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ゼロックス杯直前、北嶋と大谷が語る柏の強さの秘密「チームに流れる澄んだ空気」

2012.03.01
Jリーグサッカーキング 2012.2.3月号掲載

J1初優勝を成し遂げた柏レイソルの先頭には、いつも2人がいた。
チームキャプテンの北嶋秀朗とゲームキャプテンの大谷秀和。
太陽王に欠かすことのできない《魂》と《心臓》が待望の初対談。

J1王者としてゼロックス・スーパーカップに臨む柏の強さの秘密とは?
 


[文・インタビュー]=細江克弥 [写真]=鷹羽康博

優勝争いの重圧よりも厳しいプレッシャー
 
北嶋 タニとの対談って、初めてだね。
大谷 そうっすね。対談はないっすね。
 
初めてなんですか?
 
北嶋 そうなんですよ。チームキャプテンの俺と、ゲームキャプテンのタニなんで、(こういう機会が)もっとありそうなものなんですけどね。
大谷 確かに俺の対談相手って、同じポジションの選手ばかりなんですよ。クリさん(栗澤僚一)とかバラ(茨田陽生)とか。
北嶋 だよな。というわけで、今日はありがとうございます(笑)。

いえいえ、こちらこそ(笑)。では、まず読者の皆さんのためにこの状況を説明しておきますね。今日は12月10日。J1リーグ初優勝からちょうど1週間が経過し、FIFAクラブ・ワールドカップでオークランド・シティに勝利した2日後です。豊田市内にあるホテルの2階にある中華料理店で12時からの昼食前にお時間をいただき、お2人にお越しいただきました。というわけで、現在はクラブW杯の真っ最中なんですが、初めて参加する国際大会はいかがですか?

北嶋 周りにいる人たちが外国人ばっかりです(笑)。
大谷 普段とはいろいろなことが違いますね。メディアの対応もそうだし、ピッチへ出て行くタイミング、ロッカールームから出るタイミングもそう。
北嶋 あれは戸惑った。
大谷 スタメンとサブの選手で、ロッカールームから出ていくタイミングが違うんですよ。だから、慌ててみんなで円陣を組んだりして(笑)。

というと?

北嶋 サブの選手のほうが2分くらい早くロッカールームから出なきゃいけないんですよ。だから「早く出てください」みたいなアナウンスを受けるんです。それで出ていこうとしたら、「ちょっと待て! 円陣くらい組もうぜ!」、「確かにそうだな!」みたいになって(笑)。
大谷 ロッカーアウトも「あと○分!」と指示されるんですけど、「(スタメンとサブの)どっちよ?」ってね(笑)。
北嶋 試合前だから、ちょっとピリピリしてたしね。
大谷 そうそう。いつものリズムじゃないので、かなりバタバタしました。ペナントすら準備してなかったもん。

コイントスの際に、キャプテンが交換する小さな旗ですね。

大谷 はい。これはもう、オークランドの選手に本当に申し訳なかったですよ。相手のキャプテンが持っているのがパッと目に入ったので、チームの人にジェスチャーとアイコンタクトで「コレは?」って聞いたんです。そしたら、スタッフも「あっ!!」って(笑)。選手だけじゃなくチームとして初めての体験なので、そういうバタバタ感はありましたね。

結局、ペナントの交換は?

大谷 向こうも気付いて、交換せずにそのまま持って帰っちゃいました(笑)。だから今後、改めて何らかの形で交換したいと思ってます。
北嶋 まあ、チームっていうのはこうやって経験を積んで、成長していくんだと思いますよ。
大谷 そうっすね(笑)。
 

開催国王者として世界の強豪と対戦 [写真左]=兼子愼一郎
大谷はゲームキャプテンとしてチームを牽引した [写真右]=野口岳彦

いろいろな意味でまさに急成長の過程にある柏レイソルですが、チームを見ているとすごく単純な疑問が浮かびます。どうしてレイソルの選手たちは、高いモチベーションをずっと持ち続けられるんですか? 今年だけでなく、J2時代からずっとハイテンションを維持していますよね。単純にすごいと思うのですが。

北嶋 (ネルシーニョ)監督にあおられている部分は大きいですね。出ている選手は常にポジションを失う可能性があって、出ていない選手にはいつでもポジションを奪える可能性がある。そういう状況を監督が作っているので、試合に対するモチベーションじゃなくて、ポジション争いに対するモチベーションがずっと保たれている感じなんです。例えば、試合が土曜日なら、前日の金曜日に明日の試合に出られるかどうかがと分かる。だから、土曜日の試合に対するモチベーションはいつも新鮮というか。

なるほど。ただ、それでもポジション争いに一喜一憂する毎日を送っていると、今度はメンタル的な疲労が蓄積されるような気がします。例えば、出ている選手にとってはある程度保証されているほうが安心してプレーできますよね?

北嶋 疲れる?
大谷 ウチは《やるところ》と《やらないところ》がはっきりしているので、疲れはあまり感じないですね。普通は試合に向けてモチベーションを高めていくものだけど、ウチは試合に出るためのポジション争いに対するモチベーションのほうが高い。
北嶋 そう。だから、疲れるという感覚は全くないね。
大谷 そうなんですよね。むしろ充実感のほうが強い。
北嶋 うん、充実感。チームメートと競争できることを幸せに感じているし、純粋にみんなそれがうれしいんだと思う。

確かに、今シーズンのレイソルからは優勝へのプレッシャーのようなものがほとんど感じられませんでした。実際にはどうだったんですか?

北嶋 いや、そりゃあ、プレッシャーはありましたけどね(笑)。
大谷 何せ目に見えないので。

なるほど(笑)。

北嶋 でも、はっきり言って、タイトルが懸かっている試合のプレッシャーよりも、ネルシーニョ監督から受けるプレッシャーのほうが強いんですよ。優勝どうこうっていう前に、「監督に認められなきゃ」っていうプレッシャーのほうが怖い。さっきも言ったとおり、毎週金曜日に「俺、明日(試合に)出れる!」っていう状態なので。

スタメンは金曜日に発表されるんですか?

大谷 発表はされないんですけど、紅白戦をやって、セットプレーの練習に入った時に大体分かるんですよ。
北嶋 「明日、俺出れる~~!」みたいなね(笑)。ホントにそんな感じ。
大谷 ホントに優勝争いよりも、そっちのほうが気になる。
北嶋 そう。だから、優勝争いのプレッシャーを1週間ずっと受けるようなことがないんですよ。試合日だけでいい。それまでは違うプレッシャーと戦っているので。
大谷 しかも、監督はネガティブなことは一切言わないですもんね。
北嶋 そうだね。
大谷 それに、優勝争いよりも残留争いのほうがキツい。
北嶋 間違いない。
大谷 周りも注目してくれるし、メディアはいろいろな選手を表に出してくれるし、すごくポジティブ。それに比べて残留争いって、すごくネガティブ。書かれることはいつも暗いし(笑)。
北嶋 あるね、それ(笑)。
 
4-2-2-2と4-4-2の融合
 
選手に勝因や今シーズンのチームの強さについて聞くと、ほとんど同じ答えが返ってきます。例えば「ポジション争いの激しさ」とか「チームの一体感」とか。それって、チームの一体感を象徴していると思うのですが、いかがですか?

北嶋 澄んだ空気なんですよ。チーム全体を見渡しても澱んだところがない。それは監督が作った雰囲気でもあるんですけど、選手もすごく純粋に、しっかり取り組めていた。監督の要求に応えようとする選手の姿勢は、俺は本当にいいと思います。

開幕戦で清水エスパルスに3-0で完勝しました。一年を振り返ると、あの勝利が持つ意味は大きかったと思います。

大谷 J2でつかんだ自信はありましたけど、実際(J1で)どのくらいできるのかは未知の状態でした。スタートが大事だと思っていたら、開幕戦ですごくいい手応えを感じることができた。それから震災による中断がありましたが、あの勝利があったから、中断期間もしっかり過ごせました。

清水と言えば、J2降格が決まった09年第31節での対戦が思い出されます。あの試合、レイソルは負ければ降格決定という状況にもかかわらず5-0で完勝しました。当時、ネルシーニョ監督はあの試合の内容をかなり褒めたそうですね。

大谷 あの試合の映像は何回も見せられましたね。
北嶋 何回も見たね。監督が「これが俺たちのスタンダードだ!」ってね。
大谷 「DVDに焼いて大切に取っておく」って言ってましたよね(笑)。
北嶋 そうそう。でも、最後は俺がゴール裏の看板に引っかかってコケるシーンで終わる。それがオチになってるので、監督に申し訳なくてさ(笑)。
大谷 30分くらいに編集してある映像なんですけど、ずっと無音なんですよ。だからみんながシーンとした状態で映像を見ていると、最後に必ずキタジさんがコケる(笑)。
北嶋 完全にオチ。
大谷 キタジさんがコケたのを確認して、「はい、ミーティング終了」みたいな(笑)。2010年は本当にあの映像ばっかり見せられました。

じゃあ、選手たちにも「スタンダード」の意識が浸透しているのですね。

大谷 間違いないですね。今年で言えば、アウェーのアルビレックス新潟戦(第11節/5月14日)。戦術的にかなり良かったということで、シーズン終盤に見せられました。
 

日々、J屈指の激しいポジション争いが繰り広げられているレイソル [写真左]=新井賢一
それでも北嶋は「チームメートと競争できることに幸せを感じている」と語る [写真右]=野口岳彦

なるほど。実際に、優勝を意識するようになったのはいつ頃ですか?

北嶋 夏以降かな。監督が言い出したのはそのくらいからだよね。
大谷 そうそう。監督が「優勝」って言い始めてからですね、意識したのは。

具体的には、初めて監督が口にしたのはいつなんでしょう?

北嶋 負けた試合の後だった気がする。
大谷 そうでしたっけ?
北嶋 うん、そう。ちょっと意外なタイミングだったのは覚えてる。

夏場は少し苦しんだ時期でした。勝ったり負けたり、結果が不安定な時期でしたが、苦しさはありましたか?

北嶋 いや、そうでもなかったですよ。負けた試合はシステムが違ったりして、それがうまくいかなかったことも要因だった。だから重い雰囲気にはならなかったですね。

監督は4-2-2-2システムにこだわりを持っていたそうですね。

大谷 はい。僕たちがあのシステムの良さをうまく引き出せなかったんですよ。特に守備のところで。

4-4-2との具体的な違いとしては、中盤のサイドのスペースの空け方ということになりますか?

大谷 そうですね。本当はそのスペースに相手を誘い込んでボールを奪いたい。でもJ2と違い、J1はサイドバックのレベルが高い。だから、どうしてもうまくボールを運ばれたり、起点としてそのスペースを活用されてしまうんです。やっている僕らとしては、最後までその対応がうまくいかなかったというか。
北嶋 あれはホントに難しかった。でも、J2ではあのシステムで勝ってきたから、そこはJ1とJ2の違いを感じたところだよね。やっぱり、あそこでフリーにさせたらダメなんだって。
大谷 やっぱりJ1には、あのポジションにも視野が広くて縦に運べる選手がいるんですよね。だから、スピードに乗って突っ込んでくる相手のサイドバックに対して、ウチのサイドバックが一対一で勝負しないといけなくなる。そこで少し修正し切れない部分があったというか。
北嶋 やっぱり、J1は違う。
大谷 その対処法を自分たちで見つけられなかったというのが、あのシステムが機能しなかった原因だと思うんです。
北嶋 ただ、あれができたら大きな武器になるんだよね。セカンドボールを拾いやすいし、カウンターを発動しやすい。
大谷 攻撃の選手の守備の負担も減りますしね。ウチにとって、すごくいいシステムであることは間違いない。
北嶋 そこを選手たちの力でうまく引き出せなかったのはもったいなかったね。

ただ、最終的にはレアンドロ・ドミンゲス選手とジョルジ・ワグネル選手が中央に絞ることで空く外のスペースを使う攻撃が非常によく機能しました。つまり4-4-2と4-2-2-2を合体させたようなシステムが完成した気がします。

北嶋 そうなんですよ。
大谷 ホントにそう。でも、必然的にそうなるんですよね。例えば守備の時、レアンドロが中央でボールを奪われてサイドに起点を作られたら、ボランチが遅らせたり、カバーに入る。そういう動きが自然にできるのって、4-2-2-2にトライしたからだと思うんですよ。
北嶋 今は本当にうまく使えてると思うよね。2つのシステムが融合した感じというか。ニーやん(レアンドロの愛称)とジョルジは守備の時には相手のサイドバックを見て、攻撃の時は中に絞る。それが自然な感じでできるようになった。
大谷 そうですね。状況に応じて対応できるっていうんですかね。最初から「今日は4-2-2-2」って言われると、それが頭に残り過ぎちゃって、おかしなことになる。でも、そうじゃなければ臨機応変に対応できる。
北嶋 だから今はホントにいい状態だよね。あの時期があったから、今がある。

後編へ続く
 Jリーグサッカーキング 4月号
▼[巻頭スペシャル対談]中山雅史×河合竜二 
▼[赤黒が誇る至宝]宮澤裕樹×古田寛幸 
▼[戸塚啓の取材ノートの記憶]石崎信弘(札幌監督)
▼[クエスチョン50]山本真希&髙柳一誠
▼[激動の15年]“プロヴィンチャ”としての新たな挑戦
▼選手コラム最終回特別インタビュー
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