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Jリーグアジア展開の「今」/アジア各国でのJクラブの活動に迫る

2015.07.21

文=アジアサッカー研究所/四方

2015年が始まり、早1ヶ月半。アジアカップでは日本代表の19年ぶりのベスト8敗退が決まり、U-19以下の育成年代同様にアジアでの苦戦が続いている。

そんな中、Jリーグは日本国内市場のテコ入れのみならず、海外、特に東南アジアを中心としたアジア全般のマーケットを広げていこうと活動を広げている。英国プレミアリーグの放映権ビジネスを見てみると分かりやすいが、日本のJリーグの放映権が年間で50億円にしか過ぎないのに対し、プレミアリーグは全世界で3年間で7000億円という桁違いの規模となっている。その中でアジア各国からは約1800億円、年間にして600億円に近い金額がアジアから吸い上げられ、欧州へ送られていることになる。東南アジアに行ったことがあるサッカーファンならイメージできると思うが、街中を行き交う男性でプレミアリーグのクラブのユニフォームを着ている人は多い。多くのサッカーファンは国内リーグに目を向けず、プレミアリーグを筆頭に欧州リーグを視聴している。

そのような状況では各国の自国サッカー文化の醸成、各国代表の強化には繋がらず、日本代表を取り巻くアジア近隣諸国のレベルアップは期待できない。日本には自国代表の強化へと繋げるために、まずは真剣勝負で対戦する可能性が高いアジア諸国の強化を行いたいという狙いがある。であれば、日本からアジア各国へ育成や強化、リーグ・クラブ運営のノウハウを提供し、アジア全体をレベルアップさせよう、という動きが日増しに強くなってきている。

また、Jリーグというコンテンツをアジア各国へ提供し、アジアにおけるプレミアリーグ化を狙い、その放映権を日本に還元させたいという狙いがある。さらには経済状況でホットになってきているアジア市場に打って出たい企業に対し、東南アジア随一の人気コンテンツであるサッカーを通じてアプローチを促しているJリーグクラブも多く出ている。これは通常のビジネスの中での冷たい関係性では、直接海外企業の門を叩けない企業に対し、サッカーという一種のホットな媒体を通じてコミュニケーションを図るものである。これにより、今までJリーグクラブに関心が薄かった企業が新たにスポンサーに加わったり、スポンサーメリットを見出せずに支援を止めようとしていた企業がクラブスポンサーを継続するという事例が生まれてきている。

このような形で、今まで欧州に流れ出てしまっていたマネーや、日本国内のビジネス界から出てこなかったマネーをアジアのサッカーに流れ込ませ、それを上記のように循環させることにより、アジア全体のレベルアップとリーグ・クラブの繁栄につなげていくというのが「Jリーグアジア展開」の全体像だ。

上記のような「成功事例」が生まれ始めているJリーグや各クラブだが、アジアと言っても国ごとにまったくその発展のステージが異なるのと同様に、Jリーグアジア展開の取り組みもその国々でステージが異なる。本稿では東南アジアを中心にホットなステージからカテゴリー順に紹介をしていく。

第1カテゴリー <タイ・ベトナム・インドネシア>

何と言っても、Jリーグのアジア展開の中で一番実績があるのはタイだ。現地タイプレミアリーグクラブと提携しているJリーグクラブだけでも、セレッソ大阪、横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸と名前がすぐに挙がってくる。それぞれスポンサー関係のイベントも多く見受けられる。セレッソのメインスポンサーであるヤンマーによる農業地区での農業機械のプロモーションや、最近ではF・マリノスがANAのイベントに限らず、ジヤトコ社やバイザー社といったアジアスポンサーという新たな協賛枠を設けて現地でマーケティング活動などを支援している。また、大宮アルディージャや横浜FCが現地でのサッカースクールを行っている。スポンサー関係のみならず、JFAとJリーグとの三者協力となっている国際交流基金の存在も大きい。

次に大手広告代理店・電通が大きく力を入れているベトナム。代表チームには大手二輪自動車メーカーのホンダ、リーグの冠スポンサーには今シーズンからトヨタがついている。代表監督にはJリーグでの指揮経験もある三浦俊也氏が就任し、Vリーグのトップにも日本人が就いており、日本との関係は日増しに強くなってきている。また、Jクラブもビンズオン市の都市開発に絡む東急グループが、そのスポンサー先である川崎フロンターレを活用し、ビンズオンのクラブとの交流試合を行い、良い日越関係を構築に役立てている。今年からはサンフレッチェ広島もベトナムのロンアン市でキャンプを張り、現地クラブと試合を組んだ。ピッチ上だけではなく、ビジネスや国際交流など多角的な提携を模索している。つい先日はヤンマーのベトナム進出の話も浮上した。

最後は2億人を超える、アジア最大のマーケットを抱えるインドネシア。いち早く大きなイベントを行ったという意味では、1月にガンバ大阪が首都ジャカルタにて親善試合を行った。親会社であるパナソニックが主体となって「Panasonic Cup 2015」と銘打たれたこの大会は、スカパー!などが出資する現地向けの日本コンテンツテレビ局「Wakuwaku Japan」の開局1周年の記念イベントともなった。推定2万人超を集めたこの試合は、東南アジアで行われたJリーグチームの興行試合としては過去最大のものとなり、現地メディアでも取り上げられ、Jリーグやクラブ、スポンサーの認知度向上に一役買った形となった。ジュビロ磐田や大宮アルディージャもインドネシアでの活動には興味を示しており、他のJクラブもこの大きな市場に強く関心を持っていると推測される。

また、昨シーズンはベトナムの英雄レ・コン・ビンがコンサドーレ札幌に移籍をしたり、ヴァンフォーレ甲府にインドネシア人選手が移籍したりと東南アジアの選手を獲得して、現地での知名度アップ、来訪者数アップなどの施策も取られており、今後もこのような動きには注目である。しかしながら、たとえJ2であってもリーグ戦出場にはハードルが高かったのと同時に、J2以下の場合は特に、東南アジアのリーグの方が給料が高いため、Jリーグ移籍への障害も存在している。

しかし、いずれにしても、今季もこの第1カテゴリーの国々でのJリーグクラブの活動が最も多く、大きなインパクトを残すと推測される。

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第2カテゴリー <カンボジア・ミャンマー・ラオス>

東南アジアのメコン地区というとこの3カ国が挙げられる。第1カテゴリーと比べると市場規模、経済ステージとしてもまだまだ小さいが、逆に今後の伸びしろとして期待される国々でもある。物価が安いこともあり、大きな金銭的成果を望むというよりは、何かのとっかかりを掴む位置付けや国際協力やCSRの位置付けで活動されているケースが多い。

カンボジアではアルビレックス新潟が現地でチームを創設し、昨シーズンから1部リーグに参入。急遽参戦したこともありリーグ戦では苦戦を強いられたものの、なんとか1部残留を決めた。首都プノンペンの富裕層の生活を一変させたイオンモールが昨年オープンし、イオンがアルビレックスのメインスポンサーとなった。一方、同じく日系クラブチームで、横浜F・マリノスと提携関係にあったトライアジア・プノンペンFCは親会社の業績不振に伴い、解散の危機にあったが、新たに名乗り出た日本企業によって来期の活動が継続されることになった。しかしながら、両チームともに安定したクラブ運営を行うためのスポンサー企業を獲得することが目下の課題である。

ミャンマーでは、セレッソ大阪がスポンサーの冠イベント「ヤンマーカップ」に出場し、現地にてミャンマー代表チームと対戦して勝利を収めた。同時に現地ではサッカースクールも行われた。主催は日本財団となっており、国際協力のカラーも強い。ラオスでも、ヴァンフォーレ甲府や大宮アルディージャがサッカースクールを行うなど活動が増え始めている。

これら第2カテゴリーの国では、規模は大きくないものの、各クラブの施策のエントリー的な活動や、国際協力文脈の活動が増えてくると思われる。

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第3カテゴリー <シンガポール・マレーシア>

マレー半島に位置するこの2カ国はJリーグアジア展開の活動の中では「ポテンヒット」的な存在といえよう。

アジア随一の経済力を誇りながら、国内リーグは閑古鳥状態のシンガポール。2013年にJリーグとSリーグの提携を行ったものの、目立った活動がない。一度国内サッカーにビジネス的な火がつけばその経済インパクトは他の国の比ではないだろう。20年前のJリーグ開幕のころのような強いリーダーシップによる牽引力が必要されているが、そこにJリーグが貢献できるチャンスがあるのではないかと当研究所は考えている。Jリーグアジア展開において、主役となるであろう日系企業の東南アジア地域統括会社の拠点となっていることもあり、Jリーグの東南アジア拠点がおかれる可能性も高い。日本代表のブラジル戦のような興行的イベントが今後も行われる可能性は高いが、どこまでローカルリーグやJリーグクラブの活動ができるかは簡単な謎解きとはならなそうだ。

今年初めにようやくJリーグと提携を行ったマレーシアは、まさにまだあまり手がつけられてない国と言えよう。昨年後半にコンサドーレ札幌のGMがマレーシアのクラブチームを訪れ、提携を模索している。3000万人という中間的な人口サイズではあるが、首都クアラルンプールを中心にかなり英語が通じる国でもあり、今後も何かをキッカケにヒットが産まれる可能性は否定できない。

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第4カテゴリー <中国・香港・台湾>

次は中国の各エリアをひとつにまとめたカテゴリー。「大陸」中国本体では、ACLを中心にサッカー人気が高まり、一部では「不動産リーグ」と揶揄されているものの、広州恒大に代表されるような不動産系企業が所有するビッグクラブが多数存在する。Jリーグとしても、人口が多く、日本との距離が近くつながりが最も多いこの中国との関係性を強めたいとは考えてはいるものの、逆にそのインパクトは大きすぎて、敢えて後回しにしているよういう意味合いが強い。当然ながら、両国の国民感情が双方に良くないことも影響しているだろう。

一方、独立行政地区である香港にはすでに「横浜FC香港」が現地リーグ入りを果たしている。名称はすでに変更になったが、日本の横浜FCのメインスポンサーであるLEOCが引き続きスポンサーを務めており、クラブレベルでは中国よりは関係が深いと言える。ビジネス界と同様、中国マーケットの玄関口として香港を活用するという手は考えられる。

サッカー不毛の地と言われる台湾、プロサッカーリーグは存在しない。しかしながら、草の根の活動として年々、着実に競技人口を増やしている。2009年にはじめて開催されたYAMAHA CUP(当時は5人制。24チームが参加)は、今年で6年目を迎え、参加は171チームと増加。青少年の公式戦の場となる同大会を継続して支援しているヤマハ社が台湾サッカーの発展に寄与している。大会は台湾を4つの地域に分けて行われる予選大会を勝ち抜いた各地域の代表が決勝ラウンドに進む。決勝ラウンド当日は、大会だけでなく、ヤマハが所有するJクラブであるジュビロ磐田のコーチと選手によるサッカークリニックも開催されていた。

このカテゴリーにおいては今後、香港・台湾を含めた大中華圏全体を視野に入れた活動が望まれる。

第5カテゴリー <インド・フィリピン・豪州>

中華圏よりもさらにハードルが高く、現在のところ結びつきも弱いという意味での第5カテゴリー。しかし、インドは人口13億人を超える超巨大マーケット、フィリピンも1億人に迫り東南アジアでは大きい市場、そして人口こそ少ないものの、一人当たりGDPでは日本を軽く凌駕する経済大国の豪州。具体的な動きは見えてないが、経済界においてもこの3カ国の存在は非常に大きい。

しかしながら、インドはクリケット、フィリピンはバスケットボール、豪州はラグビー、と他のスポーツが圧倒的な人気を誇り、サッカーでマーケティングをするというアイディアはすぐには適用し難い。一方、豪州ではAリーグ創設やアジアカップの主催国として徐々にサッカー人気が高まっていたり、インドでは国際的スポーツマーケティング会社のIMGの主導により、昨年からインドスーパーリーグという通常のリーグ戦(Iリーグ)とは別のリーグがスタートし興行的な成功を掴みつつある。

豪州はサッカー界の政治的にアジアから追い出されてしまう可能性のあったり、インドでは2つのリーグが存在するというFIFAに睨まれるようなリスクがあるが、これらが解決し、日本との関連性で何らかの突破口があれば一気にその勢いを増す可能性は否定できない。また3カ国ともに英語圏であることも忘れてはならない。

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第6カテゴリー <イラン・カタール・UAE>

未知の領域、第6カテゴリーは中東。サッカーの世界でもビジネスの世界でも中東としっかりとした関係を作れているのは非常にレアである。オイルマネーからの経済発展により、マーケットとしての魅力を日増しに高めている中東。すでに国際ハブ都市の仲間入りをしているドバイを持つUAEはFIFAクラブW杯の開催国も経験している。またカタールが2022年のFIFAW杯を開催するのはもは周知の事実だ。

しかし、東西に幅広いAFCアジアサッカー連盟の国々の中で最も東に位置する日本と、最も西に位置する中東の国々。その文化の違いも含めて相互理解にはまだまだ時間がかかると言える。また、ビジネス同様、いつまでオイルマネーによる高いプレゼンスが継続するかも誰も保証できない。先日、Jリーグがイランのリーグとの提携を発表した。中東の中でも高いペルシャ人比率で構成されるイランとの提携が果たして他の中東にどこまで影響していけるのかも注目される。

一方、当然ながら、今以上に経済発展が望まれる東南アジアおよびインド、中国、中東などの新興国マーケットに対して、Jリーグが目をつけているのと同様、欧州もその手を緩めることはない。さらには新興リーグである米国MLSがいつアジアに関心を持つかもわからない。

歴史は繰り返すのかーーー。欧米列強からのを解放独立を目指し、敗れた70年前の記憶。日本の独りよがりの「展開」ではなく、本当の意味でアジアの人たちの、アジアのサッカー全体のことを考えてアクションを取ることが望まれる。果たして日本のフットボーラーたちは海を越えて活躍し、現地に貢献できるのか。ここでいうフットボーラーは選手だけではなく、フロントなども含めた全体のことを指している。彼ら/彼女らが最大限の力を発揮し、アジア各国との連携を深め、アジア全体の発展へとつなげていけるように、当研究所としては精一杯サポートをしていきたいと考えている。

文=アジアサッカー研究所/四方

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http://samurai-fc.asia/

By アジアサッカー研究所

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