[ワールドサッカーキング1406号掲載]
歴代のキャプテンたちと比べれば、もの静かでスマート。個性派が集うバイエルンでは決して目立つ存在でもない。しかし、リーダーとして、戦術上のキーマンとして、ラームは誰よりもチームに欠かせない存在である。
インタビュー・文=トーマス・ツェー Interview and text by Thomas ZEH
翻訳=石橋佳奈 Translation by Kana ISHIBASHI
写真=シャミル・タンナ、ゲッティ イメージズ Photo by Shamil TANNA, Getty Images
中盤からだと全体がよく見える
――今シーズン開幕前、多くの専門家は「優勝争いはバイエルンとドルトムントのマッチレースになる」と予想していた。でも、実際はバイエルンの独走だったね。
ラーム 実は僕も専門家と同じ意見だった。ただ、僕らと競り合うはずのドルトムントにはケガ人が続出し、控えメンバーがウチほどは充実してなかった。それが何度も格下相手に取りこぼした原因だろうね。でもやっぱり彼らには底力がある。先日の試合では0-3の完敗を喫してしまった。
――それにしても、3月下旬での優勝決定は圧巻だったね。これは歴代最速の記録だ。
ラーム 目の前の試合に集中して最初からエンジン全開だった。すべて勝つつもりでやってきたからね。もちろん、ペップ・グアルディオラが果たした役割も大きかったよ。
――ペップは君を右サイドバックから守備的MFへコンバートした。戦術的にも今シーズンの大きな変化の一つだ。
ラーム 中盤でプレーするのは初めてじゃなかった。Aユーゲント(16~18歳のユースチーム)時代にやったことがあるし、ドイツ代表でも何度か担当したことがある。MFへのコンバートはペップ独自のアイデアじゃないんだ。でも監督は、僕ならこのポジションを十分にこなし、信頼を置けると考えて任せてくれたんだと思う。
――MFでの起用に不満はない? 本来のサイドバックとの違いを感じるのでは?
ラーム もちろん違いはあるけど、とても気持ちよくプレーできている。中盤からだと全体がよく見えるし、より試合展開に影響力を及ぼせる。キャプテンとしてチームメートとたくさん対話できるのもいいね。サイドバックだとそうはいかないから。
――ペップは複数のポジションをこなせる選手が好みのようだ。とはいえ、従来のポジションをガラリと変えることには大変な苦労がある。君はそれをいとも簡単にやり遂げてしまった。適応力が素晴らしいのか、別のポテンシャルが発揮されたのか。
ラーム いろいろなポジションに適応できる素地はあったと思う。バイエルンでのこれまでの経験がそれを引き出してくれたんだ。サッカーではセンターバックとセンターフォワードは固定されるものだけど、両サイドバックや両ウイング、6番(ボランチ)や8番(攻撃的MF)、10番(トップ下)の選手は、テクニックや俊敏性、ゲームインテリジェンスを備えてないと務まらない。バイエルンにはそういったタイプの選手が何人もいて、僕もその一人だったというわけさ。
――ペップはあるインタビューで「これまで指導してきた中で、ラームが最も知性の高い選手だ」と話していた。
ラーム 光栄だよ。お世辞が含まれているとは思うけど、それでも多くのスター選手を育ててきた監督に褒められるのは悪い気がしない。
――それじゃあ、監督との関係も問題なさそうだね。
ラーム もちろんだ。僕らはすべてのテーマについてしっかり話し合えている。精神的に悩んでいたり、新たな提案を考えついた選手は誰であろうと、すぐにペップの下へ行って相談できるんだ。若い連中の言い分にまでじっと耳を傾ける監督はそうはいない。ペップは本当に素晴らしい指導者だよ。
ペップは良い意味で“サッカー馬鹿”なんだ
――監督の戦術について、もう少し詳しく説明してほしい。
ラーム ペップは試合中、相手チームの強い部分と弱い部分を瞬時に見抜いて、僕らがどう対応すべきか、ポジション取りや動き方について細心の注意を払って指示してくる。例えばFWに向かって「違うコースを走れ」とか、MFに「中央から横に移動して相手のスペースを消せ」といった具合にね。4-1で勝ったマインツ戦で、僕が試合中に4つの異なるポジションをこなせたのも、監督の指示があったからだよ。システムは4-1-4-1だけじゃなく、状況や相手に応じて4-2-3-1になったり4-4-2になったりする。バリエーションが豊富なのは、それだけ僕らが臨機応変に対応できるようになったからさ。
――グアルディオラは“戦術オタク”という声もあるけど。
ラーム ペップは良い意味で“サッカー馬鹿”なんだよね。ある時は監督、ある時は学者、選手やファンになったりもする。「どうすればもっとうまくやれるか」を常に考えているんだ。相手を研究し、解決策を見いだし、選手がどの位置へ、どのタイミングで飛び出したらいいか、どうスペースを活用したらチャンスを創出できるかって、とにかく1日中サッカーについて思考している感じだ。そのおかげで選手は成長させてもらってる。対戦相手がなかなか僕らを倒せないのも、そうした背景があるからだよ。
――トレーニングについては?
ラーム ペップはボールなしの練習を絶対にやらないね。コンディション調整などで定番の長距離走も彼のメニューにはない。これは本当にうれしいよ(笑)。僕は長距離ランが大嫌いだし、どんな練習もボールを使ったほうが楽しいに決まっているからね。ペップは日々のトレーニングで、少しでも気になる点を発見すると、すぐに練習をストップする。そして、なぜ止めたのか、どうしたら改善できるのかをとことん説明するんだ。僕らはペップの知識と経験から常に学んでいる。新しい発見も多いよ。トレーニングが退屈だなんて思ったことは一度もないし、本当に楽しくやっているよ。
――ペップが最初に話し掛けるのはキャプテンの君だよね。
ラーム まあね。でも、副キャプテンのバスティアン(シュヴァインシュタイガー)がよく補佐してくれるから、監督と選手の間に距離が生まれることはないよ。僕らはそれぞれ異なるタイプだけど、お互いに補完し合っている。
――シュテファン・エッフェンベルク、ローター・マテウス、オリヴァー・カーンといった歴代のキャプテンたちは、いずれも声が大きくて、少々野蛮で、思ったことをストレートに吐き出すタイプだった。その点、君は物静かでスマートだ。慎重に言葉を選んで、チームに亀裂を作らず、一致団結の方向へ持っていくタイプだよね。
ラーム 僕はそれを「フラットなヒエラルキー」と呼んでいる。全員が平等という意味だよ。でも、間違えないでほしい。先輩と後輩のヒエラルキーはちゃんとある。それが全くなかったらチームは成り立たないからね。でも、時代は変わったのさ。僕は若い選手がミスを犯しても、激しく怒鳴りつけたりしない。感情に任せてそんなことをしたら若い選手は萎縮してしまうからね。僕は思慮深く対応し、彼らのお手本にならなければならないと自分に言い聞かせている。こう言うと、まるでカーンたちを批判してるように聞こえるけど、そうじゃない。その反対だ。僕はカーンからたくさんのことを学んだ。勝利への飽くなき欲求、野心、トレーニングに打ち込むことの大切さ……。
――それと、キャプテンとはどうあるべきか?
ラーム いや、そこは僕のオリジナルだよ。自分は自分でしかないからね。
――スターぞろいのバイエルンでは、試合に出られない選手たちをケアするのもキャプテンの重要な役目だよね。今シーズだとマリオ・マンジュキッチやトニ・クロースなどは出場機会が減っている。
ラーム 選手が不満を抱えたままでは困るから、話し合いは重要だ。今シーズンは何人かと腹を割って話をした。ただ、ずっとベンチに座っていた選手はいないはずだ。3日に1度のペースで試合があるし、監督はローテーションを採用しているからね。
指揮官のグアルディオラについて語ったラームが、ドイツ代表における自身のポジションについて言及。インタビューの続きは、発売中のワールドサッカーキング1406号でチェック!