疾風のごとくドリブルで駆け抜けてゴールを奪う。
そんな姿が今も記憶に残る選手がいる。鹿島アントラーズ、背番号10。本山雅志。
その存在を大きく知らしめるようになったのは、日本サッカーが世界の頂点へあと一歩のところまで駆け上がった1999年のワールドユースだろう。
今、改めて本山が語る当時の記憶。そしてクラブで積んだ経験と成長。
「加入は正解だった」。そう語る本山が歩む歴史は、鹿島アントラーズとともにある。
インタビュー・文=青山知雄(本誌編集長)
写真=足立雅史
トップもサブも日々、真剣勝負! 練習や紅白戦から多くを得る
クラブ在籍14年目を迎えました。改めて加入の経緯を教えてください。
本山 自分を成長させるためにはアントラーズだと思ったんです。当時はジョルジーニョ(現監督)を始め、秋田(豊)さん、本田(泰人)さんといった日本代表経験を持つ選手たちがたくさんいる中で、試合に出られなくても成長できると思って。加入前に一度だけ練習に参加した時は、「厳しいな」と感じました。ちょうど優勝争いをしている頃で、雰囲気もピリピリしていました。正直「こんな雰囲気で何年もプレーができるかな」って思いましたね(笑)。
それでも加入を決意したんですね。
本山 自分を向上させるために覚悟を決めました。寮から練習場が近くて、クラブハウスもしっかりしている。サッカーに打ち込める環境だったんですよね。僕の故郷(北九州市)に似ている雰囲気も気に入りましたし。
実際に入ってみていかがでしたか?
本山 まず《プロ》について本田さんにいろいろと教わりました。具体的に言うと、試合に出ていなくてもチームのために戦うという気持ちですね。本田さんは同郷(北九州市)で厳しい先輩でしたが、すごく面倒見が良くて。僕に間違ったところがあると、すぐに正してくれました。怖かったですけどね(笑)。
クラブには伝統的に《ジーコイズム》があると言われています。
本山 ゴール前で落ち着くことは、ジーコから細かく言われましたね。GKとゴールをしっかりと見てシュートを打つことや、決してあきらめないこともそう。球離れの判断や切り替えが遅かったりすると、よく怒られてましたけど、何度も言われるうちに「早く」という意識になりました。今もそうですが、トップもサブも日々、真剣勝負。チーム練習や紅白戦から学ぶことはたくさんありましたよ。それに当時、先輩たちは「自由にやっていい」って言ってくれた。例えばドリブルを仕掛けた時に、取られた後のプレーについては言うけど、仕掛けることに対しては「行け、行け」って。
そういう先輩たちとの練習が自身の成長につながったと。
本山 代表選手はチームにいない時期も多かったですけど、そういった先輩と一緒に練習ができたことは大きかったですね。1999年のワールドユース(現U-20ワールドカップ)でも、すごく余裕を持ってプレーができましたし、成長しているという実感はありました。チームにいる代表クラスの先輩に追い付き、追い抜いていけば、世界への扉が開かれて行くんだなとも感じましたね。
アジアで戦うことではなく、世界で戦うことを意識していた
本山選手はアジアユース(現AFC U-19選手権)が初めての代表選出になりました。
本山 まあ、同世代はアジアより国内のほうがレベルが高かったですよね。だから当時はみんな《アジアで戦うこと》ではなく《世界で戦うこと》を意識していたし、U-19日本代表で試合に出るための競争が厳しかったです。
今、振り返って準優勝したワールドユースで得たものや感じたことは?
本山 気が抜けない試合が多かったことを覚えています。どんな試合でも同じですが、点を取れる時に取らないと、相手の時間になってしまう。それが国際試合では顕著に出る。それに試合中には必ず悪い流れの時間があるので、それをチームでどうしのぐかを勉強しました。
本山選手にとってワールドユースはどんな大会でしたか?
本山 同年代だけが参加する大会ですけど、多くの刺激をもらいました。チームメートからも遠征先や対戦相手、それからトルシエ(監督/当時)にも。今もどん欲に取り組んでいますけど、当時は最も吸収力があった時期だと思います。何よりいろいろなところに連れて行ってもらえたのは大きかった。周りのレベルが高かったんで、練習から刺激は強かったですしね。
世界と対峙した後、個人的に取り組んだり意識が変わったことはありますか?
本山 ボールの受け方とスペースを探すことですね。日本人はガツっと当たられると動けなくなったり、前を向けなかったりする。アントラーズの練習では秋田さんが厳しく当たってくるんです。それをかわして攻撃に転じるためにはどうするべきか。それは相手に寄せられる前にいいポジションを取れるかどうかなんですけど、そう考えて日々取り組んでいるうちに徐々にできるようになりました。そういう意味では世界を知る選手がいたのは大きかったですね。あと、日本人の特長の一つにスピードがあると思うんです。ターンの速さは抜けていると思いますから。個人的にはもちろんフィジカルを強くしたいって思いはありましたけど、そこはね(苦笑)。それよりは「判断の速さやスピードをレベルアップしたい」と思っていました。
ワールドユース後、チームではスーパーサブという時期が長かったです。
本山 やっぱりスタメンで出たかったですよ。ワールドユースで刺激を受けて海外挑戦も考えましたけど、アントラーズで試合に出ることが目標だったので、それを曲げられないという思いもありました。しっかりとシーズンを戦って優勝したいという気持ちがありましたから。
アントラーズは国内で15冠(8月1日に行われたスルガチャンピオンシップ制覇で16冠を達成)を達成していますが、本山選手が考える《勝負強さ》とは?
本山 勝たなきゃいけない試合で勝つこと。それに尽きますね。しっかりと相手のいいところを消して、自分たちのいいところを出す。それをチーム全体が共通認識として持てること。試合中には様々な時間帯があって、うまくいかない時間を乗り越えれば、必ず自分たちの時間が来る。そこを理解して我慢し、ゲームをコントロールできるかどうか。アントラーズは一発勝負で悔しい思いをすることがありますが、いかに勝ち切るサッカーをするのかが大事だと思う。
ゴールデンエイジ世代の本山選手には、そういう役割も求められてきます。
本山 僕はあんまり言葉に出すタイプじゃないから、「話がある」ってご飯を食べに行ったりすることはないですけどね。でも、試合や紅白戦では「今はチャレンジじゃなくてコントロールしたほうがいい」とか、声を掛けるようにはしてますよ。ピッチ外で何かを言うより、ピッチ内での言葉のほうが記憶に残るんで、一緒にプレーしながら「そうなんだ」って感じてもらえればいいかなって。
チームを盛り上げ、引き上げる。それができるのは僕だと思う
本山選手が考える《国際経験》とは?
本山 海外で勝つためには絶対に必要なものですかね。やはり日本のサッカーと他国のサッカーは違う。今の代表には国際経験を積んだ選手がたくさんいますし、そういう選手にもっと出てきてもらいたい。海外のチームや選手に勝つためには不可欠な要素だと思います。
アントラーズはチームにいながら国際経験を肌で感じられる環境だと思います。
本山 ジーコやジョルジーニョはもちろん、秋田さんや本田さんとか経験豊富で厳しい先輩がいましたからね(笑)。今はちょっと手探りな状況ですけど、監督が替わればサッカーも変わりますから。そこは僕たちの年代が下の世代へと、しっかり受け継いでいかなければならない部分ですね。
その中で本山選手が果たすべき役割をどのように考えていますか?
本山 最近は思うように試合には出られていないけど、それなら出ている選手を盛り上げて、出ていない選手のレベルを引き上げたい。それができるのは、試合になかなか出られない僕だと思う。そうすることでチームが乗っていければいい。僕は試合に出ていない経験も多いからこそ、出場機会の少ない選手を引き上げていかなきゃいけない。そういう精神力をアドバイスできるのは僕しかいないですから。若い選手たちからもらうものはたくさんあるので、そういうものを否定せずにしっかりと受け取って、吸収しながらもっともっと成長していきたいですね。
最後に聞かせてください。アントラーズに加入した判断は正解でしたか?
本山 もちろんです。世界に挑戦できなかったことは悔しかったですけど、もっともっと成長し続けたいですね。
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