使い方が違います。大儀見選手の場合、トラップした後のボールは必ず肩幅の間に置いてありますよね。

大儀見優季 ドイツでもなでしこでもそうなんですけど、結局みんなボールを失ってしまうので、そういう点を意識しています。

――ということは、ボールを受け取ること自体も少ないんでしょうか? 呼んでいる声が聞こえても、実際にパスが来る確率はそこまで高くないような気がします。

大儀見優季 呼んでいても、「ボールが来なくてもいい」という場面もあります。

――“声のフェイント”ということですね。

大儀見優季 そうです。それでも、本当に自分がほしいところにボールは来ないです。

――自分がほしいポジションにいてもですか?

大儀見優季 来ないですね。呼んだところで、声だけで味方の判断を変えられる能力もまだないので。選手はそれぞれ持っているイメージの中でプレーしているだろうし、したいプレーもあるはずですから。

――練習などを通じて、チェルシーのチームメートのプレースタイルはなんとなく把握してきましたか?

大儀見優季 だいたいの特徴はつかんでいますが、もう少しつかめたらボールの出どころも分かってくると思います。

――チェルシーではトップ下のようなポジションでプレーすることが多く、最前線では主に23番のソフィア・ヤコブソンが起用されています。彼女は意外と向かってくる、ボールを持たせてもらっているという印象がありますが、連係面はいかがですか?

大儀見優季 ソフィアとはまだあまりかかわれていませんね。自分がボールを持った時のソフィアのポジショニングがあまりよくないので、なかなかボールを出せないです。

――今まではパスを受ける側のほうが多かったと思いますが、ゲームメーカーのような立場でプレーするにあたり、どのように練習されていますか?

大儀見優季 最近は出す側なんですよね。でも、受けながら出すというか、両方やらなくてはならない。受ける時は高い位置でボールを受けられるに越したことはないんですが、それはまだ難しいですね。

――ドイツでは“個による一対一”が特長だったと思うんですが、イングランドサッカーはいかがですか?

大儀見優季 スピードはあるほうだと思いますね。切り替えも早いです。あとはルーズボールに嫌なタイミングで突っ込んできますね。自分よりも早いタイミングで入って来るので、競り合いにいくと危ないプレーになってしまうというか、自分のファールになってしまいます。入って来るタイミングがうまいのは、相手のプレーで感じましたね。チェルシーは一対一が弱いので。

――一対一の激しいプレーは少ないですよね。

大儀見優季 そうですね。接触プレーはあまり得意ではないみたいですし、体の入れ方もそこまでうまくない。ヘディングの競り合いも強いわけではないですね。

――背が高くてジャンプ力のある選手が多い割に、セットプレーはあまり効果的ではないですよね。

大儀見優季 攻撃でいいボールを蹴れる選手がいないんですよ。最近はセットプレーの練習を重点的にやっています。先日の試合で喫した2失点ともCKからだったので練習しているんですが、ヘディングでまず勝てない。勝てないからなのか、ボールの落下点を読めないからなのか分かりませんが、ヘディングで安定してクリアできる選手がほとんどいないんですよ。ヘディングは身長の高さではなく、タイミングと予測が大切なんですよ。身長の高さではないんです。実を言うと、私はヘディングのゴールが多いんです。ドイツでも多かったですし、半分ぐらいはほとんどヘディングなんです。

――まだ2試合しか見ていないのですが、スタメンがほとんど変わっていなかったと思います。スタメンと控えの差はどうでしょうか?

大儀見優季 結構あると思います。だから交代できる選手も限られますし、選手層が薄いという感じはありますね。勝った試合では、点差が開いたために若い選手を2人、途中出場させました。経験を積ませるために起用したという感じでした。確かあの試合がデビュー戦だったと思います。

――大儀見選手から見て、チェルシーの選手に欠けている要素は何でしょうか。

大儀見優季 一番欠けているのと感じるが、気持ちの問題部分だと思うんですよ。身体能力はある程度は高いく技術もしっかりしている選手もいるんですが、練習でも何人かの選手しか、意識を高く持って真面目に取り組んでいないんです。監督が練習にいるときは真剣に取り組み、そうでないときはやらないといった様子も見られます。ただ、これはどこに行っても同じような感じですね。ドイツでもそういった感じはありました。でも、ドイツ人の方が日本人に近い真面目さは持っていたような気がします。

――日本は違いますか?

大儀見優季 日本人は、みんな真面目ですね。

――なでしこジャパンの欧州遠征でイングランドと対戦した時、若い選手たちが笑顔でおしゃべりしながらアップに出てくる中、大儀見選手は一人で淡々とやっていたようなイメージがありました。

大儀見優季 自分の中で準備があって、いつもやっていることなんですが、チームのアップの前に自分のアップをします。試合前だけでなく、実は当日の午前中にも同じようなアップをしています。

――通常の練習でも、他の選手より先に出てきますよね。

大儀見優季 はい。自分の体をチェックしたいんですよ。常に同じことをやっていたら分かるじゃないですか。私の場合は、試合に合わせてどうやって自分の体を作っていくかと考えた時に、トップコンディションに持っていくために必要な準備が見つかってきたんです。

――それは小さい頃の教育が影響しているのですか? それとも自分で確立させたものですか?

大儀見優季 たぶん父の教育です。「習慣にすることの大切さ」をすごく教えられたというか。理不尽なことで怒られたこともありましたが、「継続することの大切さ」を教わりましたし、体に染みついています。

――自分のリズムを崩さないと。

大儀見優季 最近は「リズムを崩したくない」とは考えず、その時の状況に応じて対応するようにしています。自分のリズムだけに固執ししぎると、何かが起こった時に無理やりそのリズムに持っていこうとしたりし、逆にリズムを崩したりもしますからね。それでも、トレーニングにしても試合にしても、一番良い状態で挑みたいので、自分のリズム、自分の準備を一番大切にしています。そうしないと得られるものが得られなかったり、「なんであの時にこういう準備をしてこなかったんだろう」と後悔したりしますから。試合や練習に向けて、自分なりに納得して準備をしていったら、それが自信にもなります。

自分のうまさをどう見せ、チームに影響を与えられるか

――チーム事情とは関係なく、やってみたい戦術、サッカーはありますか?

大儀見優季 一番は「その場で相手の嫌なプレーをする戦術」ですね。

――事前に相手を研究し尽くした上で、ということですか?

大儀見優季 それもそうですし、ピッチ内で全てを感じてアドリブで、という感じもあります。相手は毎回同じではないですし、同じ相手だとしてもコンディションは違います。日によって発想や持っているイメージも変わっているはずです。その時々によって嫌だと感じることは、変わってくるんです。精神状態も違うでしょうしね。その選手がその日、プライベートで何があったか。そういったものがプレーに影響してくるかもしれません。

――「練習でできないことは試合でもできない」とよく言われますが、試合でしか出せないものもあると。

大儀見優季 そうですね。試合でしかできないこと、練習では起きないこともあります。どれだけ練習で試合で起こりえそうなことを細部までイメージして取り組めるかだと思います。

――それは経験で生まれるものですか?

大儀見優季 試合でトライしないとできるようにならないものもあります。練習とはいろいろな状況が違いますからね。

――瞬時の判断というのはどのようにするのですか?

大儀見優季 一つのプレーでいろいろな情報を集められます。相手がパス1本を受けただけでも私のボールへの寄せ方次第で「これは嫌なんだな」と感じます。全てのプレーにおいてそういった相手の情報や、その状況下で必要な情報を集め、その状況下で最も最善だと思われるプレーを瞬時に選択するには、判断を自動化させる必要があります。頭で考えたことを身体で体現化するスピードをどれだけ上げられるかが、瞬時の判断に繋がってくると思います。

――チームから「頼られている」と感じますか?

大儀見優季 チームメートからは、もちろん感じます。監督はチームメートの前で「(大儀見は)ベストプレーヤーだから見て学べ」と言っているので、自分もそういう意識で見せなくてはいけない部分もありますし、今まで以上に一つひとつのプレーに集中してやっていく必要があると思っています。自分の立場も経験を重ねることによって、チームの中で変化をしていきます。最初は自分も、そういう立場の人がいたため見て学ぶことが多かったんですが、そういう立場になってみて思うのは、「うまい選手」と思われることだけじゃなく、その中でどう見せていかなければいけないのか、見せることによってチームにどういう影響を与えていけるのかを常日頃から意識しています。

――一番最初の試合の時に、一人でアップをしていましたよね? そこにコーチが来て「なんだ、お前はまたアップをしているのか」と会話しているのが聞こえて、「うちもみんながお前みたいにやってくれればな」という雰囲気でした。ということは、コーチたちもあまり言わないということですよね。生き残るためには、自分たちでやらなくてはいけない。

大儀見優季 言われてやっても身にならないですからね。

――それは外部からの脅威がないからですか? それとも、それでチームができあがってしまっているんですか?

大儀見優季 そう思いますし、サッカーをやっている目的もそれぞれ違うと思うんですよ。なぜ毎日練習をしに来ているのか、何のために来ているのか。恐らくそれぞれが違いますからね。

――確かに、他の職を持っている選手にとっては「サッカーがすべてじゃない」ということになりますからね。

大儀見優季 でも、サッカーがすべてではなかったとしても、好きなら真剣に取り組むだろうし、「うまくなりたい」と思うのが普通だと思います。自分はプロだから真剣に取り組んでいるわけじゃなくて、「うまくなりたい」という思いでやっているわけですから。お金をもらっていようがいまいが、サッカーに真剣に取り組む姿勢は持てると思います。

――それは小さい頃からの教育の違いがすごく大きいと思います。大儀見選手は純粋にサッカーが好きなんですね。

大儀見優季 今は純粋に「うまくなりたい」という思いがすごく強いですね。以前よりも増して強くなってきている。

――チェルシーだけでなく、なでしこジャパンでも、周囲からそのような姿勢を求められると思います。「成長」という言葉は、サッカーがそこまで好きじゃなければできないという部分はありますか?

大儀見優季 一番はそこだと思います。好きじゃなければ継続してはできないと思います。

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