槙野智章にとって、2014シーズンは激動の1年だった。
所属する浦和レッズはシーズン終盤に失速し、ほぼ手中に収めていたリーグタイトルをつかみ損ねた。手応えを感じていたシーズンだったからこそ、その悔しさは計り知れない。
それでも彼は、この1年を「成長を実感することができた」と振り返る。
ただのサッカー選手でありたくない。守るだけのDFでありたくない。常に新しいスタイルを発信する選手でありたい。そうしたモットーはいつも彼を派手に演出するが、それによって受ける反動もプレッシャーも大きい。それでも槙野は、自らの信念を曲げることなく「サッカー選手である自分」を全力で楽しもうとしている。
スタイルを変えずに、成長を実感した2014年。その1年を振り返りながら、“足下”に通じる自身のスタイルを語る。
“サッカーを楽しむ姿勢”を貫くことができなかった
――槙野選手にとって、2014シーズンはどのような1年だったのでしょう?
「2013シーズンが悔しい結果に終わったことで、はっきりと『タイトルを獲る』ということを目標にした1年でした。結果的にそれができなかったことに不甲斐なさを感じています。ただ、2014年は本当にいろいろなことがあって、そうした中でも自分たちのサッカーを信じて戦い続けることができました。チームとしての成長を実感した1年だったので、そういう部分では満足しています」
――どのような部分に成長を実感したのでしょうか?
「正直に言えば、精神的な部分をコントロールするのが難しい1年でした。ピッチ外の問題によって勝ち点を剥奪されるかもしれないという話もありましたし、そういう問題を乗り越えるために本当のチーム力が試された1年だったと思います。自分たちでなければもっと下の順位だったかもしれないし、残留争いに巻き込まれてもおかしくなかったかもしれない。優勝できなかったことについては『不甲斐ない』『情けない』と思いますが、冷静になって振り返ると、自分たちの“チーム力”を表現することができた1年だったと思います」
――シーズン終盤に逆転を許してしまっただけに、そうした感覚を伝えるのはすごく難しいのではないかと思います。
「そうですね。もちろん、結果についてファンやサポーターの皆さんにブーイングされてしまうのは仕方のないことだと思います。そういう“目の厳しさ”は、浦和レッズというチームでプレーしていれば当たり前のように感じることですし、選手にとってありがたいことでしかありません。だから、目前で優勝を逃してしまったことについての言い訳はありません」
――冷静になって振り返ると、あと一歩及ばなかった理由はどこにあったのでしょう?
「優勝をほぼ手中に収めていたと言っていい状況でそれを逃したわけですから、一人ひとりがプレッシャーに勝てなかったということだと思います。特に終盤戦は、チームのストロングポイントである“サッカーを楽しむ姿勢”を貫くことができなかった。僕はどちらかと言えばプレッシャーが掛かるほど力を発揮するタイプですが、チーム全体としてそういう雰囲気を作ることができなかったし、僕自身にもそういう力が足りなかったと感じています。結果だけを見れば『あと一歩』。だけど、この一歩は小さくないとも思っています」
批判されても、それをエネルギーに変えてピッチの中で発揮したい
――槙野選手個人としては、どんな1年だったのでしょうか?
「僕自身の身の回りでもいろいろなことがありましたし、プロ9年目にして最も大きなプレッシャーと戦った1年でした」
――「大きなプレッシャー」とは?
「僕は、性格的にもサッカー選手としてのポリシーとしても、ピッチの外で起こっていることにも積極的に関わろうとしています。ツイッターなどを通じて、自分の意見を発信することも少なくありません。2014年はそういった部分でもいろいろなことがあって、僕に対する周りの見方が少し変わったと感じました。もちろん『サッカー選手の本分ではない』と批判されることもありましたけど、僕自身としては、だからこそピッチの上で結果を残さなければならないと強く思っていましたし、常に最善の準備を心掛けて『サッカー選手である自分』を全力で務めてきたつもりです」
――確かに、2014年はピッチ外の話題でも槙野選手の名前を良く耳にしました。ただ、「目立つこと」を避けるという選択肢もある中で、自ら一歩踏み込もうとする理由はどういったところにあるのでしょう?
「僕自身、『ただのサッカー選手で終わりたくない』というモットーを持っているんです。サッカーがうまい人はたくさんいる。その中で、自分の取り柄を理解して、立ち位置を見極めながらサッカー界を盛り上げることに少しでも貢献したい。僕はその役割を自ら買って出たいし、先頭に立って引っ張っていきたい。そうやってサッカーファン以外の人にもサッカーの魅力を伝えて、自分のことも、自分のチームのことも知ってもらいたいと思っているんです」
――それによって批判を受けてしまうこともあると思うのですが、気になりませんか?
「僕自身はできることを一生懸命に、という姿勢で頑張っているので、それを批判されるのはやっぱりキツイと感じることもあります。もし他の選手だったら、メンタル面で大きなダメージを受けてしまうかもしれませんよね(笑)。ただ、僕の場合は近くにいる皆さんが本当に力強く支えてくれるので、問題ありません。たとえ批判されても、それをエネルギーに変えてピッチの中で発揮したいと思っています」
――そうした環境の中で、ピッチの中でも確かな手応えを得られた1年だったのではないかと思います。
「2014年はサッカーに対する考え方が少し変わった気がします。今までは『攻撃的なDF』というスタイルを作ってきたんですけど、2014年は、もちろん攻撃もするけど自分の仕事である守備の部分を全うしようという気持ちでプレーしました」
――「攻撃的なDF」というスタイルは槙野選手の代名詞でした。それを変えようとするほどのきっかけがあったのですか?
「2013シーズンは34試合で56失点。この数字を改善しないと優勝できないと思ったことが直接的なきっかけです。それを決定付けたのが、たまたま目にしてしまったペトロヴィッチ監督のインタビューでした。監督は、『槙野と森脇(良太)は守備ができないからね』と笑いながら答えていたんですよ。次の日、僕は直接監督のところに行って、『失点を半分に減らしますから、見ていてください』と伝えました。それが監督の“狙い”だったのかどうかは分かりませんが、あれで完全に火がつきました。そういう思いを、1年間を通じてしっかり表現できたのではないかと思います」
モチベーションさえ失わなければ成長できる
――現在27歳。今後のキャリアについてはどのように見据えていますか?
「もちろん、日本代表のことは常に意識しています。新体制になってからまだ一度も呼ばれていませんが、自分の中では良いパフォーマンスを維持していると思うし、アピールは続けていきたい。やっぱり、日本代表は素晴らしい場所。あの場所に戻りたいという気持ちをモチベーションとして、レベルアップしていきたいと思っています」
――多くの経験を積んできた今だからこそ、これからのキャリアが楽しみに思えるのではないかと思います。
「ホントにそうですね。楽しみで仕方ありません。サッカー選手という仕事は、目の前にある環境を自分たちの力で変えることができる。どれだけ年齢を重ねても、モチベーションさえ失わなければ成長することができる。僕は常にそう思っているので、これからの時間も楽しみで仕方ありません」
――「楽しみながらプレーする」というテーマが、これから成長していく上でのポイントでしょうか?
「それは間違いないでしょうね。自分が好きなサッカーを仕事としているわけですから、それを存分に楽しみたい。毎朝、家の玄関を出る時にはサッカーができる喜びを感じたいと心から思います。小さな頃からの夢を叶えて、今まさにその真っただ中にいるわけですから、今を楽しまないといけないですよね」