[ワールドサッカーキング1406号掲載]
クラブ期待の生え抜きとして10代で名門の一員となり、デビューからわずか6年であらゆるタイトルを獲得。トーマス・ミュラーのキャリアは栄光に満ち溢れている。だが、野心家である彼の“渇き”は、決して潤うことはない。
インタビュー・文=トーマス・ツェー Interview and text by Thomas ZEH
翻訳=石橋佳奈 Translation by Kana ISHIBASHI
写真=シャミル・タンナ、ゲッティ イメージズ Photo by Shamil TANNA, Getty Images
対戦相手も観客も目が回るほどさ
――史上最速でのマイスターシャーレ獲得おめでとう。ずばり今シーズンの勝因は何だったんだろう?
ミュラー 昨シーズンの3冠が選手にとって大きな自信になった。そこにマリオ(ゲッツェ)とチアーゴ(アルカンタラ)が加わり、更にはペップ・グアルディオラがやって来た。監督はすぐに選手の特徴を正確に把握し、対戦相手に応じてシステムを変えた。特に戦術面で優れた采配を見せてくれたんだ。おかげで、僕らは優勝を決めるまで負け知らずだった。優勝決定後のドルトムント戦では彼らのプレッシングの激しさと攻守の切り替えの早さにしてやられたけど、全体的に見たらバイエルンのリーグ優勝は当然の結果だったと思うよ。
――グアルディオラ監督と前監督のユップ・ハインケス、一番の違いは何だろう?
ミュラー ハインケスの戦法はしっかり守って、チャンスが来たら一気にカウンターを仕掛けるというスタイルだった。最終ラインから左右のウインガーにつないで、ドリブルで仕掛けるのが基本。シンプルだけど、あれはあれで美しいサッカーの一つだったと思う。一方のペップはボールポゼッションにとことんこだわる。対戦相手も観客も目が回るほどさ(笑)。
――現在のバイエルンはグアルディオラが目指すサッカーをしっかり体現できている?
ミュラー ボールポゼッションは時に70~80パーセントにも及ぶ。監督が理想とする素早いショートパスの交換、相手をネットで囲い込むようなプレッシングは、ある程度体現できていると思うよ。でもまだまだ完璧じゃない。更に理想に近づくため、努力を続けているところだよ。
――君の言う理想とは、バルセロナのようにプレーすること?
ミュラー ペップは選手の長所を最大限に引き出そうとする監督だ。ウチとバルサでは選手のタイプが違うから、当然同じサッカーにはならない。バルサがヘディングでゴールを奪うシーンは少ないよね。でもウチには(マリオ)マンジュキッチや(クラウディオ)ピサーロ、更には僕と、ヘディングが強い選手がいる。ペップは何から何までバルサ流にしようだなんて考えてはいない。ボールポゼッションにしても、たとえ90パーセント支配したとしても、点を取れずに試合に負けたら何の意味もないわけだし。
相手にとってリスキーでありたい
――ハインケス時代と比べると、君の先発出場の回数は少し減っているようだけど。
ミュラー 以前よりもポジション争いが激しくなっているからね。ウチの攻撃のオプションが何枚あると思う? マリオ、チアーゴ、(トニ)クロース、(フランク)リベリー、(アルイェン)ロッベン、(シェルダン)シャキリ……戦術や試合展開によって、いろいろな選手がローテーションで起用されるんだ。まあ、たまにはベンチに座って試合の流れを見たり、ちょっと体をいたわったりするのも悪くない。ただ大事な試合をベンチで過ごすのはつらいよ。選手たちのジリジリした気持ちを試合で爆発させるために、監督はあえてそういう措置を取っているんだと納得するようにしている。
――グアルディオラは就任以来、君を様々なポジションで起用している。ピッチ上の役割で変わったところは?
ミュラー 以前は右サイドとトップ下でオーソドックスにプレーしていた。でも、ペップに代わってからすべての攻撃的ポジションを経験させてもらっている。左から右まで、それこそほとんどのスペースを担当した。それと“偽の9番”のような役目もね。
――最も好きなポジションは?
ミュラー 攻撃的なポジションならどこでもオーケーだ。僕は相手にとってリスキーな選手でありたいからね。ただ、最前線に入っても、9番のような仕事はそれほど得意じゃない。僕は一列後ろから相手の嫌がるスペースに飛び込んで行くタイプだから。
――君と比較して、ゲッツェやチアーゴの特長は何だろう?
ミュラー マリオは僕よりもずっと高いテクニックを持っている。かなり狭いスペースでもボールを自由にコントロールできて、目を見張るステップワークとドリブルで簡単に突破しちゃうんだ。チアーゴは“配電盤”だね。とにかくボールをさばく技術が抜群だ。どこへパスを出すべきかを一瞬で判断して、信じられないほど正確にボールを送るんだ。彼ほどの名手はこれまでのバイエルンにいなかったんじゃないかな。ただ残念なのは、何度もケガに見舞われていることだ。
グアルディオラが志向するサッカーや、自身のポジションについて語ったミュラーが、CLについて言及。インタビューの続きは、発売中のワールドサッカーキング1406号でチェック!