J1王者としてゼロックス・スーパーカップに臨む柏の強さの秘密とは?
[文・インタビュー]=細江克弥 [写真]=鷹羽康博
優勝争いの重圧よりも厳しいプレッシャー
いえいえ、こちらこそ(笑)。では、まず読者の皆さんのためにこの状況を説明しておきますね。今日は12月10日。J1リーグ初優勝からちょうど1週間が経過し、FIFAクラブ・ワールドカップでオークランド・シティに勝利した2日後です。豊田市内にあるホテルの2階にある中華料理店で12時からの昼食前にお時間をいただき、お2人にお越しいただきました。というわけで、現在はクラブW杯の真っ最中なんですが、初めて参加する国際大会はいかがですか?
北嶋 周りにいる人たちが外国人ばっかりです(笑)。
というと?
北嶋 サブの選手のほうが2分くらい早くロッカールームから出なきゃいけないんですよ。だから「早く出てください」みたいなアナウンスを受けるんです。それで出ていこうとしたら、「ちょっと待て! 円陣くらい組もうぜ!」、「確かにそうだな!」みたいになって(笑)。
コイントスの際に、キャプテンが交換する小さな旗ですね。
大谷 はい。これはもう、オークランドの選手に本当に申し訳なかったですよ。相手のキャプテンが持っているのがパッと目に入ったので、チームの人にジェスチャーとアイコンタクトで「コレは?」って聞いたんです。そしたら、スタッフも「あっ!!」って(笑)。選手だけじゃなくチームとして初めての体験なので、そういうバタバタ感はありましたね。
結局、ペナントの交換は?
大谷 向こうも気付いて、交換せずにそのまま持って帰っちゃいました(笑)。だから今後、改めて何らかの形で交換したいと思ってます。
いろいろな意味でまさに急成長の過程にある柏レイソルですが、チームを見ているとすごく単純な疑問が浮かびます。どうしてレイソルの選手たちは、高いモチベーションをずっと持ち続けられるんですか? 今年だけでなく、J2時代からずっとハイテンションを維持していますよね。単純にすごいと思うのですが。
北嶋 (ネルシーニョ)監督にあおられている部分は大きいですね。出ている選手は常にポジションを失う可能性があって、出ていない選手にはいつでもポジションを奪える可能性がある。そういう状況を監督が作っているので、試合に対するモチベーションじゃなくて、ポジション争いに対するモチベーションがずっと保たれている感じなんです。例えば、試合が土曜日なら、前日の金曜日に明日の試合に出られるかどうかがと分かる。だから、土曜日の試合に対するモチベーションはいつも新鮮というか。
なるほど。ただ、それでもポジション争いに一喜一憂する毎日を送っていると、今度はメンタル的な疲労が蓄積されるような気がします。例えば、出ている選手にとってはある程度保証されているほうが安心してプレーできますよね?
北嶋 疲れる?
確かに、今シーズンのレイソルからは優勝へのプレッシャーのようなものがほとんど感じられませんでした。実際にはどうだったんですか?
北嶋 いや、そりゃあ、プレッシャーはありましたけどね(笑)。
なるほど(笑)。
北嶋 でも、はっきり言って、タイトルが懸かっている試合のプレッシャーよりも、ネルシーニョ監督から受けるプレッシャーのほうが強いんですよ。優勝どうこうっていう前に、「監督に認められなきゃ」っていうプレッシャーのほうが怖い。さっきも言ったとおり、毎週金曜日に「俺、明日(試合に)出れる!」っていう状態なので。
スタメンは金曜日に発表されるんですか?
大谷 発表はされないんですけど、紅白戦をやって、セットプレーの練習に入った時に大体分かるんですよ。
北嶋 澄んだ空気なんですよ。チーム全体を見渡しても澱んだところがない。それは監督が作った雰囲気でもあるんですけど、選手もすごく純粋に、しっかり取り組めていた。監督の要求に応えようとする選手の姿勢は、俺は本当にいいと思います。
開幕戦で清水エスパルスに3-0で完勝しました。一年を振り返ると、あの勝利が持つ意味は大きかったと思います。
大谷 J2でつかんだ自信はありましたけど、実際(J1で)どのくらいできるのかは未知の状態でした。スタートが大事だと思っていたら、開幕戦ですごくいい手応えを感じることができた。それから震災による中断がありましたが、あの勝利があったから、中断期間もしっかり過ごせました。
清水と言えば、J2降格が決まった09年第31節での対戦が思い出されます。あの試合、レイソルは負ければ降格決定という状況にもかかわらず5-0で完勝しました。当時、ネルシーニョ監督はあの試合の内容をかなり褒めたそうですね。
大谷 あの試合の映像は何回も見せられましたね。
じゃあ、選手たちにも「スタンダード」の意識が浸透しているのですね。
大谷 間違いないですね。今年で言えば、アウェーのアルビレックス新潟戦(第11節/5月14日)。戦術的にかなり良かったということで、シーズン終盤に見せられました。
なるほど。実際に、優勝を意識するようになったのはいつ頃ですか?
北嶋 夏以降かな。監督が言い出したのはそのくらいからだよね。
具体的には、初めて監督が口にしたのはいつなんでしょう?
北嶋 負けた試合の後だった気がする。
夏場は少し苦しんだ時期でした。勝ったり負けたり、結果が不安定な時期でしたが、苦しさはありましたか?
北嶋 いや、そうでもなかったですよ。負けた試合はシステムが違ったりして、それがうまくいかなかったことも要因だった。だから重い雰囲気にはならなかったですね。
監督は4-2-2-2システムにこだわりを持っていたそうですね。
大谷 はい。僕たちがあのシステムの良さをうまく引き出せなかったんですよ。特に守備のところで。
4-4-2との具体的な違いとしては、中盤のサイドのスペースの空け方ということになりますか?
大谷 そうですね。本当はそのスペースに相手を誘い込んでボールを奪いたい。でもJ2と違い、J1はサイドバックのレベルが高い。だから、どうしてもうまくボールを運ばれたり、起点としてそのスペースを活用されてしまうんです。やっている僕らとしては、最後までその対応がうまくいかなかったというか。
ただ、最終的にはレアンドロ・ドミンゲス選手とジョルジ・ワグネル選手が中央に絞ることで空く外のスペースを使う攻撃が非常によく機能しました。つまり4-4-2と4-2-2-2を合体させたようなシステムが完成した気がします。
北嶋 そうなんですよ。
後編へ続く
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