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香川真司「勝負の2年目」、現地記者が求める「戦う姿勢」の真意

2013.09.16

[ワールドサッカーキング0919号掲載]

香川真司の2年目は厳しいスタートとなった。偉大な前指揮官が認めたその才能に疑いの余地はないが、新監督の信頼は、まだ100パーセント勝ち取れてはいない。“赤い悪魔”での勝負の2年目を、現地記者が占う。
香川真司
文=クリス・ヘザラル 翻訳=田島 大 写真=ゲッティ イメージズ

 本領発揮だと思われた2年目、香川真司は新たな障害に直面することになった。これから彼がイングランドで自分の夢をかなえるためには、まだまだ険しい道を走り続けるしかないようだ。

 イングランドのフットボール界で、この日本のエースの実力を疑う者はいない。2012年にドルトムントから加入した香川はマンチェスター・ユナイテッドでの1年目、ケガにも見舞われてスロースタートを切りながらも、しっかりと立て直し、ファンからの支持も勝ち取ってユナイテッドのプレミアリーグ制覇に貢献した。

 そして迎えた夏、2年目のシーズンに向けて香川は更に加速すると思われた。しかし今、彼は大きな変革の渦に飲み込まれようとしている。ドルトムントから彼を引き抜いたサー・アレックス・ファーガソンの退任によりデイヴィッド・モイーズが新監督に就任し、この強大なクラブに“地殻変動”が起きたからだ。

 現状だけを見れば、長丁場のシーズンを考えても、これから香川が新監督のファーストチョイスとして起用される可能性は低い。

 まず、彼にとって逆風となったのはコンフェデレーションズカップだ。ブラジルでの同大会に出場した香川は7月中旬まで休暇を与えられ、新政権スタート時に不在だった。チームへの合流はプレシーズンのトレーニングが2週間ほど経過した日本ツアーから。これは本当に痛かった。

 横浜F・マリノスとの試合を前にモイーズはこんなことを漏らしていた。

「シンジのことはあまり知らない。サー・アレックスは彼が素晴らしい選手だとたたえていたが、今日初めて会った私としては、ここからお互いを理解していく必要がある。私も日本語を学ぼうと思うが、彼も私のスコットランドなまりを理解しなければいけないね」

 日本で行われた2試合には出場したものの、香川はその後、ライアン・ギグス、ダニー・ウェルベック、ウェイン・ルーニーといった選手に出場機会を奪われている。

チーム内での香川の序列はかなり低い

 香川にとっての懸念事項はまだある。それはモイーズが4-4-2に近い布陣を採用し始めていることだ。たとえ香川に出番が回ってきたとしても、サイドに追いやられる可能性が高く、このポジションでは彼本来の持ち味である細かい技術を最大限に発揮することは難しい。

 もちろん、誰もがプレーメーカーとしての彼を評価している。昨シーズンもロビン・ファン・ペルシーと絶妙な関係を築き、ルーニーをベンチに追いやった時期があったことからも明らかなように、彼は1トップの後方、ユナイテッドで言えばファン・ペルシーの背後でプレーするのがベストな“環境”だ。

 だが、現状のモイーズ政権では、チーム内での香川の序列はかなり低い。ポジション争いのライバルに目を向けると、39歳のギグスがシーズンを通して活躍し続けるのはさすがに難しいが、サイドでもトップ下でもプレーできるウェルベックの存在が香川の立場を脅かしている。開幕2試合で出場機会のなかった状況を受け、一時は香川のドイツ復帰話まで再燃した。「シンジは今シーズン、大きな仕事をしてくれるはずだ」と語るモイーズだが、同時に彼は「シンジはまだ若い。このまま成長を続けてほしいね」と、香川を即戦力とは見なしていないかのようなフレーズも残している。

 実現には至らなかったが、モイーズは今夏、ゲームメーカータイプのセスク・ファブレガスの獲得を狙っていた。更には気心の知れたマルアーヌ・フェライーニや、香川と同タイプと言えるレアル・マドリーのメズート・エジルにも興味を示していたようだ。そして、移籍市場の閉幕直前にフェライーニの獲得が決定。モイーズの構想に「香川がはまる場所」は存在しなかったのではないか、そんな疑問さえ浮かんでくる。

香川の才能に疑いの余地はない

 ファーガソンは間違いなく香川に期待を寄せていた。しかし不幸なことに、ユナイテッドではこの27年間で初めて監督交代が行われた。当然だが、監督にはそれぞれの考え方があり、ファーガソンとの共通点が多いモイーズにも独自の考えがある。モイーズは献身的でフィジカルに長けた選手を好む指揮官だ。それを裏付けるように、彼の下で育ったルーニーは必死に相手を追って帰陣する。今のユナイテッドでポジションを勝ち取るためには、香川にもそういう姿勢が求められる。

 香川にとってこれは困難な挑戦だが、決して不可能なことではない。香川本人は昨シーズンの出来に納得していないようだが、クラブ関係者、更にはサポーターもしっかりと1年目の香川を評価している。そう、香川は選手にとって何よりも心強いファンの支持を得ているのだ。

 ユナイテッドのサポーターが常用するインターネットの掲示板では、モイーズの下で出場機会を奪われた香川についての議論が熱を帯びているが、大半のファンが香川をサポートする書き込みをしている。中には「サイドでの起用は彼のキャリアに悪影響を及ぼす」といった意見もあり、ファンの多くは香川がファン・ペルシーの背後で躍動できると信じているようだ。

 もちろん私も香川の躍動を楽しみにしている。モイーズも香川にチャンスを与えることは約束しているし、チャンピオンズリーグがスタートすれば、おのずと香川の出場機会も増えるだろう。香川に求められるのは、そのチャンスをしっかりと生かすことだ。限られた出場時間をムダにはできないし、その焦りがあだになるようなことがあってもいけない。サーの称号を持つ指揮官が認めたとおり、香川の才能に疑いの余地はない。2年目の香川に必要なのは、今までどおり「自分にできる最高のプレー」を披露し、今まで以上に「戦う姿勢」をアピールすることだ。

ワールドサッカーキング0919号掲載

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