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【ロンドンの残光】ロンドン五輪サッカー日本代表の真実「Episode 12 メキシコとの練習試合で見えた日本の戦い方」

2015.02.18

メキシコとの練習試合で見えた日本の戦い方


Photo by Getty Images 

 試合開始から日本は、中を切って左サイドにボールを追い込む。あるいは、CBのレイエスが左足でボールを持ったときには、永井が右サイドにボールを押しやるというプレスの動きをした。しかし、メキシコは日本がこれまで対戦したどのチームよりも、組織力が高く個人のスキルも優れていた。

 権田は、試合を振り返って話す。

「メキシコみたいにボールをポゼッションする相手とやることは今までなかったじゃないですか。ベラルーシが相手のときは、もっとボールをポゼッションされるのかと思ったんですが、引いて守ってカウンターという形のサッカーをしてきた。メキシコのように相手にここまでボールを支配されたのは、はじめてだったんです。

守備でブロックを作って守っても、その隙をつかれてどんどんはがされるという感じがしました。試合をやっていて、フィールドの選手たちも監督も同じように感じていた、と思うんです。あの試合をきっかけに、守備をより固めて少ないチャンスで攻める、というチームの方向転換がはっきりしたんだと思います。

もっと言ったなら、相手が横に出したパスを奪って、先制点を挙げたんですが、あのようなショートカウンターでのやり方は、今まで目指していなかった形だったけど、きれいに得点が入ったので、個々のレベルが高い選手がいるチームとの対戦は、隙を作らずに守ってカウンターという戦い方がいい、と選手も監督も確信を持ったんだと思いました」

 永井も同様に、「親善試合のメキシコ戦で、守備への考え方が確立されたんだと思います。攻撃に関しても、そうした守備のやり方に合ったカウンターで攻めるんだということがはっきりした」と語る。

 この試合でミドルシュートを決められてゴールを許した権田は、キャッチングについて反省点を挙げて、本戦への戒めにする。

「今までこだわりを持っていたつなぎの部分とか、キャッチングの部分に反省点がありました。メキシコ戦でミドルシュートを入れられたじゃないですか。僕はあのとき、両手でキャッチングに行ってゴールされたんです。両手でボールを取りに行かないとキャッチできないじゃなですか。僕は、シュートされた際に、まずボールをキャッチするという意識があって、あの得点シーンも無意識で両手でボールを取りに行っていた。でも、ゴールを防ぐという考えからすれば、片手を伸ばしてボールに触って外にはじいてもいい。

自分の中では、キャッチに行きたいという意識が強すぎて、習慣が強すぎて、両手が無意識に出てしまったんです。ゴールを守るという意識から、シンプルに弾く時は弾く。まずは得点を防ぐというプレーにもっとこだわっていきたい、とあのプレーで僕自身再認識させられました。それは、高いレベルのチームと試合をして行く中で、あるいは、自分がプレーヤーとしてレベルアップするためにも必要なことだ、と思うんです」

 チームとしての戦い方の方向性がはっきりと確立されたU-23日本代表は、7月26日、グラスゴーでロンドン五輪1次リーグの第1戦となるU-23スペイン代表戦との試合に臨むことになる。

 権田と永井に「スペイン戦がベストゲームでした」と言わせた日本のサッカーの歴史に大きく刻まれることになる初戦を迎えようとしていた。

初戦となったスペイン戦を迎えるとき

 あたりはまだ暗かった。

 枕元の目覚まし時計を見ると、起きるにはまだ早い時間だった。

 早すぎると思ったけれども、眠気はすでに去っていた。体も頭も十分に活動態勢に入っている。洗面所で顔を洗って、窓をふさいでいたカーテンを指でつまんで少しだけ外を見る。朝の近づきを感じさせる風景は、まだそこにはなかった。権田は両手を広げて大きく深呼吸をする。空気が体の中に流れ込むと、落ち着かない気分が少しだけ解消されたように感じた。

「何人かの選手は、次へのステップアップのために、ここで活躍して次のクラブへ移籍する手段だと考えてやっていた選手も実際にはいたと思うんです。僕自身もそういう気持ちがなかったと言えば嘘になる。

五輪の大舞台で自分のプレーを見てもらって、『あのGKはいいじゃないか』と思われたら嬉しいという気持ちがあったんですけど、GKというポジションは、あまり個人個人と思って試合に臨むと、そういう気持ちが先に立ったまま試合に挑むと、試合の中で冷静な判断ができなくなってしまう。

僕はそう思っているんです。だから、純粋にメダルを取るという気持ちだけで、評価は結果によってついてくるものだと思う。まずは個人というよりも、チームが優勝することを第一に考えたんです」
 と、権田はスペイン戦に挑む前の心境を話した。

 スペイン対策としてメキシコ戦と同様に、ミーティングの中で細かい情報が知らされて、選手たちはそれをもとに話し合う。
「左のCBは利き足が左利きだ。だから、プレスをかける際に相手の右足に持たせるように、相手の左側からプレスをかけるように動こう」
「右のCBがボールを持ったら無理にプレスに行く必要がないよね。その時は、『今は行くタイミングじゃない』と」
「前の選手がプレッシャーをかけない時は、ポジションにステイして待っているよ。逆に、相手の左のCBにプレスに行く時には、『ここだな』ってわかるから、そこははっきりさせよう」

 守備に関して、スペイン相手に選手たちの意思統一がはっきりとなされた。

 また、関塚は、プレスについて「相手は細かいパスを使うから、1回はがされても、次の選手は連続して追ってくれ」と指示を出す。

 さらに、相手のキーマンの名前を告げる。

「4番のボランチのハビ・マルティネスが中心になってビルドアップをしてくる。あそこからボールを回すから、ケイゴ(東)と永井で4番を潰してくれ。そうしたら相手はなかなか前にボールを運べないから」

 東と永井の2人で、スペインの起点となるハビ・マルティネスをタイミングを見て交互にケアするように話した。

 試合前、権田は「あまり、緊張感を感じていなくて。このチームで戦える、という気持ちが強かった。純粋に世界大会で結果を残したいと思った」と述べる。

 同様に永井も「スペイン戦の前は、緊張よりもやってやろう、という雰囲気がチーム全体にありました。予選突破は絶対にしたいと個人的には思っていた。だから、結果にはすごくこだわった。

初戦のスペインに勝って勢いに乗る。その中で、自分の特長がどれだけ活きるかを試したかった。守備に対するはめかたも意識が共有されていたので、みんなには自信も生まれてきた。スペインはボールを繋ぐのが上手いだろうし、守備もめっちゃハードにくるだろうと予測できたけど、でも、試合前から失点する気はまったくしなかったんです。

日本の守備もコンパクトにして、みんなで動いて、いい距離で連動して、ボールを奪ったらみんなでカウンターに行く、という意思統一があったので、相手がスペインだろうが特別に怖いという印象はなかった」
 と、語った。

 スペイン戦を数分後に控えたロッカールームで、関塚は、選手たちに気合を注入する。
「ここは目指していた舞台だ。全員が流動して動いて躍動感のあるサッカーをしよう!」
 と、言って関塚は選手たちをピッチに送り出した。

【BACK NUMBER】
●Episode 11 吉田麻也がチームの中で真のリーダーとなった瞬間
●Episode 10 ノッティンガムのホテルの一室で話し合われたこと
●Episode 9 スペインとの戦いを1週間後に控えて
●Episode 8 吉田麻也の冷静な指摘
●Episode 7 「まず、縦を切れ!」と選手に伝えた監督の守備戦術
●Episode 6 メンバーに選ばれた永井謙佑の重責
●Episode 5 最終選考メンバー発表の明暗
●Episode 4 キャプテン山村和也という存在
●Episode 3 チームの雰囲気を一変させた選手だけのミーティング
●Episode 2 攻撃側の選手と守備側の選手の乖離
●Episode 1 不協和音はロッカールームから始まった

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