ビッグ・ハート 道を切り拓くメンタルの力
著者:槙野智章
出版社:朝日新聞出版
定価:本体1,300円+税
今年3月、浦和レッズ、槙野智章選手の著書が2冊、同時発売された。『守りたいから前へ、前へ』(幻冬舎)は、カラーグラビアやチームメートとの座談会などを織り交ぜ、サッカーに詳しくない人にも親しみやすいフォトブック。一方、本書『ビッグ・ハート 道を切り拓くメンタルの力』は、槙野の少年時代から現在までのサッカー人生をたどりながら、様々な人から影響を受け、培ってきた考え方や熱い思いが語られた読み応えのある内容だ。
本書は、6歳の時、初めてスタジアムでJリーグを見た日から始まる。小学1年でサッカーを始め、サンフレッチェ広島のジュニアユース、ユース、トップチームと昇格を重ね、プロデビューを果たした。槙野のサッカー人生は栄光と挫折の繰り返しである。ユースで日本一に輝いたし、J2降格の経験もした。ケルンでは楽しい思い出よりもつらく苦しいことが多かったに違いない。けれども彼は、決して後悔を口にしないし、得るものが多かったと語る。いつも前向きである。
サンフレッチェ名物になった“サンフレッチェ劇場”やゴールパフォーマンスは彼が始めた。熱烈なファンだけではスタジアムは満員にならない。ファンを拡大するには、「サッカー場に行ってみたい」と思ってもらうことが必要だと考えた。もちろん、お調子者と批判されることもあり、周りの目が厳しくなることも織り込みずみだ。
タイトルにもなっている『ビッグ・ハート』とは、「大胆になれ」とか「強い気持ちを持て」という意味ではなく、他人の意見やアドバイスに対し素直に耳を傾ける姿勢を言う。アーセナルの下部組織に所属する選手が必ず教わる言葉で、槙野もユース時代の講習で学び、以来、大切にしてきた言葉である。
本書を読めば、槙野智章という男が人の話に耳を傾け、参考にしていることがよく分かる。コミュニケーションを大切にし、自分がどう見られ、評価されているかも常に意識している。自分を信じ、人の意見を尊重し、どうすれば他人のために役立てるかを考える有言実行の男である。だから読後感は、スタジアムで感じる風のごとく、清々しい。
株式会社啓文社 執行役員店売本部長兼商品部部長
広島県、岡山県を中心に展開する書店チェーン啓文社の本部で働いています。『尾道坂道書店事件簿』(本の雑誌社)というエッセーを出しています。サンフレッチェ広島が好きで、Eスタによく行きます。実は私も15年ほど前から車椅子で仕事をしているので、自称「書店業界の羽中田昌」。啓文社の詳細はこちら(http://www.keibunsha.net)