[ワールドサッカーキング1407号掲載]
グループCに組み込まれた日本は、コートジボワール、ギリシャ、コロンビアと対戦。“大方の予想”を疑うことで勝機は見えてくる。
文=細江克弥
写真=ゲッティ イメージズ、兼子愼一郎
強さのバロメーターは「戦力」だけではない
コロンビアが頭一つ抜けていて、コートジボワールと日本が2位争いで横並び。だからこそ、総合力でやや劣る“最下位候補”のギリシャには、絶対に勝たなければならない――。日本が組み込まれたグループCにおける“大方の予想”は、恐らくそんなところだろうか。しかし、チームの強さを表すものは「戦力」だけではない。
コロンビアは確かに強い。あくまで目安に過ぎないとはいえ、6月発表のFIFAランキングは8位。南米予選をアルゼンチンに次ぐ2位で通過し、ヨーロッパ各国の第一線で活躍するタレントが数多く名を連ねる。その筆頭格は、コロンビアの偉大なるレジェンド、カルロス・バルデラマの後継者と称される司令塔ハメス・ロドリゲスだ。キレキレのドリブルで縦への突破を図るフアン・クアドラードは右サイドで躍動し、カルロス・サンチェスとアベル・アギラール、あるいはフレディ・グアリンが形成するボランチはとにかく固い。両サイドバックには、突破もできる、パスも配れる、気の利いたポジショニングもできるという完成度の高い選手たちが並ぶ。
「育成のスペシャリスト」として知られる指揮官ホセ・ペケルマンとの相性も抜群だ。個が際立つチームだからこそ、組織の整備に定評のある指揮官の就任が急成長を後押ししたことは間違いない。しばらく低迷していたチームに光明をもたらしたのは紛れもなくこの男である……と、戦力的なプロフィールを整理すると、確かに今大会のダークホースと呼ばれるにふさわしい好チームである。しかし……。
絶対的なエースとしてこのチームを牽引してきたラダメル・ファルカオの欠場は、名将ペケルマンにとって大きな誤算となった。ファルカオは今や、ウルグアイのルイス・スアレスと並ぶ世界最高峰のストライカーだ。彼がいないコロンビアは、「クリスチアーノ・ロナウドのいないポルトガル」と同等か、それ以上のダメージを受けた。
ペケルマンの仕事は、際立つ個性をいかにして組織的に機能させるかをテーマとしていた。結果として完成したのは、組織的な守備意識の高い、いわゆる堅守速攻型のチームである。フィニッシャーとして機能するのは、極端に言えばJ・ロドリゲスとファルカオの2人。「2人でもゴールを奪える」のが、このチームの強みだった。
ファルカオの代役として期待されるカルロス・バッカやジャクソン・マルティネスは、確かに爆発的なスピードとパワーを秘めた有能な点取り屋だ。しかしファルカオと比較すれば見劣りするのは明らかで、何よりJ・ロドリゲスを含めた“お膳立て役”とのコンビネーションに不安を残す。6月1日のセネガル戦では見事なカウンターからバッカがゴールを奪ったが、90分を通じて連係が合ったのはこの1本のみだった。
それからもう一つ、コロンビアにとって最も大きな不安材料は、メンバーが誰一人としてW杯に出場したことがないという「経験不足」にある。W杯には“勝ち方”があり、それを肌で体感していない点は大きなマイナス。何か一つでも歯車が狂えば、チームが崩壊する可能性さえ潜んでいる。日本にとってコートジボワールとの初戦が最大の山場であるのと同じように、コロンビアにとってもまた、ギリシャとの初戦が「すべて」だ。
難敵ギリシャには「最高でドロー」で十分
「経験」という意味で最も優位に立つのは、日本が初戦で対戦するコートジボワールだろう。確かに36歳を迎えたエースのディディエ・ドログバはピークを過ぎたが、決定力なら依然としてワールドクラスだ。同じく30歳を過ぎているヤヤ・トゥレ、ディディエ・ゾコラら「黄金世代」は、メンバーの多くが4年前の南アフリカ大会を主軸として戦い、惨敗の悔しさをエネルギーに変えて今大会に臨んでくる。ジェルヴィーニョはローマで完全復活を果たし、ドリブラーとしてのポテンシャルは今大会屈指。シェイク・ティオテやセレイ・ディエ、サロモン・カルーら中軸も「個の能力」だけを見れば警戒すべき実力者であることは間違いない。
彼らに足りないのは「組織力」だ。従って、現役時代から屈指の“チームプレーヤー”であったサブリ・ラムシ監督の思想が浸透するかどうかがチームの命運を左右するポイントとなるだろう。アフリカ予選や親善試合で内容がパッとしなかった理由は、「チームのために走る」という現代サッカーに最も必要な要素の欠如にあった。ただ、その不安要素はW杯という特別な舞台に引き出されるエネルギーによって解決される可能性が高い。だから、ドログバという絶対的なエースのいるチームは怖い。ファルカオの欠場によってコロンビアは「正攻法」を失ったが、コートジボワールには確固たる“型”がある。
ただし、日本にとってコートジボワールが「やりやすい相手」であることも事実である。多くの選手が口にしているように、南アフリカ大会の直前に対戦したコートジボワールは「格の違い」を見せつけられる過去最強レベルの相手だった。コートジボワールの選手たちにもその記憶は残っているから、「勝ち点3を取れる相手」として日本を見ているに違いない。前半の早い時間帯に先制点を奪って“型”の対応に集中し、相手が前がかりになった終盤にトドメを指す。そうした展開に持ち込むことができれば、勝ち点3を獲得することができる。むしろそうでなければ、その先の戦いは一気に難しくなる。
一方、組織的に守備を固めるギリシャは日本にとって最もやりづらい相手である。日本はこれまで、岡崎慎司の飛び出し、大迫勇也のポストプレー、大久保嘉人のアクセントと手詰まりを打開する特効薬を模索してきたが、それほど簡単に崩せる相手ではない。彼らは世界の舞台で勝つための武器は持っていないが、守り切って勝ち点1を獲得するための戦い方を知っている。相性を考えれば、勝ち点3を獲得するのが最も難しいのはこのギリシャである。
第2戦終了時点で勝ち点3。これが日本のノルマだ。コロンビアが勢いに乗って勝ち点6を獲得していれば、彼らの安堵感を逆手に取る形で勝機が高まる。もし大崩れしていて突破の可能性が消滅していれば、これほど楽な相手はない。「どちらも突破を懸けて争う第3戦」なら、W杯という大舞台の経験に勝る日本に分がある。
いずれにしても、初戦がすべて。日本が現実的な目標とするベスト8進出は、コートジボワールとの初戦に懸かっている。戦略的に、したたかに戦うことができれば、日本はこのグループを突破できるはずだ。5大会連続5回目の「経験」を、W杯で生かさない手はない。