[ワールドサッカーキング 2012.06.07(No.216)掲載]
ついに自信に溢れたフェルナンド・トーレスが戻って来た。バルセロナ戦での値千金のゴールをきっかけに復調し、移籍後初のハットトリックを記録。チームもFAカップを制した。最高のフィナーレへ、締めくくりは悲願のビッグイヤー獲得だ。
2カ月前にインタビューを行った時点で、フェルナンド・トーレスはまだ暗いトンネルの中にいた。プレミアリーグでは5カ月間もノーゴールが続き、3月上旬時点でのゴール数はわずか2。現地メディアからはチーム不振の象徴として批判されていた。
その時のインタビューでトーレスはこう語っている。「恐らく“自信”の問題だろう。今の僕には99じゃなくて100パーセントの自信が必要なんだ」
その彼に自信回復のきっかけが訪れたのは、チャンピオンズリーグ(以下CL)準決勝のバルセロナ戦、セカンドレグの後半ロスタイムだった。逆転勝利を狙うバルサの猛攻をチェルシーが耐える展開の中、突然にしてカウンターのチャンスが生まれる。無人の敵陣をドリブルで駆け抜けたトーレスは、鮮やかとは言えないまでも確実なステップで相手GKをかわしゴールを決めたのだ。
最強王者バルサ撃破とCL決勝進出を決めるゴールは、トーレスが自信を回復させるに十分な一撃だった。バルサ戦の5日後、プレミアリーグのQPR戦ではハットトリックを記録。来るべきCL決勝について、トーレスが自信たっぷりに語ってくれた。
今回こそ優勝だと強く願っている
まず最初に、CL決勝戦を数日後に控えた今の気持ちを聞かせてもらおうかな。
トーレス この大会で優勝するのが少年時代からの夢だった。今はあと一歩のところまで来て、“静かな興奮”の中にいるって感じだね。子供の頃から、ワールドカップ(以下W杯)とCLを制するのが夢だったけど、当時のスペイン代表は成績が悪かったこともあって、具体的に頭に思い描いていたのはいつもCL制覇のほうだった。不可能だと決めつけていたW杯を先に手にしたのはちょっと不思議な感じだったけど、CL制覇を果たすことができたら、僕のキャリアの中でも最高の瞬間になる。
この数年、チェルシーは何度もタイトルに手が届きそうで届かないシーンが続いている。良い例がPK戦でマンチェスター・ユナイテッドに敗れたモスクワでの夜だ。
トーレス そうなんだよ。当時のメンバー全員があの時の悔しい思いを忘れていない。(ロマン)アブラモヴィッチ・オーナーも、顔には出さないけど、ビッグイヤーへの野心を強く持っている。僕も同じさ。スタンフォード・ブリッジに関わる全員が「今回こそ優勝だ!」と強く願っている。その意味では一心同体なんだ。
もっとも、意地の悪い批評家たちは「チェルシーは年寄り軍団で、今回の決勝戦はチームがバラバラになる前の最後の花火」なんて記事を書いている。それについて反論はある?
トーレス お好きなように。そんなくだらない記事を相手にする気にはなれないね。ウチは確かに若いチームじゃない。今シーズンも苦労した。でも、「だから何?」って言いたいね。僕たちはFAカップを取った。そして、世界で最も重要な大会のファイナルに駒を進めているんだよ。
では、今シーズンの君の出来を振り返ってもらえるかな。
トーレス シーズン序盤はまずまずのスタートを切ることができた。チェルシーのプレシーズンキャンプに参加したのは初めてだったけど、そこで良い練習ができて、コンディションが上がっているのを実感していたよ。(アンドレ)ヴィラス・ボアス監督の下で、ゴールもいくつか決めた。ところが、例の愚かなレッドカード事件(編集部注:昨年9月24日のスウォンジー戦、不用意なラフプレーで退場となった)のせいで僕は出番を失ってしまった。(ディディエ)ドログバのおかげでチームは救われたけど、僕は次のゴールを決めるまでにかなりの時間を待つことになってしまったんだ。
君が復調したのは、監督がロベルト・ディ・マッテオに代わってからだったね。
トーレス 結果的にはね。
監督交代後のレスター戦で2点、QPR戦でハットトリック。CLのバルサ戦でも貴重なゴールを決めた。自分に点数をつけるなら?
トーレス まだ重要なファイナルを残しているから、点数はつけられないよ。でも、100点というわけにはいかないのは確かだね。
何と言われようと勝つ手段を選択した
バルサ戦でゴールを決めた直後のQPR戦でハットトリック。バルサ戦でのゴールがスランプ脱出のカギになったのでは?
トーレス そうなることを願うよ。まあ、ゴールを決めて気分が良かったのは確かだね(笑)。
あのゴールを振り返ると?
トーレス GKと一対一になった時点で「絶対に決めなきゃいけない」と感じたよ。バルサのペースだった試合の流れが変わったのは、僕らが何かをしたと言うより、バルサが決定機を逃し続けたからだ。(リオネル)メッシのPK失敗で僕たちは自分たちにツキがあると感じ、勝利を信じられるようになった。でも逆に、あのチャンスを僕が逃したら、たとえ残り時間がほとんどない状況でも、逆転されてしまうと思った。CLとはそういうもので、ほんのわずかな差が勝負を決するんだ。
それにしても、バルサ戦でのチェルシーはサッカーの魅力を完全に放棄したような戦いぶりだったよね。メディアは「チェルシーはアンチ・フットボールを貫いた」という論調が大半だ。
トーレス でも、それがサッカーだ。クオリティーの高いチームが常に勝つわけじゃない。次のステージに進めるのは優れたチームじゃなく、勝ったチームだ。この数年間、バルサは世界最高のチームとして君臨してきた。そんな相手をどうやったら倒せるのか。僕らはそのカギを発見したんだ。
そのカギというのは?
トーレス これまではどのチームも、「バルサに勝つには、彼らのパスワークを断ち切ってボールを奪えばいい」と考えた。ところが、そんなことは誰にもできなかった。ゲームのリズムを作るチャビと(アンドレス)イニエスタにまともな方法で立ち向かうのは無理な話さ。中盤でのプレス合戦に応じたら、振り回されて疲弊するばかり。そこに生まれたエアポケットを彼らは確実に狙ってくる。まるで冷静なスナイパーのようにね。そういうわけで、僕らは勝つための手段を選択した。メディアに何と言われようと構わないよ。僕らは勝ってファイナルに進みたかった。そして、目的を達成したんだ。
君はバルサ戦で抜群の成績を残しているけど、それを知っている?
トーレス うん。アトレティコ・マドリー時代にも何度かカンプ・ノウで勝利している。これまでのバルサ戦の成績は11試合で8得点。悪くない数字だよね。
今回、バルサを破って決勝進出を決めたことの意義を、君はどのように考えている?
トーレス 今シーズンは悪いことも少なからずあったけど、そのイメージを拭い去ることができた。僕らはプレミアリーグで不振に終わったから、来シーズンのCL出場権を手にするためにも、ここで勝つことは重要だったんだ。
バルサ戦の経験をミュンヘンで生かす
CL決勝の相手、バイエルンについての印象は? 彼らも今シーズンは国内リーグのタイトルを逃してしまった。バイエルンは君たち以上にモチベーションが高いはず。何せ、決勝の舞台は彼らのホームなんだからね。
トーレス それは大きなアドバンテージだね。でも、僕らはあのカンプ・ノウで戦った経験から学んだことをミュンヘンでも生かすよ。ロンドンから大勢のサポーターが応援に来てくれるのだから、みっともない試合はできない。
両チームの駆け引きも見どころだ。同じ4-2-3-1システムを採用するから、ポジションごとの優劣が明白に表れる。ペトル・チェフとマヌエル・ノイアー、ドログバとマリオ・ゴメス。果たしてどちらが優れているだろう?
トーレス バイエルンがレアル・マドリーとのPK戦を制したのは、ノイアーの働きが大きかった。だけど経験ではチェフが上だね。単純な比較はできないし、やったところで意味はないよ。だって、CL決勝戦のチームなんだから、選手のクオリティーはすべて世界トップレベルということだろう?
確かにそうだね。では、バイエルンで警戒すべき選手は誰?
トーレス 特に挙げることはできない。つまり、バイエルンは(フランク)リベリーと(アルイェン)ロッベンだけのチームじゃないってことさ。(バスティアン)シュヴァインシュタイガーもいれば、(トニ)クロースもいる。
君はさっき、CL決勝に進んだチームの選手は全員が世界トップレベルと言ったけど、チェルシーには出られない選手がいる。ジョン・テリーやラミレスらを出場停止で欠くことは、相当な戦力ダウンになってしまうのでは?
トーレス もちろん、それは否定しない。彼らはチェルシーにとって重要な選手だからね。とても大事な試合だし、何とかして一緒にプレーしたかったよ。ファイナルの舞台に立てるチャンスはなかなか巡ってこないものだ。彼らの無念はよく理解できる。だからこそ、彼らの分まで頑張るしかない。どの勝負でも100パーセントの状態で臨むのは難しいもの。とにかくベストを尽くすしかないね。
プレミアリーグではトップ4に届かなかった。これで来シーズンのCL出場は、ミュンヘンの決勝で勝つ以外になくなった。これは相当なプレッシャーだね。
トーレス チェルシーにとってCL出場権を失うことは“大災害”だ。でも、あまり考えないことにしているよ。僕らはリヴァプールを下して伝統のFAカップを制した。むしろ考えるのはそっちだよ。タイトル獲得の勢いのまま、ビッグイヤーを目指すんだ。
ワールドサッカーキング No.216
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