[ワールドサッカーキング 1206号 掲載]
“ビッグ2”の支配力が増大し続けるリーガに
英国の専門誌『FourFourTwo』は警鐘を鳴らす。
優勝は2チームのどちらか。その他大勢は3位の座を競う。
そんな退屈なリーグを待ち受ける未来とは—。
文=サイモン・タボット
通訳=田島大
写真=Getty Images
ビッグ2の支配力がリーガの未来を脅かす
昨シーズン開幕直後、カンプ・ノウに乗り込んだオサスナがバルセロナに8ゴールを許して完敗した時、スペインの人々は誰も驚かなかった。バルサはラージョ・バジェカーノ戦でも7ゴールを決めたし、バルサの宿敵レアル・マドリーもオサスナから7ゴール、R・バジェカーノから6ゴールを決めた。その前のシーズンには、R・マドリーがアルメリア相手に8ゴールを挙げ、負けじとバルサもアルメリアから8ゴールを奪ってみせた。
昨シーズン限りでチームを去ったジョゼップ・グアルディオラ監督の時代、バルサにとって2番目に多かったスコアは「5−0」だった。1−0や2−1の勝利よりも、5−0で勝った試合のほうが多かったのだ。
一昨シーズン、R・マドリーに挑んだマラガは0−7で一蹴された。もちろん、この結果は少しも驚きではなかったが、試合後の記者会見で飛び出した発言は驚きだった。マラガのマヌエル・ペジェグリーニ監督(ジョゼ・モウリーニョの前にR・マドリーを率いていた)が、この試合を「捨てた」ことを明かしたのである。「これは我々のゲームではない」と彼は言った。「我々のゲームは週末にある」と。
R・マドリーとの試合はミッドウィークにあり、その週末にはオサスナ戦が控えていた。マラガは結局、指揮官が言うところの「我々のゲーム」にも負けたのだが、ペジェグリーニは痛烈な批判を浴びることになった。プロスポーツにおいて、勝てないからと言って試合を「捨てる」ことが許されるのか、という倫理的なテーマが持ち上がったのである。
そんな中、集中砲火を浴びるペジェグリーニに手を差し伸べた者もいた。レアル・サラゴサの元監督、ホセ・アウレリオ・ガイだ。「リーガの監督たちはみんな、ペジェグリーニと同じ考えだ。ただ、ペジェグリーニだけが正直者だったということさ」
R・マドリーとバルサという「ビッグ2」との試合では、対戦相手の監督たちはこう考える。どうせ負ける試合で、選手がケガをしたり、累積警告を増やすのは無駄なことだ、と。結果として、どのチームもメンバーを落として戦う傾向にあるとガイは主張した。「何か手を打たなければならない。それも、今すぐにだ」
ガイはわざと毒舌を吐いているわけでもないし、スペインの他のチームが弱すぎると非難しているわけでもない。リーガが「ビッグ2」だけの争いになっていることは事実だが、その理由が他のチームの弱さにあるわけではないのだ。元監督としてビッグ2と対戦した経験を持つ彼は(言うまでもなく、散々な目に遭った)、ビッグ2の強さを身をもって知っている。そして、その強さを純粋に褒めたたえている。
ガイが心配しているのは別の問題だ。そう、ビッグ2の強すぎる支配力が、やがてリーガそのものの未来を脅かすのではないか、ということである。
ほぼすべての試合で勝ってしまう
「Esta no es nuestra liga」
ビッグ2以外のクラブからよく聞かれる言葉だ。直訳すると、「これは我々のリーグではない」
R・マドリーやバルサは、同じリーガ・エスパニョーラに在籍しながら、実質的には2チームだけで別のリーグ戦を戦っているようなものだ、という意味である。
これに反論する者もいる。1999−00シーズンはデポルティーボが優勝し、2001−02シーズンと03−04シーズンにはバレンシアもリーグを制した。02−03シーズンにはR・ソシエダが、06−07シーズンにはセビージャが優勝していてもおかしくなかった。マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナル、マンチェスター・シティーの4クラブで覇権を独占しているプレミアリーグと何が違うのか、と。
答えは極めてシンプルだ。R・マドリーやバルサが優勝することが問題なのではない。R・マドリーとバルサ「しか」優勝できないことが問題なのである。もっと言えば、彼らがリーグ戦のほぼすべての試合で勝ってしまうことが問題なのだ。
昨シーズンのプレミアリーグはユナイテッドとシティーのマンチェスター勢が勝ち点89で並び、得失点差でシティーが栄冠に輝いた。3位のアーセナルは勝ち点19ポイントの差をつけられてしまったから、「ビッグ2」と呼ぶこともできるだろう。だが、今シーズンはシティーが調子を落とし、チェルシーとユナイテッドが首位争いを展開している。優勝する可能性のあるチームは常に、3チームか4チームはある。
それに比べると、リーガはやはり異常な事態と言わざるを得ない。09−10シーズン、R・マドリーはリーガの最多勝ち点記録を更新したが、それでもバルサには及ばなかった。勝ち点99で優勝できなかったのだ。翌シーズン、R・マドリーは勝ち点92を積み重ね、やはり優勝を逃した。総ゴール数は102ゴール。クリスチアーノ・ロナウドは1人で40ゴールを奪ったが、これはサラゴサの総ゴール数と同じで、それに満たないクラブが4つ、1ゴールだけ上回ったクラブが3つあった。
グアルディオラは3年前、ビッグ2が積み重ねた勝ち点を、「puta barbaridad」と表現した。「とんでもなく野蛮だ」という意味である。昨シーズン、3位のバレンシアは首位のR・マドリーに39ポイントもの差をつけられた。2位のバルサとの勝ち点差は30ポイント。ちなみに、降格したビジャレアルとの勝ち点差が20ポイントだから、バレンシアは優勝する可能性よりも降格圏のほうが近かったことになる。
タレントはすべてビッグ2か国外へ流出
ここで、ガイの真っ当な指摘に戻ろう。スペインの抱える危険は、R・マドリーとバルサ以外の全チームが、ビッグ2を倒すことを諦めているところだ。リーグタイトルを諦めているだけでなく、そもそも試合で勝つことを諦めている。そして、全38試合のシーズンにおいて、優勝の行方はビッグ2の直接対決、つまり「クラシコ」の2試合に委ねられている。もっと言うと、R・マドリーもバルサも、それが問題だと認識していないように見える。そこが何よりも危険なのだ。
ビッグ2の飽くなき欲求は、移籍市場の動きにも表れている。
バルサは欧州中がうらやむ驚異的な下部組織を持っており、そこでビクトル・バルデス、ジェラール・ピケ、カルラス・プジョル、セルヒオ・ブスケ、アンドレアス・イニエスタ、チャビ、ペドロ・ロドリゲス、リオネル・メッシ、セスク・ファブレガスといった選手を育て上げた。にもかかわらず、移籍市場にも存分に大金を投じている。ダニエウ・アウヴェスの移籍金は3600万ユーロ(約36億円)、ダビド・ビージャは4000万ユーロ(約40億円)。アーセナルからファブレガスを取り戻すのに3500万ユーロ(約35億円)を費やした。
R・マドリーの場合はより強烈だ。ユーロ2008で優勝したスペイン代表には、R・マドリーの選手が2 人しかいなかった。これを「屈辱」と考えた彼らは、ラウール・アルビオル、シャビ・アロンソ、アルバロ・アルベロアを連れてきた。世界の歴代高額移籍金ランキングは、1位がC・ロナウド、2位がジネディーヌ・ジダン、3位がズラタン・イブラヒモヴィッチ、4位がカカー、5位がルイス・フィーゴ。お分かりだろうが、4人がR・マドリーへ、残る1人(イブラヒモヴィッチ)はバルサへ移籍した時の金額である。
R・マドリーとバルサにとって、成功は次の成功を引きつけるエサのようなものだ。しかし、他のクラブにとっては、成功は破滅への合図となる。今のリーガでは、努力を重ね、あるいは何かの偶然で成功を手にしてしまったクラブは、才能ある主力選手をビッグ2、もしくは国外のクラブへ引き抜かれる運命にある。
選手の気持ちになってみれば分からなくもない。ビッグ2より給料が安く、優勝する可能性もないクラブでプレーすることに何の意味があるだろう。どうせビッグ2に勝てないのなら、自分が加わればいい。もしくは、他のリーグへ「亡命」すればいい。
R・マドリーとバルサは昔から世界最高のタレントを集めてきたが、ここまであからさまではなかった。チェルシーのフアン・マタは先日、スペインの他のクラブの選手はビッグ2と競い合えないことを自覚していると認めた。彼らにできるのは延命だけだ、と。かつてバレンシアでプレーしていたマタは、親しい記者にこう語ったことがある。「スペインリーグの健全な競争のために、他のクラブも優勝争いに参加できるようになるべきだ」
ここ数年、ビッグ2に所属していなかったリーガの天才たち、例えばセルヒオ・アグエロやディエゴ・フォルラン、ダビド・シルバ、サンティ・カソルラといった選手は、今や続々と国外へ移籍してしまった。もちろんマタもそのうちの一人だ。
一向に合意が進まない放映権料の改善プラン
かつてないほど財政力がサッカーに影響を及ぼす現代において、経済の不均衡はR・マドリーとバルサの支配力を保証する役割を果たしている。その中心にあるのが放映権だ。リーガの放映権はリーグ全体で交渉するのではなく、それぞれのクラブが個別に交渉権を持つ。R・マドリーとバルサの国内放映権は、それぞれ年間1億2500万ユーロ(約125億円)。そこに、チャンピオンズリーグの放映権収入が加わる。彼らが手にしている放映権料は、マンチェスター・Uのざっと3倍に相当する。
だが、ビッグ2に次いで多くの放映権料を手にしているバレンシアの場合は、ぐっと下がって4200万ユーロ(約42億円)になる。これは09│10シーズンにプレミアリーグから降格した時のミドルスブラよりも低い。リーガの下位クラブになると、1500万ユーロ(約15億円)にも満たないチームがざらにある。
ビッグ2と「その他大勢」の差は、1年単位で見ればさほど深刻なものではないかもしれない。だが、5年のスパンで見れば、ビッグ2とバレンシアは国内放映権料だけで4億1500万ユーロ(約415億円)の差がつく。これでどうやってビッグ2と競い合えるというのか?「不可能だ」と言い切るのはセビージャのスポーツディレクターを務めるモンチだ。「リーガは少しずつスコットランドリーグに近づいている」と彼は言う。サラゴサの会長アガピト・イグレシアスは「リーガはクソだ。欧州で最もつまらない」と吐き捨てた。
問題は深刻だ。スペインリーグでは、R・マドリーとバルサ以外のクラブはそもそも、ほとんど利益を出せない。昨シーズンはリーガ全体で総額5000万ユーロ(約50億円)以上の給料が未払いになっていることから、選手協会(AFE)がストライキを行い、開幕が延期された。経済恐慌に苦しむスペインでは公的な補償も徐々に減りつつある。
昨年、スペイン1部の20チーム中18チームによって、共同放映権案が提出された。改革への第一歩だが、この話し合いは対立を生むばかりで全く決着を見ていないのが現状である。
共同放映権は管理しやすく、全体的な収入を増やしやすいが、すべてのチームの条件が同等になるわけではない。提案されているリーグ共同放映権案では、16チームで放映権収入の45パーセントを分配する。そして、55パーセントは残りの4チームに渡る。バレンシアとアトレティコ・マドリーがそれぞれ11パーセント程度を受け取り、R・マドリーとバルサが残る34パーセントを分け合う、というものだ。「もし私がアトレティコかバレンシアのファンだったら逆上するだろう」と話すのはエスパニョールの役員、ジョアン・コレット。「この案に合意することで、彼らは3位争いを受け入れたことになる。要するにリーグタイトルを諦めたことになるのだ」
セビージャのホセ・マリア・デル・ニード会長の言葉を借りれば、A・マドリーとバレンシアは、「自分たちの身を売るバカども」だ。彼は「私はファンを裏切らない」と主張し、この案に合意しないよう、他のクラブに呼びかけ続けている。
一方で、ビジャレアルのフェルナンド・ロイグ会長は現実的だ。彼は「2つのクラブが、他のクラブの15倍もの収入を得るのは普通じゃない」としつつも、「この案以外で彼らの合意を得るのは難しい」と認めた。「リーガに調和をもたらすのは困難だ」と彼は言う。
調和は本当に「困難」なのだろうか?
いや、「不可能」と言うべきかもしれない。R・マドリーとバルサは、自分たちの価値を明確に理解している。政府の発表によると、R・マドリーには1320万人、バルサには1040万人のファンがいるという。3 番目のバレンシアは210万人。ビッグ2以外の試合では、有料放送の視聴者数もわずかだということを、ビッグ2の経営陣は知っている。
ある業界関係者によれば、R・マドリーの対戦カードの有料放送における視聴料は、年間総額で610万ユーロ(約6億1000万円)ほど。バルサは420万ユーロ(約4億2000万円)、A・マドリーは280万ユーロ(約2億8000万円)、アスレティック・ビルバオとバレンシアは100万ユーロ(約1億円)以下だった。つい最近のマジョルカの試合は、視聴者が4000人しかいなかった。課金放送でなかったにもかかわらずだ。更に、昨シーズンのある試合では、視聴者が47人しかいなかったのだという。念のために書き添えるが、これは私のタイプミスではない。たったの「47」だ。
スーパーリーグ構想は見果てぬ夢か、現実か
あるテレビ局のディレクターは、もしR・マドリーかバルサ以外のクラブがリーグ優勝したら「悲劇」だと言う。だが、R・マドリーかバルサが必ず優勝する現実もまた悲劇に違いない。「リーグのためには小さいクラブも必要だ」と言うのは前述のロイグ。「他のクラブが不要というなら、サンティアゴ・ベルナベウでクラシコを15試合、カンプ・ノウでクラシコ15試合やればいい。とんでもなく退屈だと思うが」
セビージャのデル・ニード会長はより大胆な提案をしている。他のクラブが団結し、R・マドリーとバルサを「ポルトガルやフランス、もしくはどこかのリーグに」追い出せばいい、と。
デル・ニードは昨年、スペインのサッカー界が抱える問題を話し合おうと呼びかけ、会合を開いた。ビッグ2以外の全クラブが招待され、すべてのクラブが、原則として改善が必要だという結論に同意した。しかし翌週になると、リーグ機構との話し合いの場で、デル・ニードは孤立していた。裏切られたのだ。
彼を正式に支持したのは、ビジャレアルとエスパニョールだけだった。余計な改革を望まない2つのチームが迅速に動き、陰謀の芽を未然に摘んでしまったからだ。彼らは他のクラブにタイトルの可能性を明け渡すことにも、利益を分配することにも興味がない。
デポルティーボのファンは、「スコットランドリーグになるのは勘弁してくれ」という内容の横断幕を掲げた。「このリーグは金で買われている」とデル・ニードは語気を強める。
だが、もちろん、R・マドリーとバルサは全く気にする素振りも見せていない。
今シーズンの序盤戦、R・マドリーは調子を落としたが、1カ月もするとデポルティーボから5ゴールを奪い、リーガにいつもの退屈な光景が戻ってきた。バルサはグアルディオラが去っても、何の問題もなく連勝を続けている。
そんな彼らを、国外に追いやるという案についてだが……。「ビッグ2のないリーグを作ってくれ」という他のクラブの希望は、そのまま「分かった。俺たちのいないリーグを作ってみろ」と返されてしまうだろう。
ビッグ2には、数年前から構想が出ている「ヨーロッパ・スーパーリーグ」のほうが適しているのかもしれない。チャンピオンズリーグを固定化し、国内リーグを脱退してヨーロッパのビッグクラブだけのリーグを作ろう、というこの構想は、障害が多いために「構想中」のままだ。だが、元R・マドリーのゼネラルディレクター、ホルヘ・バルダーノは「いつかマドリーとバルサは、スペインに永遠の別れを告げてスーパーリーグに乗り出すだろう」と語ったことがある。実際、彼らはそうなることを望んでいるのかもしれない。
しかし、今のところ、スーパーリーグは構想に過ぎず、他国のリーグには歓迎されていない。では、R・マドリーとバルサは2人だけで歩み出すことになるのだろうか?
もしそうだとしたら、ビッグ2を待ち受けるのはスコットランドリーグよりも悲惨な未来のように思える。
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