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“キング”がもたらした新たな熱量、「SAMURAI5」が手にした確かな手応え

2012.11.28

文・写真=軍記ひろし
SAMURAI5
 前半終了時点で2-5。試合を見ていた誰もが「ここまでか」と思ったに違いない。立ち上がりから圧倒的な力の差を見せつけられ、やりたい放題のポルトガル。Fリーグ・名古屋オーシャンズで活躍するリカルジーニョに翻弄され、日本はほとんど見せ場を作れないまま前半終了。最悪のハーフタイムを迎えていた。

 現場で撮影していた私自身も「まあこんなものだ。仕方がない。現実を考えろ」と自分に言い聞かせていた。

 今大会、これまでの競技人生で「見られる」という環境を体験したことのない選手たちは、大会前から過去に例を見ない注目を浴びていた。過去に、ここまでフットサル選手が注目を集めることはなかった。

 連日のスポーツニュースでの報道。練習会場に行けば、何十人という報道陣。そして、W杯開幕直前の壮行試合は、会場が超満員となった。試合前の集合写真撮影では、かつてないフラッシュが選手たちを照らす。出発の空港にまで報道陣が押し掛ける。全てが、今までの日本フットサル界になかった光景だった。

 しかし、彼らはその“カリスマ”の周りに写り込んでしまっただけの人。彼らはその“カリスマ”が挑戦するフットサルというスポーツのチームメイトでしかない。“カリスマ”の存在感からは霞むばかりで、全てのフォーカスポイントは背番号11。多くのサッカーファンの期待と希望の眼差しはその人に向けられていた。「カズ」という稀代のスターがもたらした新しい流れは、同時に「カズ」以外の人間に大きな陰を落としていた。

 陰の存在から脱却し、陰ではなく光が当たるところにいかなくてはならない。

「フットサルは凄い! こんなに面白いんだ!」と、世の中の人たちにプレーを通してフットサルの魅力を伝える使命はカズがいようがいなかろうが、常にあった。

 しかし、今回は陰になったが故に、「俺たちは凄い! 俺たちを見ろ! 俺たちがここまで作ってきたんだ!」。こんな反骨心からくる自分たちにも注目を、という新しい使命が実はでき上がっていた。

 2-5の3点ビハインドで折り返したポルトガル戦。そんな選手たちから感じ取れるはずの爆発しそうなエネルギーを私は感じることなく後半を迎えていた。

 負ければほぼ終わり。ノルマとされた決勝トーナメント進出も叶わず、ただ「W杯に出場しました。残念でした」。そう報道されて終わるギリギリのところでSAMURAI5が覚醒したのだ。

 リスクをかけて攻めるしかなくなったこの状況でパワープレーから北原、森岡、逸見が次々と得点し、格上ポルトガルを相手に5-5。見事な同点劇で、限りなく金星に近い引き分けだった。

SAMURAI5
 きっとこの試合を目撃した人がこれ以上ないくらいに彼らSAMURAI5の今後に期待感が膨らんだ試合だった事だろう。私もこんなSAMURAI5を見た事がなかった。

 その結果はテクニックや戦術がもたらしたものではなかったように思う。勝ちたいと思う熱量。そして俺たちが変えなければならないという熱い思い。それが全てだったように思う。

 私は力が五分と五分の時、それに対する思いの差が強い方に傾くと思っている。しかし、この試合は「思い」そのものの容器のサイズが違っていたんだと思う。違っていなければ結果は違ったものになっていたはずだ。

「見られる、応援される」その事自体が今までのフットサル基準ではなく、カズ基準となり、その注目を裏切りたくないという思い、裏切れないという思い、そんな目に見えないものがもたらした結果であった。

 いつの間にかカズが容器のサイズを増やしてくれたのだ。

 この「思いの分量」を増やしてくれたのが、なによりものカズがもたらしたものだったのだと思う。

 その後、SAMURAI5は次戦のリビア戦に勝利し、初の決勝トーナメント進出は果たしたものの、ベスト16でウクライナに敗れ大会から姿を消した。当初の目標こそ達成したものの、あともう一歩がなく満足のいく結果ではなかった。

 これで終わりではない。今回感じたこの思いの重要性を感じつつ、4年後に向かってまだまだこの「思いの分量」を増やしていかなければいけない。

 このW杯を機にフットサルを知り、そしてフットサルに興味を持ってくれた人も多いだろう。

 日本にはFリーグという国内最高峰リーグがある。そしてリーグ戦も佳境の第3クールに突入する。今シーズンからプレーオフ制度も導入され、優勝争いは最後までわからなくなった。W杯であの終了間際までわからない展開に興奮を覚えた方は是非足を運んでみて欲しい。新しいフットサルの魅力を発見できるはずだから。

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